ベネッセコーポレーションは8月20日、「不登校支援と生成AIを活用した伴走支援の実践研究に関する記者説明会」を開催した。

今回の説明会では、同社が運営する中学生向けフリースクール「ベネッセ高等学院 中等部」とベネッセ教育総合研究所が連携し、生徒の日々の計画や振り返りに生成AIを組み込むことで、「主体的な学び」を支援できるか検証した研究についての発表が行われた。

説明会には、ベネッセ高等学院およびベネッセ高等学院 中等部 学院長の上木原孝伸、ベネッセ教育総合研究所 主任研究員の野﨑友花氏が登壇。不登校支援の現状や今回実施された研究の結果の共有が行われた。

不登校は中学生で約21.6万人 「学校に戻す」だけではない支援へ

最初に登壇した上木原氏は、不登校児童生徒の増加や学びの場の多様化を背景に「学習機会を確保するだけでなく、子どもの主体的な学びをどう支えるか」が課題になっていることを説明した。

上木原氏によると、不登校児童生徒数は中学校で約21.6万人、小学校で約13.8万人に上る。また、中学校の40人学級を想定した計算では、不登校が1.6人、不登校傾向が4.1人、発達障害の可能性がある子どもが1.6人、特異な才能のある子どもが0.9人いるとのデータもあり、教室内の多様性が顕在化しているという。

  • 不登校生の増加の現状

    不登校生の増加の現状

同氏は、不登校増加の背景として、「教育機会確保法の成立」「一律な教育と実社会との乖離」「積極的不登校」の3点を挙げた。

教育機会確保法では、不登校を問題行動として扱わないよう配慮することや、学校外での多様な学習活動を支援することが示されている。また、こども基本法に基づく「こども大綱」でも、学びの多様化学校の設置促進、ICTを活用した学習支援、フリースクールとの連携などが掲げられている。

このような時代背景の中で、同氏が学院長を務めるベネッセ高等学院 中等部は、2025年10月に開校したフリースクールで、最終的な教育目標を「ウェルビーイングな状態」とし、自己決定力、社会情動的スキル、学びへのエンゲージメントなどを指標としている。中学1~3年生を対象としており、在籍する中学校を転校せずに利用できるのが特徴だ。

  • 不登校支援の現状を説明する上木原氏

    不登校支援の現状を説明する上木原氏

92人を3グループに分け、AIのフィードバックを比較

続いて登壇した野﨑氏は、AIによって答えを得やすくなる時代だからこそ、自分の状態を把握し、計画、実行、振り返りを通じて次の行動へつなげる「自己調整」が重要になることを説明。「AIには学習効率化や短期的なパフォーマンス向上が期待される一方で、自分で考え、試し、失敗から学ぶ機会が減る可能性もある」と続けた。

同学院では従来から、生徒が日々の気持ちや学習計画、振り返りを「Beログ」に記録し、担任が確認する取り組みを行っている。毎日の記録にはスタンプで反応し、2週間に1回は長文の手紙を送るなど、担任と生徒のコミュニケーションに活用してきた。

生徒の気持ちに寄り添うことができる一方で、現場では一人ひとりへの継続的な支援に時間や体制上の制約もあり、全生徒の記録に毎日詳細なフィードバックを返すことは難しいという課題もあった。

「これらの課題を解決するため、AIによって日々のフィードバックを補完し、生徒の自己調整を支援できるかを検討する研究がスタートしました」(野氏)

  • 研究の概要について説明する野氏

    研究の概要について説明する野氏

今回の研究は2026年6月22日から7月3日の10日間、ベネッセ高等学院 中等部の生徒92人を対象に実施されたもの。

生徒は朝に「今日の計画」、夕方に「今日の振り返り」をBeログに入力し、その後Webアプリ上で植物に水をやる。植物は記録の継続や入力内容に応じて成長し、日々の取り組みを視覚的に確認できる。さらに植物を介してAIがフィードバックを提示する仕組みだ。

  • AI支援の設計

    AI支援の設計

生徒92人は、定型的な挨拶のみを返す「挨拶のみ群」36人、生徒の記述内容を踏まえて問いやヒントを返す「ヒント提示群」24人、記述内容をもとに例文や具体案を示す「例文提示群」32人に分けられ、研究が進められた。

例えば、疲れながら数学に取り組んだ生徒に対し、ヒント提示群では「難しいと感じたのはどの問題か」「少しでも進められたきっかけは何か」と問いかけ、例文提示群では「今日は疲れていたけれど、数学のワークを1ページ進められた」などの書き方を提示した。

  • AIフィードバックの例:夕方の振り返

    AIフィードバックの例:夕方の振り返

このAIによるフィードバックを踏まえ、朝は「内容の明確さ」「実行可能性」「時間・量の明確さ」「自分の状態との関連」の4観点、夕方は「出来事の具体性」「原因・理由」「自己モニタリング」「次の行動」「方略調整」の5観点を0~2点で採点。自己調整につながる内容が含まれているかを評価した。

AI支援群では夕方の振り返りが94%超、記述内容も具体化

研究結果では、生徒の記述内容に合わせてAIがフィードバックを返したグループで、計画や振り返りに関する内容を書けた日の割合が高い値を示す結果となった。

朝の計画で内容を1つ以上書けた日の割合は、挨拶のみ群が55.6%、ヒント提示群が71.3%、例文提示群が70.3%だった。夕方の振り返りでは、挨拶のみ群の64.6%に対し、ヒント提示群は94.3%、例文提示群は94.6%となった。

夕方の振り返りの記述内容にも違いが見られた。記述内容のイメージとしては、挨拶のみ群では「数学を勉強した」と事実だけを書くのに対し、ヒント提示群では「数学の計算問題には集中して取り組めた。文章問題は難しく、時間が足りなかった」、例文提示群では「眠かったが、数学の計算問題を5ページ進めることができた。文章問題は進まなかったので、明日は苦手な問題から始める」といった形で、記述内容がより具体化した。

  • 例文提示群のAIフィードバックと生徒の記述の対応イメージ

    例文提示群のAIフィードバックと生徒の記述の対応イメージ

「AIだけで支援しない」 人との役割分担と長期的な効果を検証へ

AIの活用に有効な結果が得られた今回の研究だが、研究ではAIだけで生徒支援を完結させないことも重視したという。

野氏は「AIが計画や振り返りを具体化する支援を担う一方、情緒面への対応には人の関わりが必要」だと述べ、精神的に厳しい状態を示す記述などがあれば、教職員がすぐに介入できる体制をとったほか、AIとのやり取りも朝と夕方の1日2回に限定し、AIへの過度な依存を避ける設計としたことを説明した。

「今回の結果から『AIが考える最初の一歩を支えられること』『自分自身の状態や小さな変化を言葉にする手がかりになり得ること』『AIとのやり取りから得られた情報を教職員による支援につなげること』の3点の示唆が得られました」(野氏)

最後に上木原氏は「教職員からも導入時にAIへの依存を懸念する声が出ていた」と研究の開始当時を振り返った。その上で、同じ言葉であっても、AIが伝える場合と教員が伝える場合では生徒の受け止め方が異なるとして「重要な場面では教員自身が生徒の目を見ながら言葉を伝えることが必要だ」と改めて感じたことを説明した。

ベネッセは今後、自己調整に関する長期的な変化・定着、必要なAI支援量の最適化、人による支援との組み合わせを検証する。さらに今回の研究で使用した仕組みについて、通常サービスへの組み込みも検討していく。

さらに支援方法についても、当初は具体的な例文を示し、慣れてきた段階でヒントだけに移行し、最終的には生徒自身がAIの支援を使うかどうかを選べる設計などを検討する方針だ。