みなさん、こんにちは! 科学コミュニケーターの松下このみです。

突然ですが、こちらの画像をご覧ください。

北岡明佳先生が作った錯視「蛇の回転」

丸い模様が動いて見えませんか?

「実はこれは静止画で、模様は動いていない」と言われても、なかなか信じがたいですよね。何度見ても、止まっているんだと自分に言い聞かせてみても、模様は右や左に回転しているように見えます。

こんなふうに、実際は止まっているのに動いて見えたり、長さや形、色がちがって見えたりする現象を「錯視・錯覚」といいます。このブログでは、そんな錯視・錯覚のしくみに迫ったイベント「たんけんしよう! あなたの知らない “ふしぎな錯覚” の世界」(2026年6月28日開催)の様子をお届けします。

私たちは、生まれたときから錯視好き

このイベントでは、“見え方”をテーマに、研究者の先生方による話題提供と、実際に錯視を作る工作体験を行いました。まず前半は、こどもがどのように世界を見ているのかを研究している山口真美先生(中央大学文学部)から、「私たちは赤ちゃんのころから錯視を好んでいる」というお話がありました。

「赤ちゃんにも錯視がわかるの?」と思った方もいるかもしれません。まだ言葉を話せない赤ちゃんは、本当に錯視を感じているのでしょうか。それを調べるための実験として紹介されたのが、「主観的輪郭」を用いた実験でした。

山口先生の話に聞き入る参加者のみなさん

主観的輪郭とは、実際は輪郭が描かれていないにもかかわらず、欠けた円などを意図的に配置することで、あるはずのない図形が浮かび上がって見えるという錯視の一種です。下の図を見ると、右下・左下・右上・左上が欠けた黒い円が並んでいるだけなのに、真ん中に白い四角形があるように見えませんか? さらに、この黒い円を大きくすれば、“見えないはずの四角形”はさらにはっきりと感じられるようになります。実際にこのような錯視を赤ちゃんに見せて視線の動きを調べると、生後6か月くらいの赤ちゃんはもちろん、生後3か月の赤ちゃんでも、錯視が見えやすい方をより長く見続けるということがわかっているそうです。

描かれていないはずの白い四角形が浮かび上がって見える(山口先生ご提供の資料をもとに作成)

錯視は大人だけが感じるものではない。

私たちが世界をどのように見ているのか、そのしくみは、生まれて間もないころから少しずつ育まれているのかもしれません。

 

ものを見るという身近な行為に隠されたふしぎを学んだところで、今度は参加者のみなさん自身が錯視を作る時間です。

「なぜそう見える?」を自分の手で確かめる

イベント後半では、錯視研究の第一線で活躍する北岡明佳先生(立命館大学総合心理学部)に、さまざまな錯視の紹介と「なぜそう見えるのか」についてお話いただきました。その後は、実際に手を動かして錯視工作に挑戦しました。

たとえば「逆遠近法」を用いた錯視では、本来は奥にあるはずのものが手前に、手前にあるはずのものが奥に見えてしまいます。

下の動画を見てください。

台形の大きさを変えることで、私たちの脳が実際とは逆の奥行きであると判断するのです。

実際に紙を折って立体を作ってみると、谷折りにした部分が山折りに、山折りにした部分が谷折りに見え、「自分の手で折ったはずなのにふしぎ!」という驚きの声が上がりました。参加者は作った錯視をいろいろな角度から眺めたり、目に近づけたり遠ざけたりしながら思い思いに楽しんでいました。

子どもも大人も夢中になって錯視を作っていました

さらに、逆遠近法のしくみを知った参加者からは、「じゃあ、それぞれの台形の大きさを入れ替えたら、錯視は見えなくなるの?」という、さらに一歩踏み込んだ質問も飛び出しました。予想外の視点からの問いかけに、北岡先生の解説にも思わず熱が入ります。「それはどうなるかなぁ」と、錯視を手に取りながら一緒になって考える時間が生まれました。

参加者からの質問に、思わず解説に熱が入る北岡先生

"見え方"に正解はない

また、同じく立命館大学総合心理学部の高橋康介先生は、みんなで楽しむ「錯覚クイズ大会」を開催してくださいました。

これは何に見える?

ひっくり返したら変わる?

これは直線? それとも曲線?

次々と出される錯視に、会場は大盛り上がり! 同じものを見ているはずなのに、人によって“見え方”がちがうことに驚く様子が見られました。子どもだから、大人だから、ではなく、それぞれが自分自身の“見え方”を楽しめるイベントだったと思います。

印象に残っているのは、高橋先生の「“考え方”がみんな異なるように、“見え方”にも正解はないんです」というお話。私自身も、科学コミュニケーターとして日々たくさんの方と対話をするなかで、たとえば一つの展示を前にしても、興味を持つポイントや感じ方、そこから生まれる疑問は人によって本当にさまざまだと感じています。それは考え方だけでなく、その人が“見ている”世界そのものが少しずつちがうからなのかもしれません。だからこそ、「自分にはこう見えた」「あなたにはどう見える?」と伝え合うことには大きな意味があります。互いの“見え方”のちがいに触れ、自分一人では気づけなかったものの見方に出合うことは、互いの世界を見つめ直すきっかけになるのだと感じました。

高橋先生による、大盛り上がりの錯覚クイズ大会の様子

「なぜ?」の先にある科学へ

では、そもそも私たちはどのように世界を“見ている”のでしょうか。私たちがいつも当たり前のように“見ている”世界は、本当に目に映ったそのままの世界なのでしょうか。

錯視は、その当たり前を少しだけ揺さぶり、「なぜそう見えるのか?」という問いを私たちに投げかけてくれます。今回のイベントでも、その問いをきっかけに、自分で試し、家族と試し、研究者と一緒に考える姿がたくさんありました。

  

科学の楽しさは、答えを知ることだけではありません。ふしぎに思い、試してみて、そして誰かと一緒に探求する。その積み重ねが新しい発見を生み、世界の”見方”を豊かにしてくれると私は考えています。

みなさんのそばにも、「なぜ?」がきっとあるはずです。未来館には、その問いを探求するのが大好きな科学コミュニケーターがたくさんいます。ぜひ未来館で、あなたの「なぜ?」を聞かせてください。


参考サイト:

立命館大学 北岡明佳の錯視のページ

北岡明佳の錯視のページ https://www.ritsumei.ac.jp/~akitaoka/

関連リンク

  • イベント「たんけんしよう! あなたの知らない “ふしぎな錯覚” の世界」 https://www.miraikan.jst.go.jp/events/202606284543.html
  • 「こどもからみる不思議世界探求」プロジェクト https://www.miraikan.jst.go.jp/lab/facilities/WonderfulWorldChildren/


Author
執筆: 松下 このみ(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
【担当業務】
アクティビティの企画全般に携わり、対話活動や展示解説、情報発信などを行う。

【プロフィル】
幼い頃は部屋にこもって教科書を隅々まで読んだり、図書館の本を著者名"あ"から順番に借りたりしていました。「言葉のもつ力」に興味があり、趣味として短歌をたしなんでいます。
有機化学を研究していた白衣の大学時代を経て、今は白いベストの科学コミュニケーターとして活動中。未来館でいろいろな人との対話に色とりどりの花を咲かせる毎日を送っています。

【分野・キーワード】
構造有機化学、元素