MicrosoftのエンジニアRaymond Chen氏がこのほど、「A dispute over the TAB key highlights a mismatch between Microsoft and IBM organizational structures - The Old New Thing」において、1980年代後半にIBMと共同開発していたOS/2プロジェクトで発生した「[TAB]キー論争」の逸話を公開した。
この逸話からは、当時のMicrosoftとIBMの企業文化や組織構造の違いが、ソフトウェア設計の現場にも影響していたことが想像できる。
「TABキー」を巡るOS/2開発時代の対立
1980年代後半、MicrosoftとIBMは共同でPC向けOS「OS/2」を開発していた。正式名称は「IBM Operating System/2」または「Microsoft Operating System/2」で、MicrosoftはこのOSをDOSの後継として位置づけていた。
MicrosoftのエンジニアRaymond Chen氏はこのほど、「A dispute over the TAB key highlights a mismatch between Microsoft and IBM organizational structures - The Old New Thing」において、OS/2開発時代に発生した「[TAB]キー論争」の逸話を紹介した。
Chen氏によると、OS/2開発中、IBMフロリダ拠点に派遣されていたMicrosoft側の技術者が、ダイアログボックス内で入力欄を移動するキーとして[TAB]キーを採用した。しかしIBM側はこの決定に反発し、Microsoft本社にいる上司へ判断を仰ぐよう要求したという。
Microsoftは「現場判断」、IBMは「上層部判断」
IBM側から判断を求められたMicrosoft側は、「その判断を現地で行うために派遣している」と返答した。これは、現場の技術者に一定の裁量権が与えられていたことを示している。
一方、IBM側ではこの問題が複数階層の管理職へエスカレーションされ、最終的には副社長クラスまで議論が持ち込まれたという。さらにIBM側は、Microsoftにも同等レベルの幹部による正式回答を要求した。
これに対しMicrosoftの技術者は、「ビル・ゲイツの母親は[TAB]キーに興味がない」と応じた。もちろんこれは、この程度の細かなUI仕様は経営陣が関与する問題ではない、という意味をユーモラスに表現したものだ。
結果として、当初の提案どおり[TAB]キーによる入力欄移動は採用され、その後Windowsを含むGUI環境で標準的な操作として定着していった。
小さなUI仕様にも表れた企業文化の違い
Chen氏は過去の記事でも、MicrosoftのエンジニアがIBMのエンジニアを「企業方針に縛られすぎている」とみなし、逆にIBM側がMicrosoft側を「統制の取れていないハッカー集団」とみなしていたと説明している。
今回の[TAB]キー論争は、単なるUI仕様を巡る対立ではなく、両社の組織構造や意思決定プロセスの違いを象徴するエピソードともいえる。
現場の技術者に大きな裁量を与えるMicrosoftと、階層的な意思決定を重視するIBM――OS/2共同開発時代には、こうした企業文化の違いがソフトウェア設計の現場にも影響を与えていたことがうかがえる。
