パーソナルコンピュータの業界では、メーカー直販サイトで製品の仕様をカスタマイズできるのが通例だ。それが、市中の販売店を経由して販売する場合とメーカー直販を比較した場合の差別化ポイントになっている部分もある。

航空機や武器の世界もカスタマイズは必至

実は、これはパーソナルコンピュータに限った話ではない。航空機、例えばエアライン向けの旅客機でも、カスタマーごとに仕様を変えるカスタマイズが行われている。

また、同じボーイング787-8でも、全日空の機体と日本航空の機体では仕様が異なるし、同じエアラインの機体でも、国内線と国際線では客室の仕様が異なる。

これは武器輸出の場合も同じ。旅客機と同様に、カスタマーからの要望に合わせるためのカスタマイズは不可欠である。したがって、設計段階からカスタマイズを考慮に入れておく必要がある。

では、ここしばらく話が続いている無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)はどうか。同じである。

壱岐空港を拠点として飛行試験を実施したゼネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ(GA-ASI)社のガーディアンは、元をたどると同社のプレデターBという機体だ。

そのプレデターBから派生した機体はいろいろあるが、基本的な機体構造、エンジン、操縦系統は共通している。一方で、ペイロードを変えることでカスタマーが要求する任務に適合させている。

米空軍のMQ-9リーパーは要求項目に「武装化」が入っているほか、搭載している電子光学センサーも高性能のものだ。性能がいいから機密度も高く、アメリカ政府は輸出に厳しい規制をかけている。

なお、米空軍機のイメージが強いので、MQ-9リーパーというと武装UAVとのイメージが強いが、同じMQ-9のカスタマーの中には、非武装で使用している国もある。

民間向けのガーディアンはいうに及ばずだ。当然、MQ-9リーパーと違い、主翼下面に対戦車ミサイルを積むためのラックは備えていない。一方で、主翼下面に船舶自動識別システム(AIS : Automatic Identification System)のアンテナを追加している。

また、ガーディアンは後部胴体の下面にSeaVueレーダーを搭載しているが、MQ-9リーパーは胴体下面には何もつけていない。機首の形状も両者で違いがあるが、その理由はまた回を改めて取り上げる。

  • ガーディアンは当然ながら非武装で、主翼下面にはAISのアンテナが付いているだけ。胴体下面にはSeaVueレーダーを搭載しているため、そのアンテナをカバーする大きなフェアリングが付いている

  • MQ-9リーパーは、主翼下面に兵装パイロンを持つ一方で、胴体下面には何も取り付けていない

他社製品にも似たような話はある。ノースロップ・グラマン社のRQ-4グローバルホークは、米空軍向けの機体だけとってもブロック30とブロック40の2種類があり、搭載するセンサー機器が違う。さらに、米海軍向けのMQ-4Cトライトンという派生型もあり、これはガーディアンと同様に海洋監視に適したセンサー機器に変えてある。

ペイロードは独立させる

民航機でペイロードというと pay load、つまり有償荷重(運賃を取って運ぶ対象物、というぐらいの意味)のことだが、UAVでペイロードといえば、搭載するセンサー機器や兵装のことである。

そして、センサー機器を搭載するための場所は当初から確保して、カスタマーからの要望に応じて、さまざまなセンサー機器を取り付けられる設計にするのが一般的だ。それにより、前述したようにさまざまな派生型を生み出す作業を容易にしている。

もしも、機体とペイロードが完全に一体化していたらどうなるか。カスタマーからの要望に応じてペイロードを変更しようとすると、機体構造から作り直しになってしまう。ペイロード用のスペースを独立させて、固定用の金具や、電源やデータ通信のための配線を施しておくほうが合理的だ。

その代わり、機内に搭載するペイロードは、設置対象となるスペースに合わせたフォームファクタにまとめなければならない。例えばの話、機体側のペイロード・ベイが50cm×80cm×30cmの四角い区画だったら、その寸法に合わせなければならない(もっとも、余りが出る分にはカラッポの空間ができるだけだから、まだしも問題は少ない)。

先にガーディアンのSeaVueレーダーに言及したが、SeaVue自体はガーディアン以外の機体でも搭載事例がある汎用的な製品だ。当然、搭載する機種によって、機体側との物理的なインタフェースも、空力的に整形を施すためのフェアリング(覆い)の形も違う。

これらは物理的なスペースや形状の話だが、電気的なインタフェースの話も関わってくる。機体側で電源供給のための配線とケーブルとコネクタを用意していても、ペイロード側が同じコネクタ、同じ電源規格に対応していなければ、意味がない。また、ペイロードの消費電力が機体側の電源供給能力を超えないようにしなければならない。

データ通信用のインタフェースも同様。物理的なインタフェース(コネクタの形状・サイズ)、電気的なインタフェース(電源の種類、電圧、交流なら周波数)、論理的なインタフェース(データ・フォーマットや通信用のプロトコルなど)がすべて、機体側とペイロード側でそろっている必要がある。

つまり、System of Systemsを実際の製品として実現しようとすれば、こういう地道なところから仕様を統一して、それを遵守する作業が必要になる。これは、パーソナルコンピュータのコンポーネントや周辺機器を手掛けるメーカーなら日常的にやっていることだが、航空機メーカーも武器メーカーもセンサー機器のメーカーも同じなのである。

武器輸出規制への配慮も必要

ことに武器輸出の世界では、性能が良いことは正義だが、それが原因で輸出に制限が付く場合が少なくない。アメリカの製品だと、「NATO諸国には売ってもいいが、中東諸国に売るのはダメ」なんていうことはしばしば起きる。

だから、同じ機能を実現するペイロードでも、カスタマーによって製品を変えなければならない。アメリカにはITAR(International Traffic in Arms Regulations)という武器輸出関連の規制があるが、これにひっかかる高性能の機器は売れる相手が限られるので、それ以外の国にも売れるように「ITARフリー」(ITARの制限にひっかからない)ペイロードを用意している事例もある。実は、GA-ASI社も御多分に漏れない。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。