2年前の2017年5月にシンガポールで行われた、海軍関連の武器展示会「IMDEX Asia」を訪れたとき、「できれば見たい」と思っていたモノの1つが、ラファエル・アドバンスト・ディフェンス・システムズの無人艇(USV : Unmanned Surface Vehicle)「プロテクター」だった。シンガポール海軍が、これを導入しているのは知っていたからだ。

プロテクターとは

「IMDEX Asia」の売りの1つが「Warships Display」。つまり、チャンギ海軍基地における実艦展示で、2017年も今年も、海上自衛隊のヘリコプター護衛艦「いずも」が展示艦に加わっていた。「いずも」の舷門で「日本から来ました」といって、乗組員の方をビックリ仰天させてしまったのは笑い話。

  • 海上自衛隊のヘリコプター護衛艦「いずも」 資料:海上自衛隊ホームページ(https://www.mod.go.jp/msdf/equipment/ships/ddh/izumo/)

閑話休題。ラファエル・アドバンスト・ディフェンス・システムズといってもなじみが薄いかもしれないが、イスラエルにおける防衛関連大手の1つである。同じイスラエルのエルビット・システムズやIAI(Israel Aerospace Industries Ltd.)は、無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)に強い。それに対してラファエルは、同じ飛びものでもUAVではなく、ミサイルに強い。

そんなラファエルが送り出したUSVがプロテクター。といっても、船体から新規に開発したわけではない。そもそも、ラファエルの本業は造船ではない。

船体・機関は既存のRHIB(Rigid Hull Inflatable Boat)を利用している。RHIBとは、中央部の船体下部は硬質素材(たぶん樹脂製)で、高速航行に向いたV型断面。そして、その周囲を中空ゴム製の浮力体で囲んだ構造の小型艇。

ゴムボートと違って、空気を抜いたり畳んだりして小さくまとめることはできないが、ゴムボートよりも高速航行に向いている。また、周囲をゴムの浮力体で囲んでいるので予備浮力は大きく、それが接舷時の防舷材にもなる利点がある。それでいて、普通の小型艇よりも軽くできている。

そのRHIBを手動で操縦する代わりに、測位システムを組み合わせた上でコンピュータ制御で操縦できるようにして、さらにレーダーや電子光学センサー、遠隔操作式の機関砲塔を載せたのがプロテクター。最近では、スパイク対戦車ミサイルを載せたモデルも作られている。

ベースになるRHIBの違いから、全長9mのモデルと全長11mのモデルがある。さすがにこれで本格的な海戦を戦おうという考えはないし、そもそもモノが小さいから荒れた外洋で走り回るには無理がある。

だんら、プロテクターの主な用途としては、フォース・プロテクション(戦力防護)や洋上警備といったものが考えられている。つまり、停泊中している艦艇の周囲を周回しながら警戒に従事したり、港の内部を走り回りながら警戒に従事したりといった用途である。

現物を見てみよう

というわけで、首尾良くチャンギ海軍基地でお目にかかったプロテクターの現物がこれである。これを見て大喜びしていた怪しい訪問者は、筆者ぐらいのものであったかも知れない。

  • これがプロテクターUSV。左が初期型で、右が改良型、改良型の方が大型になっているが、基本的なレイアウトは似ている

本来、RHIBの船体上部は開けた構造になっているが、そこはすべて蓋をしてしまい、その上に小さな上部構造物を設置している。これは、レーダーや通信のためのアンテナと、電子光学/赤外線センサーを搭載するための場所。レーダーは日本の古野電気製で、民生品をそのまま使っている。衝突回避用の航海用レーダーなら民生品でも差し障りはないし、そのほうが安い。

電子光学センサーは旋回・俯仰が可能な球形ターレットになっていて、写真の状態ではセンサーを保護するために裏返しにしてある。独立したターレットだから、艇の進行方向と関係なく、好きな向きに指向できる。電子光学センサーはラファエルが得意とする製品分野の1つで、同社製のTopLiteを使用している。

その構造物の前方に、遠隔操作式の機関銃塔を設置してある。実は、この遠隔操作式の機関銃塔もラファエルが得意とする製品分野のひとつで、こちらも同社製のミニ・タイフーンを使用している。ただし写真を見ると、初期型(9m型)と改良型(11m型)で、異なる遠隔操作式銃搭を使用しているのが分かる。

このプロテクターをどう使用するか。シンガポール海軍における主な用途は港湾警備のようで、事前に設定したコース、あるいはオペレーターが指示した場所を走らせながら、レーダーや電子光学センサーを作動させて監視を行う。得られたデータは当然、陸上にいるオペレーターのところにリアルタイムで送る。

そして、何か不審な人やモノや船などを発見したら、そこに艇を差し向けるというわけ。プロテクターは機関銃を積んでいるから、警告射撃も、ちょっとした交戦もできる。また、上部構造物にラウドスピーカーが付いているから、音声で警告することもできる。

もしも単独で対処できなければ、現場の位置や状況に適した有人プラットフォーム(戦闘機とかヘリコプターとか水上艦とか)を差し向けることになるのだろう。

現実問題として、巡回監視は時間がかかる一方で、実際に何かに遭遇する場面は少ない。そういうところは無人プラットフォームに任せて、具体的な対処や交戦が必要な場面になったらオペレーターによる遠隔操作、あるいは有人プラットフォームが出てくる。典型的な無人ヴィークルの活用法といえる。

シンガポール軍は人的資源に余裕があるほうではないから、少ない人数で効率的に任務をこなすために、無人ヴィークルの活用に熱心である。それにプロテクターは最高速度50ktと足が速いから、見た目以上に機動力がある。

すでに後継計画が

ただ、シンガポール海軍がプロテクターを導入したのは200年代前半の話で、そろそろ寿命に近付いている。そこで後継計画が進んでいるのだが、後継機のヴィーナス16は、全長16m、全幅5m、排水量30t級へとサイズアップする。

これは、プロテクターは衝突回避機能を備えておらず、外洋での哨戒ができない事情が影響しているのだという。もとがRHIBだから、小型で航洋性に劣るという事情もあるのかもしれない。

なお、ヴィーナス16には機雷捜索や機雷掃討を担当する派生型の計画もあるそうだ。無人ヴィークルは大抵そうだが、ペイロード部分はモジュラー化して自由に変更できるようにしておき、さまざまな用途に対応させるのが常道である。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。