【 新社長を直撃 】カゴメ社長・奥谷晴信 -10年後に描く未来に向けた、経営のカジ取り-

「経営とは舞台を整えること」という言葉を受け継いで…

 

 ─ 奥谷さんは1月に社長就任されましたが、改めて抱負を聞かせてくれませんか。 

 奥谷 今年、カゴメは次の10年に向けた新たなスタートを切りました。10年後に目指す姿を「農から食にわたる技術革新をリードし、自然の可能性を共に拓く会社」というビジョンとして定め、改めてお示ししたわけですが、今大切な事は、このビジョンを総論から各論へと落とし込み、目指す姿に向けて確実に実行していくことです。それにはまず社員一人一人が自分事として理解し、行動することから始まります。現在、国内外の事業所や工場を訪れ、このビジョンへの思いを伝えています。 

 若手社員の頃に当時の社長が、「経営の役割とは、舞台を整えることである」と話をしていたのが非常に心に残っています。つまり社員が活躍できる舞台を整えてこそ、会社も成長していくのだと。これを実践することがわたしの役割であると考えています。 

 ─ カゴメの特徴は、農産物の調達から販売が一気通貫している点でもありますね。 

 奥谷 そうですね。もう少し言うと品種開発も行っていますので、さらに源流から携わっています。これは農産加工品を取り扱っている企業では珍しいことだと思います。われわれは「垂直統合型バリューチェーン」と言っていますが、これにより上流から下流に向かって価値を作り込んでいくことができます。 

 一番顕著な例で言うと、トマトジュースがあります。ジュースに適したトマトの品種を独自に開発し、それを契約農家に栽培していただき、独自の製法で加工して、一番良い形でお客様に届けています。さらに研究部門では、トマトに含まれる成分の栄養成分を研究し、その情報をお客さまに届けることができる。商品の価値を源流から自分たちでしっかり作り込み、伝えることができるのが強みであると考えています。 

 また、私どもの会社の考え方の中心にあるのは、〝品質第一〟です。安心安全を担保していくためには、バリューチェーンの全てにおいて、自分たちで関与していくことが重要です。 

 ─ 昨今は食生活でも健康がキーワードとなっていますね。手応えはいかがですか。 

 奥谷 我々は、厚生労働省が推奨する「1日350g」の野菜摂取を実現することで、健康寿命の延伸という社会課題の解決を図りたいと考えています。そのために、農産原料を使用した商品の販売だけではなく、野菜を摂ることについての啓発活動にも注力をしています。 

 健康価値への認知が浸透し、特に需要が拡大しているのが、トマトジュースです。トマトジュースは93年以上の歴史ある商品なのですが、現在も成長が続いていて、4年連続で過去最高の出荷量を更新しています。 

 ─ トマトの健康価値が拡がっているということですね。 

 奥谷 ええ。創業の歴史を紐解くと、1899年に創業者の蟹江一太郎が愛知県の東海村で、当時は日本で食べられていなかった西洋野菜のトマトを栽培したところから始まります。 

 最初はトマトを生鮮で売っていましたが、売れ残ったものを何とか無駄にしないように、事業にできないのか考え、加工という考え方が出てきました。当初はトマトを裏ごししたトマトソースから始まり、トマトケチャップ、トマトジュースと、だんだんと広がっていったと。まだ洋食が一般化されていない時代でした。日本に今までなかったものを売っていくということで、市場開拓は相当な挑戦だったと思います。

 

工場、そして海外での経験

 

 ─ 静岡大学の工学部を卒業後、カゴメを選んだ理由は何ですか。 

 奥谷 もともとわたしは岐阜県の土岐市の出身で、東海地方ということもあり、生活の中にカゴメの商品が多くある環境でした。 

 工学部出身ですが、いわゆる化学系、工学系よりも、コンシューマービジネスで、お客様の目に触れる商品を扱っている会社の仕事がしたいと思っていました。最初の赴任地は静岡県の飲料工場で、1年10カ月は品質管理をやっておりました。 

 ─ ここで学んだことで印象深いのは何ですか。 

 奥谷 ものづくりのオペレーションの過程を入口から出口まで学ぶことができました。静岡工場は50人程の規模でしたので、生産管理に関する事だけでなく、総務など、工場の運営に関わる様々な業務も間近で学ぶことができました。 

 また、ものづくりに携わる人のこだわりやプライドを肌で感じる経験にもなりました。各現場の人が、プロフェッショナルとして自身の仕事にこだわりを持ち、主張する。そういった方々と仕事をする中で、私自身も、品質管理を担当する者のプライドとして基準通りに出荷をするという信念が身に付きました。 

 ─ 各部門でこだわるポイントが違ったりしますね。 

 奥谷 ええ。カゴメのものづくりのこだわりを肌で感じた期間でした。また、静岡工場では、地域の方もアルバイトとして働いていましたので、様々な年代や職業の方と出会うきっかけにもなりました。価値観が一気に広がったのがこの静岡工場での経験です。 

 ─ 自分たちの仕事がいろいろな世界とつながっていることを実感したわけですね。 

 奥谷 まさにそうですね。その後、東京の購買部門で原料調達を担当しました。必要なものを必要な量、必要なタイミングで買ってきて納めると。人体で言えば血液のように日々当たり前にやられなければいけない部署なのです。逆に言えば滞ったら大変です。 

 原料は農産加工品ですから、例えば気候の影響で収穫量が変わったり、品質が変わったり、色々なことが起きます。イレギュラーなことへの対応をどうやっていくのかという部分では、試行錯誤を繰り返しました。 

 ─ 基本的には調達は海外からですか。 

 奥谷 ええ。ヨーロッパ、北米、南米、オーストラリアなどです。オレンジやブドウなどの果汁と、トマトやニンジン等の野菜の濃縮加工品の調達を担当していました。ですからこの時には、年間20回くらいは海外出張に行っていました。 

 このときの上司の下で仕事をした事は、わたしの中で大きな経験でした。上司は、仕事とは準備、段取り8割だと話し、海外出張へ行くときでも、行く前に8割の段取りを終わらせて行く。サプライヤーとのミーティングのアジェンダを作成し、こちらの主張を全部したためて、ミーティングで得た相手側の回答を入れるだけにして行くのです。それを作り上げたら出張報告が出来上がるので、その日のうちに本社に報告をすることができる。そういった仕事の進め方をする上司でした。 

 ─ 非常にハードな海外出張でしたね(笑)。 

 奥谷 しかし非常に勉強になりました。海外の方たちと仕事をしていくコツや、仕事のスピード、これをやることによって物事が解決していくということを、体で覚えました。 

 例えば日本で仕事をしていると阿吽の呼吸で言いたいことを分かってくれる、ということがありますが、海外ではそうはいきません。本質的に何がしたいのか、何を目的にしているのかをシンプルな言葉でどう伝えるか。このことをこの時の上司に徹底的に教えてもらいました。

 

28年には北海道工場設立

 

 ─ 日本は食品を海外からの輸入に依存していますが、御社の海外輸入の割合は。 

 奥谷 現在は、原料の9割以上を海外から調達しています。一方で、国産原料を使った商品へのニーズは高まっており、国内のバリューチェーンを活かした国産訴求商品による高付加価値化に取り組んでいます。 

 気候変動による天候不順や、生産者の減少などにより、国産の野菜や果実を安定的に確保することは年々難しくなってきています。そこで今年度から「めぐみめぐるアクション」と題して、その地域ならではの野菜や果実のおいしさだけでなく、産地や生産者の想いを一緒にお届けして応援する仕組みを開始しました。 

 さらに、バリューチェーンの最適化として、2028年には北海道で国産トマトの一次加工拠点が新たに稼働します。国産野菜・果実を活かして、商品の価値を高め、新たな需要を創造するとともに、農業の持続性に貢献していきます。 

 現在では、売上の4割から5割を国際事業が占めていますが、海外でのビジネスは、業務用の商品が主であり、コンシューマービジネスではありません。具体的には、グローバルまたはローカルに展開するフードサービスチェーンが主要顧客であり、トマト加工品で言えばピザチェーンやハンバーガーチェーンなどになります。 

 ─ イタリアにも赴任経験がありますね。ここで感じた事とは? 

 奥谷 2008年から4年間、イタリアのベジタリアという子会社に出向していました。経営企画という立場で赴任したのですが、一つの会社において、原価マネジメントから投資判断、人事まで、経営の全てを実地で学ぶ非常に貴重な経験になりました。現在当社は、ヨーロッパでは、イタリアの他、ポルトガルでも事業を展開しています。直近ではイギリスの卸会社を子会社化して、欧州での事業を広げています。 

 ─ アジア市場についてはどう見ていますか。 

 奥谷 アジアへは商品の輸出に加えて、インドと台湾に製造拠点を構えています。インドは、トマトを加工して食べる文化があり、さらに人口も増加しているため、今後更にトマト加工品の市場は拡大すると考えています。現在、ピザソースやパスタソースを製造する二次加工の拠点を構えていますが、今後は川上からのバリューチェーンの構築に取り組むことで更なる成長を果たしていきます。

 

新たな価値創造を

 

 ─ 今後の展望を聞かせてください。 

 奥谷 われわれは、創業以来、自然の恵みを価値ある形に変え、生活者のみなさんの健康に貢献していくことを事業として行ってきました。 

 ここから先においては、それだけではなく、自然と人間の相互がよりよい循環を維持し続けるために、事業を拡大していきます。われわれの事業は自然の恵みによって成り立っており、土や水、植物などの自然から得られるものがなければ商品は届けられません。 

 特に気候変動の影響においては、温室効果ガスの削減や水不足への対応などが深刻化しており、自然と共生できる仕組みづくりが大きな課題だと捉えています。慈善事業的な意味合いではなく、それを価値に転嫁していくことが重要です。 

 例えばヨーロッパでは、既に環境配慮型の商品が消費の選択基準になっています。その中で顧客から選ばれ続けるために、おいしさや健康などの価値に加えて、低環境負荷という新たな価値を付与することで競争優位性を作っていきます。 

 ─ サーキュラーエコノミー的な取り組みを重要視していくと。 

 奥谷 はい。それに加えて、社会に求められる新たな価値の提供に向けた挑戦も行います。これからの社会では、身体の健康に加え、心の健康や社会とのつながりといった、より広い意味での健康が大きな社会課題として重要性を増していきます。 

 これまで当社が培ってきた有形・無形の資産を活用することで、社会や地域のコミュニティをより良い状態へ導き、社会的健康ニーズに応える新たな価値創出に取り組みます。 

 例えば、植物を育てることで幸せを感じたり、野菜の収穫でコミュニケーションが生まれるなど、これまで培ってきた農と食の知見を基盤にして、精神の健康や社会的健康といったカゴメ流のウェルビーイングを提供していきたいと考えています。 

 こういった挑戦を実現させていくためには、当社だけで取り組むのではなく、志を分かち合うステークホルダーとの連携が欠かせません。多くの皆様の協創によって新しい価値を生み出していきたいと考えています。