
ダボス会議に参加していた頃、「世界のルールは、こういう場所でつくられているのかもしれない」と感じたことがある。きっかけは、あるグローバル企業のトップが、一週間の会期中、会議場の公式イベントの中で、聴講するセッション数は2つ程度だと聞いたことだった。
では何をしているのか。予定の多くは、クローズドな会合や会議場の外で行われる1対1の面談だった。
「ダボスは一度来ただけでは意味がない」とも言われた。何度も参加し、コミュニティのインナーになって初めて意味を持つという。そこで築かれるのは、組織同士というより人と人との関係である。トップ同士が秘書や第三者を介さず、直接連絡を取り合える関係になっていく。
考えてみれば当然かもしれない。新しいルールをつくり、大きなことを動かそうとするとき、誰と組むか。最後は、人間として信頼できる相手を選ばなければ、ルールの実効性どころか、互いに譲り合ってルールそのものを生み出すこともできないはずだ。
世界のトップリーダーたちも、そうした信頼関係を積み重ねながら、新しい潮流を生み出しているように見えた。
そう考えると、日本の経営者がこのパーソナルな関係性の輪に入れるかどうかは、日本が世界のルールづくりに関与できるかどうかにもつながってくる。かつて日本の経済力や成長力が圧倒的だった時代には、こちらから入っていかなくても声がかかったのかもしれない。
しかし今は違う。日本には、ものづくりの技術やデータの集積など、依然として大きな強みがある。一方で、日本抜きでは物事が決められないという存在ではなくなりつつあることにも目を向ける必要がある。
だからこそ、日本のトップリーダーには、自ら世界のコミュニティのインナーに入っていく努力が必要だ。ダボスだけではない。世界各地で開かれる主要な国際会議に参加すると、同じ顔ぶれを何度も見かけ、時には、こうした常連のメンバーが会議のボードメンバーやアドバイザーに並んでいる。
つまり、国際組織のボードメンバーなども、こうした人間関係の中で信頼を得た人が、次の人を紹介していくことが少なくない。
リアルにその場にいること。そして何度も会い、パーソナルな信頼関係を築くこと。それができる経営者を、日本の経済界として意識的に支援し、次の世代も育てていく必要があるのではないだろうか。
世界が不安定さを増す今だからこそ、政府間の外交だけでなく、民間のトップ同士が直接話せる関係は重要になる。世界を動かすルールの根底にあるのも、最後は人と人との信頼なのだと思う。