シュナイダーエレクトリックは9月3日、日本のAIデータセンター市場に向けた事業体制を強化すると発表した。営業、設計・エンジニアリング、サービスを一体化し、電力・冷却設備の提案から導入、長期運用までを一貫して支援する。

AIデータセンターの巨大化、電力と冷却が設計の課題に

説明会の最初に登壇した、シュナイダーエレクトリック カントリープレジデントの青柳亮子氏は、フランスを本社とする同社の強みについて触れた。同社はエネルギーマネジメントと産業オートメーションを中核とするエナジーテック企業で、2025年のグループ全体収益は402億ユーロ(約7兆円)となり、世界100カ国で事業を展開している。同社の強みは製品のラインアップのみならず、電力系統からデータセンター内部、チップの冷却まで電力とエネルギーの流れを1つのシステムとして扱えることにある。

青柳氏は、昨今のAIデータセンターに関して「これまで個別に設計されていた電力制御やソフトウェア、サービス、冷却までを統合する必要がある。高密度なGPUは電力消費が大きく、熱を発生するため電力と冷却がデータセンターの設計における主な課題となっている。従来、データセンターは主に規模の拡大だったが、AIデータセンターはアーキテクチャそのものを変革する必要がある」との認識を示した。

  • シュナイダーエレクトリック カントリープレジデントの青柳亮子氏

    シュナイダーエレクトリック カントリープレジデントの青柳亮子氏

これまでデータセンターの規模は数十MW(メガワット)~100MWが中心だったが、近年では1GW(ギガワット)や5GW、7.5GWと都市の電力需要にも匹敵する規模にまで拡大している。これほどの規模のプロジェクトの成否を分けるのはGPUの調達競争だけではなく、電力インフラとプロジェクトの遂行能力が求められるという。

同氏は「AIデータセンターは設計、サプライチェーン、建設、運用が相互に依存している。たとえば、設計上の判断は調達期間を左右し、調達の遅れは建設工程に波及する。さらに、建設段階の判断は運用コストや保守にも影響する。したがって、個々の機器が高性能であっても工程ごとに担当が分断されているとプロジェクト全体として最適になるとは限らない。AIデータセンターの市場で勝つのは性能だけではなく、複雑なプロジェクトを最後まで統合して遂行する能力だ」と話す。

日本のAIデータセンターが直面する3つの課題

一方、海外のAIデータセンターの設計を日本にそのまま持ち込むには3つの課題がある。1つ目は電力接続で系統接続や送電容量には制約が存在し、日本固有の50Hz、60Hzと地域差などもある。

2つ目は日本仕様への適合となり、電圧区分や施工・保守の慣習に合わせた再設計が必要となる。3つ目は人材不足で、プロジェクト全体を管理できる人材が不足している点を挙げている。

青柳氏は、日本市場では世界標準の技術を国内の安全基準や制度、既存設備に適合させるエンジニアリング能力が競争力を左右すると指摘する。市場の巨大化と国内固有の制約に対応するには、製品・工程ごとに分断された体制ではなく、設計から運用までの責任を一貫して担う体制が必要だとして、新組織の整備に踏み切った。

  • 日本特有の制約がAIデータセンター設計の課題に

    日本特有の制約がAIデータセンター設計の課題に

新体制は、ソリューション提案を担うC&SP(クラウド&サービスプロバイダー)セグメントのキーアカウントチーム、設計・プロジェクト管理を担う「Japan One Solution Center」、現場での導入・保守を担うサービス事業部がシームレスに連携し、AIデータセンターのライフサイクル全体を支援する。

  • 営業から保守までを一体化する新組織体制

    営業から保守までを一体化する新組織体制

営業・設計・保守を一体化、AIデータセンターの新体制

営業提案を担うC&SPセグメント向けキーアカウントチームは、日系・外資系メーカーで鉄道やメガソーラーなどの高圧電力インフラに関する技術知識と営業・マーケティング経験を持つ原博紀氏が、2026年3月からキーアカウント営業の統括を務めている。さらに9月1日付で、パワーシステム事業部の統括も兼務する体制とした。

  • シュナイダーエレクトリック C&SP セグメント ジャパンリードの原博紀氏

    シュナイダーエレクトリック C&SP セグメント ジャパンリードの原博紀氏

また、GPUの高密度化に伴い急速に高まる液体冷却技術への需要については2025年にシュナイダーエレクトリックが買収し、取り扱いを開始したMotivairのCDU(Coolant Distribution Unit:冷却液分配ユニット)の日本市場での売上は、2026年上半期だけで前年通年の5倍に拡大したという。

  • Motivairを活用した液体冷却ソリューション群

    Motivairを活用した液体冷却ソリューション群

  • Motivairの外観

    Motivairの外観

設計・プロジェクト管理を担うJapan One Solution Centerは、シュナイダーエレクトリックがグローバルで展開する統合型プロジェクトデリバリーモデルの日本拠点として、テンダリング、設計・エンジニアリング、プロジェクト管理を担い、日本市場固有の要件とグローバルの知見を融合したソリューションを提供する。データセンターや重要インフラ向けの大型案件において、提案・設計・プロジェクト管理を統括する専門組織として、グローバルで4300人以上が所属するOne Solution Centerの知見を日本市場で活用していく。

  • One Solution Centerの概要

    One Solution Centerの概要

エンジニア200人増員、2028年にサービス能力1.5倍へ

現場でのエンジニアリングを担うサービス事業部は、成長しつつある西日本のデータセンタープロジェクトを支えるため、2026年3月に大阪でサービスチームの拠点を新設し、全国のデータセンター顧客への支援体制を強化した。さらに9月1日付で、サービスセールス・サービスオペレーションの統括経験を持つ、中村圭佑氏がサービス事業部のバイスプレジデントに就任した。

  • シュナイダーエレクトリック サービス事業部の中村圭佑氏

    シュナイダーエレクトリック サービス事業部の中村圭佑氏

2~3年前と比べて同一工期で従来の約5倍規模となる設備立ち上げが求められる中、データセンター事業者に対して品質を確保しながら、短期間でコミッショニングを完了することが課題となっている。特にAIデータセンター需要の拡大に伴い、立ち上げ遅延や検査不備は高機能なサービス提供の妨げとなるため、設計段階や工場検査段階からサービスエンジニアを参画させ、手順を標準化したうえで現地コミッショニングを実施している。

また、設備は20年~30年にわたり運用されることから、点検や修理に加え、継続的な改善や増強によって資産価値を維持することも重要だ。受配電設備のデジタルツインを活用し、サーバ増設時の影響や電力系統の安全性を事前に検証することで、停止リスクの抑制を図っている。

さらに、需要拡大に対応するためサービス体制の強化も進めており、過去2~3年でエンジニアを200人増員し、パートナー企業数を2倍に拡大したほか、グローバル共通の育成・認定フレームワークを活用しながら、4時間以内の対応体制を維持し、2028年までに現在の1.5倍のサービス提供能力を目指している。

  • 構築から運用まで支援するサービス事業部の役割

    構築から運用まで支援するサービス事業部の役割

青柳氏は「国内のデータセンター関連ビジネスで2025年~2030年までのCAGR(年平均成長率)は30%以上を目指し、2030年までに現在の約2倍の規模へ成長させることを目指す。これは製品の販売拡大だけでなく、一貫したエンドトゥーエンドのソリューションを提供し、お客さまの成果に対して責任範囲を広げることで実現していく。そのために、日本の開発、エンジニアリング、プロジェクトマネジメント、サービスの能力を強化する。世界の技術を単に日本に持ち込むだけでは十分ではなく、重要なのは、その技術を日本で確実に動くインフラとして実装することだ」と述べていた。