過去の回で、ゼネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ(GA-ASI)社の無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)、ガーディアンが搭載するセンサー機材について言及した際、地上管制ステーション(GCS : Ground Control Station)の話も出した。これまで、UAVを管制するGCSについてちゃんと解説したことはなかったので、今回はその話を。

GCSとは何か

2016年10月に東京ビッグサイトで開催された「国際航空宇宙展2016」を訪れた方なら、GA-ASI社のブースにGCSが置かれていたのを御覧になっていたかもしれない。デモンストレータ版といっているが、実機を操縦していないだけで、モノは基本的に同じである。

GCSを一言でいうと、「有人機では機内に付いているコックピット一式を外に出して、機体とは無線通信でつないだもの」である。見た目が有人機のコックピットと似てくるのも当然だ。それが機体とペアを組むから、GCSもSystem of Systemsの一員といえる。

ただし、個人あるいは小規模部隊のレベルで運用する、小型で安価なUAVには、そんな御立派なGCSは付けない。そんなことをしたら、コストは上がるし、可搬性は落ちる。だから、小型で安価なUAVは、ノートPCに専用の制御用ソフトウェアをインストールしたものをGCSの代用品として使う。

屋外で使用することを考えると、パナソニックの「タフブック」みたいな頑丈・防塵・防滴形のノートPCが好適で、実際、タフブックをGCSにしている事例は多い。

ただし、キーボードやマウスやタッチパッドで飛行機を操縦するのは無理があるから、ゲーム機みたいなコントローラをつけたり、PC用のフライト・シミュレータで使うのと同じジョイスティックをつけたりすることもある。

話を元に戻す。GA-ASI社の最新型GCSが、どんな操作系で構成されているかを、まとめてみよう。

  • 椅子
  • 6面のタッチスクリーン式ディスプレイ
  • スロットルレバー(エンジンの推力を加減する際に使用する)
  • 操縦桿(左右の傾きと前後の傾きを制御する際に使用する)
  • ラダーペダル(機首の左右の向きを制御する際に使用する)
  • キーボード
  • 無線機
  • GA-ASI社がJA2016で展示していたGCS(デモンストレータ版)

ディスプレイの用途はさまざまだが、主な用途は以下のようになる。

  • 機体の前方と、その左右の風景の表示(機体側のカメラから送られてくるライブ映像が基本)
  • 姿勢、速度、高度などといった飛行諸元の表示
  • エンジンを初めとする、各種機器の状態表示と操作
  • 搭載するセンサーから得られた映像データの表示

「機体の前方とその左右の風景の表示」は、UAVのGCSに特有のもの。有人機なら機体にパイロットが乗っているから、コックピット前方の窓を通して外の風景を見ることができる。UAVはそれができないから、外部の映像を表示するカメラを搭載して、それが撮影するライブ動画を表示する。

どのディスプレイに何を表示するかは、場合によりけり。機体の操縦とセンサーの操作を別々の人が担当する場合には、片方のGCSは操縦に必要な情報だけ、他方のGCSはセンサーの情報だけ、という使い分けもできる。

その他の項目は、基本的に有人機と変わらない。無線機は、有人機のそれと同様に、他の航空機のパイロット、あるいは管制官などと交信する際に使用する。

キーボードは、データの入力や、音声による無線交信の代わりにチャットを使用する場面で登場する。これは冗談ではない。21世紀に入った辺りからだろうか、軍用の通信でチャットが広く使われるようになっている。音声交話と違い、画面をスクロールすれば過去のやりとりを遡って再確認できる利点があるし、やりとりの記録をとるのも容易だ。

実際には、同じ構成のGCSをトレーラーの中に入れて、移動しやすくしている。ただしこのトレーラー、かなり重たいらしい。

  • 壱岐空港に持ち込まれたGCSのトレーラー。左端のドアから出入りする

有人機の操縦とUAVの操縦の違い

UAVといっても、操縦のやり方は有人機と同じである。ただし、自分が機体に乗っていないところが違う。

そのため、機体の動きを体感できないのは有人機との決定的な違いだ。有人機だと、姿勢の変化や振動などが直に身体に伝わってくるが、UAVの遠隔操縦ではそれがない。

また、機体の周囲の状況を直接目視することはできないので、前述したように、機体が備える外部映像用カメラの映像という、間接的な形になってしまう。

ガーディアンUAVの場合、機首下面に備えているセンサー・ターレットを使って、前方以外の状況を映し出させることもできる。ターレットは下面に付いているので、機体より上を見るのは無理だが、機体の下方であれば、全周、どちらにでもカメラを向けられる。

このほか、操作に対するレスポンスでも違いがある。ガーディアンみたいな大型のUAVは見通し線圏外まで進出するから、その場合は衛星通信を使用する。すると、テレビの衛星生中継と同様に伝送遅延が発生する。

機体の側で発生した飛行諸元の変動は、コンマ何秒か遅れてGCSの画面に現れる。それを受けて操縦操作の指令を送ると、これもコンマ何秒か遅れて反映される。それが飛行諸元の変動としてGCSのディスプレイに現れるには、さらにコンマ何秒かかかる。カメラの映像も同様である。

この遅れを考慮に入れて、先読みするように操縦しなければならないのは、衛星通信経由でUAVを遠隔操縦する際の難しさだろう。その代わり、アメリカ本国からアフガニスタン上空を飛んでいる機体を操る、なんていう真似もできる。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。