サイボウズは4月14日、kintoneの活用アイデアをユーザー同士で共有するライブイベント「kintone hive 2026」を大阪で開催した。このイベントの中では、関西地区の6社がkintoneの日頃の活用ノウハウを紹介。
トップバッターで登壇した松永興業の隱地 健太朗(おんじ けんたろう)氏は、「元工事職人がkintoneで四方良し」というタイトルで、給湯機の元工事職人が実現したkintoneにより業務効率化事例を紹介した。
現場を支配していたのは「紙と養生テープ」を用いた非効率な業務
住宅設備、とりわけ給湯器の交換工事を手がける松永興業は、大阪府東大阪市に本社を構える従業員35名の企業だ。「住まいの提案を通じて四方良しを実現する」を企業理念としている。
店舗販売のほか、ECブランド「エコチェンジ」を展開し、楽天市場やYahoo!ショッピングを通じて工事付き商品も販売している。しかしその裏側では、アナログな業務運用が大きな課題となっていた。
「給湯器って、世の中にどれくらいの種類があると思いますか?」
隱地氏はそう問いかけた。同氏によると3000種類もあるという。
メーカーや設置条件、運転方式の違いによって膨大なバリエーションがあり、その管理は容易ではない。以前の同社の業務は、その複雑さに見合った仕組みが整備されていなかった。
例えば在庫管理では、給湯器本体に養生テープを貼り、顧客名と住所を手書きで記載するという方法が採られていた。
「入社当時、これなら工事職人がそのまま持っていけると思ったのですが、実際は商品違いが多発しました」(隱地氏)
案件管理も同様にアナログだった。顧客情報は紙で管理され、床に置かれたリストを見ながら電話対応を行うという状態だった。
「お客さんのデータベースが床の上にありました」(隱地氏)
そのため、過去案件を探すにはキャビネットの中から紙を探す必要があり、対応の遅延は避けられなかった。
さらに、見積書の作成は膨大なExcelファイルに依存し、半年に1回、3000件の価格更新を人手で行うという非効率な運用が続いていた。その結果、残業は月50時間を超え、顧客対応にも支障が出ていた。企業理念である従業員とその家族、顧客、取引先のすべてが良くなる「四方良し」は、到底実現できていない状態だった。
社長の「kintoneがいいらしいよ」から始まった松永興業の改革
そんな松永興業の転機となったのは、「kintoneがいいらしいよ。ちょっとやってみて」という、社長の一言だった。
工事職人であった隱地氏にとってシステム導入は未知の領域だったため、同氏は「楽しみと不安が半々でした。ただ、何かを変えたいという思いがありました」と当時を振り返った。
同氏は独学でkintoneを調べ、まずは業務の見える化から着手する。紙の顧客データをすべてデジタル化し、案件リストを作成。紙の顧客データをすべてこの中に登録した。
また、商品マスタとして3000件の給湯器を登録。在庫や発注もアプリで管理できるようにした。
これにより、価格更新はCSVで一括処理が可能となり、これまで膨大な時間を要していた作業が一瞬で完了するようになった。
見積書作成が20分から5分へ、現場の抵抗を丁寧に解きほぐした方法とは
しかし、現場はすぐには変わらなかった。
「新しいことが覚えられません」「今までの仕事を勝手に変えていいんですか?」「マニュアルはないんですか?」「「全部完成したら教えてください」――
こうした社員からの声に対し、隱地氏は現場に寄り添う道を選んだ。自ら事務作業や電話対応、見積作成を経験し、真の課題を洗い出していったという。
特に大きな課題は見積業務だった。専門知識がなければ対応できず、1件の見積書作成に20分かかる一方で、問い合わせは16分に1回発生する。構造的に残業が発生する仕組みだった。
この課題に対し同氏は、kintoneの関連レコード機能を活用した新たな仕組みを構築。上で紹介した3つのアプリの情報を統合し、給湯器の型番や品番、在庫数、金額もわかる見積アプリを作成した。
「アプリでは分類を6つ選ぶだけで、3000件が10件程度に絞れます」(隱地氏)
さらに、帳票出力にはトヨクモのkintone連携サービス「PrintCreator(プリントクリエイター)」を活用し、見積書をワンクリックでPDF化できるように。結果として、見積書作業時間は20分から5分へと大幅に短縮された。
「新人でも入社から1週間で見積書が作成できるようになりました」(隱地氏)
現場からは「簡単になった」「成約できた」といった前向きな声が上がり、業務改革は確実に浸透していった。
業務効率化が生んだのはメンバーの「考える時間」、ECの売上は7倍以上に
隱地氏が強調するのは、kintoneによる効率化そのものではない。
「一番大きいのは、メンバーの考える時間が生まれたことです」(隱地氏)
その時間が新たな価値創出につながった。例えばEC運用では、商品マスタを活用した一括登録を実現し、商品数は30件から1000件へと拡大。売上は月商350万円から2700万円へと飛躍した。
また、顧客対応にはAIを導入。LINEのやり取りをkintoneに取り込み、AIが返信文を生成する仕組みを構築した。
「担当者は確認してボタンを押すだけで返信できます」(隱地氏)
元職人だからこそできた変革で「四方よし」を実現
隱地氏は、自身の変化をこう振り返る。
「元工事職人の私が、EC売上を拡大したり、AIを使ったりすることは普通は考えません」(隱地氏)
しかし同氏はkintoneを使い続けたことで、業務の全体像を理解し、新たな施策を次々と実現していった。その結果、残業時間は50時間から15時間へ削減。顧客満足度は向上し、取引先との関係も深化した。
「四方良しがやっと実現されました」(隱地氏)
最後に隱地氏は、kintoneの本質について「最初は仕事を楽にするツールでした。でも今は、会社を変えるきっかけになりました」と語った。
業務効率化によって生まれた余白が、人の思考と創造性を引き出し、組織全体の熱量を高める要因になったという。そして同氏は、「今後は経理などの事務的作業にkintoneを活用していきたい」と意欲を語った。












