コケ植物のみを食べて成長・繁殖する特異な習性を持つ「マルヒシダニ属」の2種が新種と判明。京都大学が8月19日に発表した。
日本国内に広く存在するマルヒシダニ属(Eustigmaeus、以下E.)の未記載種を解明するため、本州・四国から採集された同属5種を対象に、京大の研究グループが形態やDNA配列に基づく分類学的研究を実施した結果、判明したもの。学名「E. specialis」(和名:サワゴケマルヒシダニ)および学名「E. saxicola」(和名:コウギョクマルヒシダニ)と命名し、新種として記載した。
さらに、極東ロシアから知られていた「E. grandis」を日本初記録種として確認し、「オオマルヒシダニ」の和名を与えたことも、あわせて発表した。
同成果は、京大大学院 理学研究科の池田颯希大学院生、同・今田弓女助教、同・中野隆文准教授らの研究チームによるもの。詳細は、欧州の自然史研究機関が共同発行する、動物・植物・菌類・古生物の分類学を扱うオープンアクセスジャーナル「European Journal of Taxonomy」に掲載された。
ダニ類は、幼虫時代が6本脚(3対)のため、一見すると昆虫と思われるかも知れないが、脱皮を経て8本脚(4対)となるため、昆虫ではない(一部に退化して脚数が少ない例外も存在する)。分類学的には、クモ類やサソリ類などと同じ節足動物門クモガタ綱(ダニ目)に属する。多岐にわたる食性を持つことが特徴であり、地球上のあらゆる環境に生息し、さまざまな生物と複雑な種間関係を構築している。
陸上植物を餌や生息場所とするダニ類のうち、植物食性の大部分は維管束植物を対象とするが、その中でナガヒシダニ科に属するマルヒシダニ属の仲間は例外的に、コケ植物のみを摂食・利用するという特異な習性を持つ。コケ食性の進化は節足動物全体を見渡しても珍しい現象であることから、植物と動物の進化史の理解を深める上で、同属の分類研究は非常に重要な意義を持っている。
マルヒシダニ属は世界で140種以上が知られ、落葉層や樹皮、地衣類、コケ植物などの多様な環境に生息するほか、昆虫に寄生する種も存在する。研究チームは、日本におけるマルヒシダニ属のコケ食性種の種多様性を解明するため、大規模な野外調査を継続的に実施してきた。2024年の論文では、形態および分子形質により区別される10種を認め、「Eustigmaeus spp. 1-10」と仮にラベリングして報告していた。
これら10種のうち5種については、先行研究で分類学的手続きが完了しており、それぞれ以下の通りに整理・報告されている(カッコ内は和名)。
- E. imadae Ikeda & Nakano, 2024(ネズミノオマルヒシダニ)
- E. extremiorientalis Khaustov, 2016(イチゴマルヒシダニ)
- E. asper Ikeda & Nakano, 2025(ヤスリマルヒシダニ)
- E. pseudolacunus Khaustov, Kravchenko & Kazakov, 2023(カサブタマルヒシダニ)
- E. rhodomelus(Koch, 1841)(センマルヒシダニ)
そこで今回の研究では、未解明のまま残されていた残りの5種について調べることにしたという。
研究では、対象となった5種について詳細な形態形質の精査と、ミトコンドリアDNAのCOI遺伝子配列に基づく系統解析が行われた。既知種との厳密な比較の結果、2種が未報告の固有の特徴を備えていることが明らかとなり、新種「E. specialis」と「E. saxicola」として正式に記載された。
新種E. specialisは、サワゴケ属を特異的に食する生態にちなんで「特殊化した」という意味の「specialis」の種小名が付けられ、和名として「サワゴケマルヒシダニ」が提案された。もう1つの新種E. saxicolaは、好んで岩肌のコケ植物に生息する傾向があることから「岩肌に棲むもの」を意味する「saxicola」の種小名が付けられ、紅色に輝く宝石のような外見からとって「コウギョクマルヒシダニ」の和名が提案された。また、極東ロシアで初記載された「E. grandis Khaustov, 2019」を日本初記録とし、その大柄な体格に由来する「オオマルヒシダニ」の和名が提案された。
残る2種は分類の確定に向け追加検討の余地があるため、「〜と比較せよ」という意味の「cf.」を付し、「E. cf. etruscus(Berlese, 1910)」および「E. cf. clavatus (Canestrini & Fanzago, 1876)」として暫定的な報告が行われた。なお、E. specialisとの精密な比較のため、形態的に類似する「E. kauaiensis Swift, Gerson & Goff, 1985」のホロタイプ標本を、ダニなどの節足動物に関する研究の一大拠点であるハワイのバーニス・パウアヒ・ビショップ博物館から借用し、補足的な再記載も併せて行われた。
日本産のマルヒシダニ属は、1980年に報告された4種のみが長らく知られているに過ぎなかった。しかし、研究チームによって2024年から現在までに本州・四国の13県39地点から10種が報告され、14種にまで記録が拡大した。一方で、依然として報告されていない種が日本のコケ植物には多く潜んでいると推測されており、種多様性の全貌を把握するにはさらなる研究が必要不可欠であるとしている。
