この半導体ニュースのまとめ
・AI投資の拡大を背景に、2030年の半導体市場予測は1.6兆ドルから2.3兆ドルへ上方修正
・AIインフラ向け半導体売上高は2025年の3300億ドルから2030年には1.2兆ドルへ拡大
・キーサイトは日本の半導体、ロボティクス、材料、光、通信、量子技術の強みを成長機会と位置付け
Keysight Technologiesの日本法人であるキーサイト・テクノロジーは10月7日、パシフィコ横浜で開催した年次イベント「Keysight World 2026: Tech Day Japan」に合わせ、メディアブリーフィングを開催した。
説明を行った同社 代表取締役社長の寺澤紳司氏は、AIの普及に伴って半導体市場と顧客の製品開発が変化しているとして、AIが牽引する市場の動向、次世代イノベーションを支えるキーサイトの役割、日本における取り組みを説明した。
寺澤氏は、AIコンピューティングと半導体メモリが半導体市場の成長を牽引する一方、今後は個々の半導体の性能だけでなく、それらを組み合わせたシステム全体の性能を高める「システムレベルスケーリング」が重要になるとの見方を示した。
また、半導体の製造能力が国家の戦略的インフラとして扱われるようになったことに加え、電動化とインテリジェントシステム、次世代コネクティビティ、量子を含む新たなコンピューティング技術が、半導体産業の構造を変化させているとした。
2030年の半導体市場は2.3兆ドル規模へ
キーサイトが示したMcKinsey & Companyの市場予測によると、2030年の半導体市場規模は、2025年秋時点の1.6兆ドルという予測から、2026年9月時点には2.3兆ドルへ約44%上方修正された。
背景には、AIインフラへの投資加速、先端プロセスを用いるロジック半導体とメモリの価格上昇、データセンターの増設に伴う供給量の増加があるという。
寺澤氏は、1年間で予測が44%引き上げられるのは自身の記憶でも初めてだと説明。AIデータセンター向け部品の需要拡大が、ほかの用途における半導体や関連部品の供給にも影響を及ぼし始めているとした。
AIへの投資によって半導体市場全体の成長見通しが従来の想定から変化する中、キーサイトでは、成長の中心と新たな価値が生まれる領域を見極め、顧客の開発フェーズに応じた支援を展開する方針だという。
AIインフラ向け半導体だけで2030年に1.2兆ドル規模へ
AIインフラ向け半導体の売上高だけをとっても、2025年の3300億ドルから2030年には1.2兆ドルへと拡大。年平均成長率は29%になると予測されている。
AIインフラの拡大で必要になる半導体は、AIアクセラレータなどの演算用ロジックだけではない。大規模なAIモデルを処理するためのDRAMやHBM、データを高速伝送するネットワーク関連の半導体、電力を効率的に供給するパワー半導体なども含まれる。
2030年までに生み出される半導体市場の価値のうち、AIアクセラレータを中心とする先端プロセスノード製品を含む先端ロジックが7100億ドル、DRAMやHBMを中心とするAI向けメモリが5600億ドルを占めるとの予測も示された。
両分野を合わせた増額分の価値は約1.27兆ドルに上る。これとは別に、コネクティビティ、FPGA、パワー半導体など、先端プロセス以外の成熟プロセス分野でも約1000億ドルの価値が見込まれている。
こうした成長を実現するためには、設計の複雑化、1パッケージ当たりの集積度向上、3D IC化や先端パッケージングへの対応に加え、開発した製品が所定の性能を発揮できるかを短期間で検証する必要がある。
AIインフラはチップ単体では成立しない
寺澤氏は、AIインフラの性能は半導体単体だけでは決まらず、チップからボード、サーバ、ラック、データセンター、エッジまでを統合したシステムとして捉える必要があると説明した。
AIシステムでは、演算性能の向上に伴ってチップ間やシステム間を流れるデータ量が増加する。そのため、演算用半導体の性能を高めるだけではなく、チップ間の接続、メモリ帯域、ネットワーク、電力供給、冷却などを一体的に最適化する必要がある。
キーサイトは、AIインフラをプリシリコン、ウェハ、チップ、ボード、サーバ、ラック、データセンター、エッジという階層で捉えている。
プリシリコン段階ではGPU設計の検証やチップレット間接続のシミュレーション、ウェハ段階では自動ウェハテストや光部品の検証、チップ段階ではシリコンの検証や高速I/Oの測定を支援する。
さらに、ボード上の信号品質や電源品質、サーバ内の高速プロトコル、ラック内の光・電気インターコネクト、データセンターのネットワーク性能やAIワークロード、エッジ側の5G・6Gや非地上系ネットワークまでを対象とする。
設計から量産最適化までを一貫して支援
製品開発の複雑化に対応するため、キーサイトは顧客のワークフローを設計、エミュレーション、試作、テスト、製造、最適化の各段階に分け、ソフトウェア、ハードウェア、サービスの3層で支援する戦略を掲げている。
設計段階では、シミュレーションソフトウェアを用いて、設計した回路やシステムが想定通りに動作するか、規格や要求を満たせるかを確認する。
エミュレーション段階では、デジタルツインによる仮想試験を活用し、実物を製作する前にシステムの挙動を検証する。試作後は、計測器を用いて信号や電力などの物理量を測定し、設計時に想定した性能が得られているかを評価する。
量産段階では、自動試験や校正、製造ラインのデータ解析、欠陥検出などを支援。量産開始後も継続的な性能検証を行うことで、歩留まり向上やコスト削減につなげる。
また、ソフトウェアとハードウェアだけでは解決できない技術課題に対しては、計測や解析に関する専門家が設計から量産までを横断して支援するという。
売上高の22%をソフトウェアが占める
キーサイトの2025年度売上高は54億ドルで、事業別では通信分野が25億ドルで全体の46%、半導体や自動車などの電子産業分野が16億ドルで31%、航空宇宙・防衛・政府向けが12億ドルで23%を占めた。
地域別では、米州が41%、ならびに日本を含むアジア太平洋が41%、欧州が18%。100か国以上で4万を超える顧客に製品やサービスを提供しているほか、売上高に占めるソフトウェアの比率は22%まで拡大したとする。
計測器メーカーとして知られる同社だが、設計やシミュレーション、デジタルツイン、テスト自動化、製造データ解析などへと事業領域を拡大してきた。AIや6Gなどでは、実際のデバイスやシステムが存在しない研究開発の初期段階から動作を予測し、仮想環境で検証する必要があるため、ソフトウェアの重要性が高まっていることが背景にある。
寺澤氏は、ハードウェアとソフトウェアの将来的な売上比率について明確な目標値は示していないとしながらも、顧客が必要とする開発環境を踏まえると、ソフトウェアがさらに必要になるとの判断から、買収を含めて戦略的な投資を進めているとし、今後もソフトウェアの役割が高まっていくことを強調していた。
AIを顧客支援、製品、自社業務の3方向で活用
また、産業分野でも活用が進むAIへの取り組みについては、AIを開発する顧客への支援、自社製品へのAI搭載、自社業務におけるAI活用という3つの柱で考えているとのことで、すでに一部の製品やソリューションではAIの実装が進んでいるほか、開発中の機能もあるとする。
例えば半導体分野では、Rapidusとの戦略的協業において、製造データの解析にAIを活用している。これにより、従来は把握できなかった歩留まり低下の要因や問題点を指摘できるようになってきたという。
また、AIデータセンターでは、GPUなどを接続する多数のケーブルやインターコネクトを測定し、仕様を満たしているかを判断する必要があるが、増加し続ける測定データを人手だけで解析することは難しく、結果の解析や異常の検出にAIを組み込むことが重要となるとするほか、AIを用いて測定項目や実行順序を最適化し、限られた測定器や時間を効率的に配分することも想定しているとし、シミュレーションからエミュレーション、実測、結果解析まで、製品開発の広い範囲へAIを組み込んでいく方針としている。
日本は次世代AIを支える技術の種を持つ重要市場
キーサイトは、AI時代における日本を重要市場と位置付けている。背景には、日本はAI半導体の研究開発や製造投資に加え、フィジカルAIを支えるロボティクスとメカトロニクス、先端パッケージングや光インターコネクトへ応用できる材料科学とフォトニクス、高速通信、電力、量子コンピューティングなどに強みを持つことなどがあるという。
GPUなどの演算用半導体では海外企業が先行する一方、AIシステムを構成するケーブル、半導体パッケージ、材料、光学部品などの周辺分野では日本企業の技術力が重要になっており、それらを組み合わせることで初めてシステムとして構成されることとなる。例えばAIロボットでは、モーション制御や自律動作だけでシステムが成立するわけではなく、長時間にわたって安定して動作させるための電力制御や、ロボット同士やデータセンターとの接続に必要な安定した通信の確立、周辺環境を認識するためのセンシング技術などをすり合わせる必要があり、それが1つの国の中でまとめあげることができる稀有な国が日本ということとなる。
八王子と神戸の開発拠点から世界市場へ展開
また、キーサイト自身も日本国内に八王子と神戸に開発拠点を持ち、実際に開発された製品の製造も行い、自社のグローバルネットワークを通じて100か国以上の顧客へ提供されている。
八王子の開発チームが半導体向け計測・解析技術を担当し、先端プロセスやAIインフラ向け半導体の開発を支援する装置として販売が行われてきた。例えば、Rapidusとの戦略的協業では、製造データを解析し、歩留まりの向上とプロセスデザインキット(PDK)の高精度化を支援することに活用されているという。
一方の神戸の開発チームは高周波計測技術を強みとしており、2026年6月にはスペクトラムアナライザ「Expert XA5」を発売した。高速かつ広帯域の2チャネル信号解析により、複雑化する無線システムの設計と検証を支援するという。また、NTTイノベーティブデバイス、Lumentumとの共同実証では、1レーン当たり448GbpsのPAM4伝送を実証したとのことで、次世代光通信やAIインフラで必要となる高速インターコネクトの実現につなげることが期待されるとしている。
北大の半導体ラボに計測器50台以上を寄贈
キーサイトは、国内における次世代エンジニアの育成にも取り組んでいる。
大学や高等専門学校へ計測器を継続的に寄贈しており、北海道大学の半導体プロトタイピングラボには50台以上の計測器を提供した。学生が最新の計測技術を用いて次世代半導体の研究を進められる環境を整備する狙いがある。
計測器の寄贈に加え、大学向けには「高周波計測工学」の寄附講義を2005年から継続して開催してきた。2026年度は、東京科学大学、東北大学、北海道大学、九州大学、広島大学の5大学で実施。講義は高周波技術に関する座学と実際の測定を組み合わせたもので、短い場合でも3日間、長い場合は一週間程度にわたって実施されるという。
加えて、インターンシッププログラムも行っており、国内の学生に広く門戸を開く形で製品開発を体験する研究開発系のプログラムに加え、技術的な知識を用いて顧客課題へ対応するソリューションエンジニアリングや営業分野のプログラムも用意する。
標準的な期間は5日間で、同社の専門家がマンツーマンで指導する。学生が大学で学んだ技術を実際の製品開発や顧客支援へどのように生かせるかを体験できるようにしているという。
「電子計測器の会社」から設計・製造全体を支える企業へ
寺澤氏は、キーサイトについて「もはや電子計測器の会社ではない」と説明した。
物理量を正確に測定するために活用されるハードウェアは引き続き事業の基盤となる一方、技術の複雑化によって、人の手だけでは大量の測定データを処理できなくなっている。
このため、ソフトウェアやAIを用いてデータを解析し、ハードウェア、ソフトウェア、専門家をつなげながら、顧客の設計から製造、量産後の最適化までを支援する必要があるという。
AIによって半導体やシステムの集積度が高まり、インターコネクト、電力、冷却、センシングを含めた統合検証が求められる中、計測の役割も完成した製品を評価するだけではなくなりつつある。
キーサイトは、シミュレーションやデジタルツインを用いた設計初期の仮想検証から、試作機の実測、製造データの解析、歩留まり改善までをつなぐことで、日本企業が持つ材料、パッケージング、光、通信、ロボティクスなどの技術を、次世代AIシステムへ結び付け、産業競争力の向上につなげていくための支援としていきたいとしている。






