東海大学は、「単層カーボンナノチューブ」(単層CNT)を用いた熱電素子において、基板を変えるだけで同じ薄膜素子を「電源」と「熱流センサ」として使い分ける技術を開発したと、8月7日に発表した。

  • 赤外線を通すCOP基板(左)と吸収するPEN基板(右)に、同じ薄膜を貼った際の表面温度変化。COP基板では中央部が高温に保たれ、PEN基板では中央が低温化する。この温度差の向きが電圧の極性を決定する(数値は掲載論文の値) (出所:東海大Webサイト)

    赤外線を通すCOP基板(左)と吸収するPEN基板(右)に、同じ薄膜を貼った際の表面温度変化。COP基板では中央部が高温に保たれ、PEN基板では中央が低温化する。この温度差の向きが電圧の極性を決定する(数値は掲載論文の値) (出所:東海大Webサイト)

同成果は、東海大大学院 工学研究科 応用理化学専攻の玉井涼太大学院生(研究当時)、同・中山大翔大学院生、同・落合秀弥大学院生、東海大 工学部 応用化学科の高尻雅之教授らの研究チームによるもの。詳細は、自然科学全般の先端領域を扱う総合オープンアクセスジャーナル「Advanced Science」に掲載された。

材料の両端に温度差を与えると電圧が生じる「ゼーベック効果」を利用し、熱を電気へ直接変換する素子は「熱電素子」と呼ばれる。従来の熱電素子は、温度差をつくるために低温側を冷却板やファンで冷やす必要があり、設置場所や用途が制限される課題が存在した。また基板は、これまで薄膜を保持する台座として扱われており、素子機能に対する役割は十分に解明されていなかった。

そうした中、重金属を含まず環境負荷が小さい熱電材料として注目されるのが単層CNTだ。研究チームは今回、素子全体を加熱するだけで、素子内部に温度差が自然発生する単層CNT薄膜素子を作製し、薄膜を貼り付ける基板を3種類用意して性能を比較することにした。

  • 作製された単層CNT p-n接合素子。薄くフレキシブルで、曲面に密着させた設置もできる (出所:東海大Webサイト)

    作製された単層CNT p-n接合素子。薄くフレキシブルで、曲面に密着させた設置もできる (出所:東海大Webサイト)

今回開発された素子は、電気的な性質が異なる2つの領域を1つの薄膜の中で接続した構造をしている。素子の中央部分が周囲より高温になるか否かで電流の向きが変わり、発生する電圧の極性も変化する仕組みだ。この差が「発電素子(電源)」と「熱流センサ」という2つの働きを生み出すことが解明された。

その鍵を握るのが基板の選定だ。単層CNT薄膜は赤外線をほぼ全量吸収する一方、基板の赤外線吸収率は材質や厚さで異なる。薄膜や回路構造が同一であっても、基板を変更するだけで素子の機能が変化することが実証された。

まず、赤外線を45.8%透過させる環状オレフィンポリマー(COP)基板では、赤外線が基板を透過して薄膜を直接加熱するため素子中央部が高温化し、発電素子として機能する。一方、赤外線を吸収しやすいポリエチレンナフタレート(PEN)基板(透過率0.20%)では、基板が先行して温まることで素子中央部が相対的に低温となる。この温度差は全体が等温になると解消するので、電圧は温度変化の過渡期にのみ発生することになる。

また、電圧の発生時間は、基板の熱慣性(温まりにくさ)に依存する。PEN基板は、ポリイミド(PI)基板より厚く熱慣性が大きいため、温度が均一化するまでに時間を要し、その間に発生する電圧も増大する。すなわち、この素子の動作は、基板の赤外線吸収率(電圧の極性を決定)と、基板の温まりにくさ(電圧の出力と持続時間を決定)の2特性で規定されることが判明した。いずれの基板でも素子内部に1〜3度の温度差が自然生起するため、外部の冷却装置が不要である点も確認された。

なお、素子は加熱源に接触しているため熱伝導も生じるが、伝導条件は3種類の基板で共通であり、機能の違いを決定づける主因ではない。光学特性のみを同一化した数値計算では、電圧極性の反転が消失することから、赤外線吸収率の差が主要因であると示された。また、樹脂製基板の耐熱上限を考慮し、今回の動作確認は約52度で実施された。

今回の技術は、外部電源や冷却装置を必要としないため、設置場所の制約が少なく、さまざまな環境への応用が期待される。たとえば、COP基板を用いた発電素子とPEN基板を用いたセンサ素子を同一熱源上に配置すれば、無電源の熱流監視システムの構築が可能となる。この仕組みを活用し、電気自動車の車載電池やデータセンター設備における異常発熱の早期検知、あるいは柔軟性を活かした生体・機器曲面への貼り付けなどが期待されるとした。

一方、現時点での素子の出力電圧は0.38mV、出力電力は0.47nWに留まる。無線通信素子などを駆動するには、100対程度の直列接続と昇圧回路の組み合わせが必要だ。なお、熱流センサとしての感度は、p-n接合1対あたり45μV/Kで、産業界で広く普及するK型熱電対(41μV/K)と同程度だった。

今回の研究では、冷却装置なしで基板変更のみにより発電と熱センシングを切り替えられる点が実証された。今後は、実用化に向けてさらなる出力向上に加え、封止技術による長期信頼性の確保や、実際の使用環境を想定した熱サイクル試験による性能評価を進めるとしている。