サイボウズは7月15日、ノーコードで業務アプリを構築できる「kintone」のユーザーイベント「kintone hive 2025 tokyo」をZepp DiverCity(東京都 江東区)で開催した。本稿では、20年以上現役で使われていたExcelファイルから脱却し、一部署から使い始めたkintoneを全社の共通ツールにまで育て上げたプロサスの事例を紹介する。
平均年齢52歳、個性派ぞろいの設備部でkintoneを活用開始
創業50年を迎えるプロサスは、防災・消防設備資材のプロフェッショナルとして、点検や工事を軸として顧客課題の解決を支援している。主に避難口の誘導灯や消火器などの販売を取り扱っているほか、オフィスビルや飲食店向けには火災報知器など防災器具の設置・修繕工事を請け負っている。
オフィスやマンションなどで、火災警報器など消防設備の工事や点検をしているスタッフを見かけたことがあるだろう。あの人たちは「消防設備士」と呼ばれ、国家資格を保有して業務に取り組んでいる。プロサスでkintone導入の物語は、そんな消防設備士を多く抱える設備部から始まった。
kintoneを導入する前の設備部のメンバーの平均年齢は52歳。転職して入社した人も含め、個性派ぞろいだったという。売上報告や点検案件、スケジュールもすべてバラバラのExcelファイルで管理されており、中には20年以上使われ続けているExcelファイルもあった。
現場スタッフの多くは消防設備士の現場でキャリアを積んできたため、Excelの関数だけでなく、「中央揃え」や「マクロ」などの操作に関する知識も持っていなかった。設備部では以前からタスク管理ツールを導入していたものの、カレンダー形式で案件を管理できなかった点や1画面で必要な情報を把握しづらかった点などから、あまり活用されていなかった。
そうした状況の中、2021年にプロサスの販売部へ入社した小田凪波氏が、その翌年に設備部の案件を管理するために異動となる。上記のような業務環境を改善しようと考えた同氏は、kintoneの導入を検討。その後、カレンダー形式での案件管理や、案件ごとのチャット、資料添付機能などが可能だと知り、業務にフィットすることからまずは設備部メンバーでの利用を開始した。
kintone導入で設備部の売上は2倍に、「案件管理アプリ」が大活躍
kintoneを導入した小田氏は、既存のExcelファイルを活用しながら案件管理アプリを作成。「カレンダーPlus」プラグインを活用し、カレンダー形式で各担当者の案件を一覧で管理できるように工夫を凝らしたという。
以前は現場の担当者から電話で「今いる現場で不具合があって~」と相談される場面も珍しくなかったが、kintoneのチャット機能を活用することで、各現場の詳細画面内でやり取りを完結できるようになった。
その他、案件管理アプリ内に添付ファイルフィールドを追加し、現場に持ち込む資料を格納できる仕組みを備えた。これにより、現場でスマートフォンを確認するだけで必要な情報をいつでも確認できるように。その結果、ペーパーレスにもつながったそうだ。
案件管理アプリを運用するうちに、顧客情報や協力会社情報、建物情報など、マスタデータが必要になったため、小田氏はマスタアプリの作成に挑戦。現在は得意先マスタ、物件マスタ、連絡先マスタ、仕入先マスタからそれぞれCSVファイルを出力し、基幹システムのマスタと突合してパワークエリで統合することで、常に最新のマスタにアップデートされる仕組みを整えている。
ここでは、コマンドプロンプトとタスクスケジューラを活用し、作業の自動化に成功した。この点に、外部と連携してカスタマイズが可能なkintoneの強みが生かされている。
kintone活用の結果、プロサス設備部の売上は2023年の4500万円から、2024年には9500万円と2倍近い変化を遂げた。点検は361件から621件、工事は294件から443件へとそれぞれ増加している。売上が約2倍になったものの、案件管理は小田氏一人でも対応可能だったとのことだ。
いよいよ全社でのkintone活用に移行
設備部での順調なkintone導入を経て、小田氏は社内全体の業務改善にも興味を持ち始めた。そこで、同氏の古巣である販売部の業務を確認したところ、手書き書類のファックスや創業当時から使われている社内サイトが依然として使用されていた。また、業務ツールが乱立している状況だった。
こうした課題に対し小田氏は、kintoneの全社導入を経営陣にプレゼンテーションを行うことにした。設備部でのkintone活用事例を盛り込んだプレゼン資料は、なんと40ページ以上の超大作に。営業部の顧客管理、古い社内サイトからの移行、基幹システムからのマスタデータの移行など、経営陣の不安をkintoneで解消できるとアピールし、全社での導入が決まった。
その後、販売部だけでなく総務・経理部や営業部など、各部署にkintone協力者を割り当て、約1カ月間かけて社内にkintoneを浸透させる取り組みを開始した。
浸透期間には小田氏がレクチャー会を実施し、部署スペースの作り方などを指導した。また、アプリ開発で困った際に小田氏に相談できるフォームも設置。これらに加えて、アプリ作成の個人レッスン、部署別の相談会、特性マニュアルの作成など、徹底的にフォローした。
その結果、全社にkintoneが浸透し、Excelファイルや手書きの依頼書をkintoneで代替できただけでなく、長年使われていた社内サイトも不要になった。また、経費申請など紙での提出が必要だった業務をkintoneに置き換えることで、申請時に書類の提出も離席も不要となった。
過去に導入していた6つの有料業務改善ツールが不要になり、必要な機能はkintoneに集約。ツールを一本化したことで、年間180万円のツール使用料が70万円にコストカットされた。
プロサスのDXを支えた、小田氏おすすめカスタマイズ2選
小田氏は最後に、プロサスのkintone活用を支えた、現場系の職種におすすめなカスタマイズを2点紹介した。まず1つ目は「くり返しプラス」だ。これは、毎年発生する定期点検など、繰り返す予定のあるレコードをワンクリックで作成するプラグイン機能である。
毎週、毎年など、定期的な予定のレコードを自動で複製でき、ワンクリックで利用できる手軽さも特徴だ。
そして2つ目はkintoneの標準機能である「アプリアクション」。登録したレコードのデータを別のアプリに転記する際に使う機能で、これは報告書アプリに各現場の情報を入力する場合などに利用できる。
小田氏は「kintoneが『ITなんて無理!』と思っていたアナログ会社を変えた。kintoneは無事にプロサスのプラットフォームとなった」と述べた。また、熱のこもった経営陣へのプレゼンのポイントについて「最も訴求したのは、設備部のおじさんたちでも使いこなせるようになったこと。運用が簡単であることをアピールした」とコメントしていた。









