1Gという重力環境で進化してきた人類にとって、微小重力環境は身体に物理的に多大な変化をもたらす。たとえば骨に関しては、骨に加わるメカニカルストレス(機械的・物理的な力)が大きく減少するため、骨量の減少が地上の約10〜30倍の速度で進行し、骨密度の急激な低下を招いて骨粗鬆症のような状態となることが知られている。
骨は、メカニカルストレスを感知してリモデリング(再構築)を調節しているが、近年では、骨に投射する感覚神経が骨恒常性の制御に重要な役割を果たしている可能性が示されつつある。しかし、メカニカルストレスの変化に応じて感覚神経がどのように変化し、骨代謝を調節しているのかはこれまで分かっていなかった。
東京科学大学と筑波大学は、遺伝子改変マウスを用いた国際宇宙ステーション(ISS)の日本宇宙実験棟「きぼう」での実験に加え、尾部懸垂モデルおよび後肢不動化モデルを用いた地上実験を実施。メカニカルストレスによる骨恒常性の調節における骨内感覚神経の役割を包括的に解析した結果、骨への重力負荷やメカニカルストレスが減少すると、骨内に投射する感覚神経が減少し、それに伴って骨量も低下することが分かったと、8月28日に共同発表した。
-

研究概略図。(左)宇宙環境や尾部懸垂などにより骨へのメカニカルストレスが減少すると、骨内に投射する感覚神経が減少し、骨は骨粗鬆症に近い状態に陥る。(右)一方、メカニカルストレスを加えると、骨内に投射する感覚神経が再伸張し、骨量も回復する。しかし、神経除去などで感覚神経の投射が障害されると、メカニカルストレスを加えても骨量の回復は見られなかった (出所:科学大Webサイト)
同成果は、科学大病院 がん先端治療部/緩和ケア科の佐藤信吾准教授、科学大大学院 医歯学総合研究科 整形外科学分野の吉井俊貴教授、同・辻野昭平大学院生、国立障害者リハビリテーションセンター研究所の越智広樹研究員(現・埼玉医科大学 医学部 免疫学 講師)、筑波大 医学医療系の村谷匡史教授、順天堂大学の赤澤智宏教授に加え、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の研究者も参加した共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の骨学を扱うオープンアクセスジャーナル「Bone Research」に掲載された。
骨はどのように恒常性を保っているのか?
日本では、高齢化の進行に伴う骨粗鬆症や脆弱性骨折が深刻な社会問題となっている。中でも、長期臥床や身体活動の低下によって骨へのメカニカルストレスが減少すると、骨量が低下し、骨折リスクの増加を招く。また、宇宙滞在も骨密度や筋肉量の急激な低下を引き起こすことが知られている。そのため、メカニカルストレスが骨の恒常性を維持しているメカニズムの理解は、健康寿命の延伸につながる新たな治療戦略の開発に不可欠と考えられている。
近年、感覚神経が骨恒常性の制御に重要な役割を持つ可能性が注目されているが、メカニカルストレスの変化に応じた感覚神経の変化や骨代謝の調節機構は未解明のままだ。そこで研究チームは今回、以前開発した骨内神経を三次元的に可視化する技術「Osteo-DISCO法」を用いて、骨へのメカニカルストレスの変化に伴う骨内感覚神経の変化を詳細に観察することにしたという。
今回の研究成果
今回の研究では、「きぼう」実験棟での実験に加え、尾部懸垂モデルおよび後肢不動化モデルを用いた地上実験を通じ、メカニカルストレスによる骨恒常性調節における骨内感覚神経の役割の包括的な解析が実施された。
まず、神経線維が緑色蛍光で標識された「Sox10-Venusマウス」をISSで3週間飼育し、Osteo-DISCO法を用いて「下肢長管骨」内の神経の可視化が行われた。その結果、地上で飼育した対照群と比べて海綿骨量が有意に低下すると同時に、骨内の神経も著しく減少していることが確認された。同様の変化は、尾部懸垂または後肢不動化を3週間行った後肢免荷モデルマウスでも観察された。
さらに、尾部懸垂マウスの下肢長管骨と、感覚神経の細胞体が集まる「後根神経節」についての組織学的な解析が行われた。その結果、骨内では「TrkA陽性」および「カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)陽性」の神経線維が減少している一方、後根神経節では感覚神経細胞数に変化がないことが判明した。この結果から、メカニカルストレスの減少による骨内神経の減少は、神経細胞そのものの減少ではなく、骨内への軸索伸長が抑制された結果である可能性が示された。
また、メカニカルストレスを減少させた骨に再び負荷を加えると、骨内に投射する感覚神経が増加し、それに伴って骨量が増加することが明らかにされた。
次に、骨内感覚神経が骨恒常性に果たす役割を検証するため、感覚神経末端から分泌されるCGRPが尾部懸垂マウスに投与された。すると、メカニカルストレスの減少による海綿骨量の低下が抑制されることが実証された。
さらに、骨内に投射する感覚神経が、メカニカルストレスの増加(尾部懸垂後の再荷重)による骨量回復に不可欠なのかどうかを検討するため、脛骨内に侵入する神経を外科的に切離する「外科的除神経モデル」と、感覚神経を選択的に障害できる「Advillin-Cre; DTR floxedマウス」を用いた「遺伝子改変除神経モデル」が構築された。
いずれのモデルでも、感覚神経が障害された骨では再荷重後の骨形成や骨量増加が認められず、感覚神経がメカニカルストレスに応じて骨恒常性を調節する重要な役割を担っていることが示された。
今回の研究により、骨内に投射する感覚神経が骨恒常性の維持に重要な役割を担っていることが明らかにされた。この発見は、従来の骨粗鬆症治療とは異なる新たな創薬や治療法の開発につながる可能性があるだけでなく、廃用後の早期離床や運動療法の有効性を科学的に裏付ける成果でもあるという。
さらに、近年は各国の宇宙機関や民間企業による宇宙開発が加速し、月の有人探査は秒読み段階となり、将来の火星有人探査も現実味を帯びつつある。今回の研究成果は、長期宇宙滞在に伴う骨量低下の予防など、宇宙医学の発展にも貢献することが期待されるとしている。


