『わたしの「対話人生」』国際社会経済研究所理事長・藤沢久美 立場が社長をつくる

よく「立場が人をつくる」と言われるが、社長という立場ほど、それを実感させるものはない。

 『社長Talk』で毎週さまざまな経営者にお会いしていると、その背景も性格も実に多様であることに驚かされる。起業家として会社を立ち上げた人、創業家の後継、会社員として出世を重ねた人、プロ経営者として選ばれた人、外部から招聘された人。慎重な人もいれば、明るく雄弁な人もいる。

 無口な人もいれば、緻密に物事を積み上げる人もいる。正直に言えば、「本当にこの人が社長なのか」と感じることもある。しかし、その人は確かに社長として組織を率いている。

 こうした経験を重ねる中で、「立場が人をつくる」という言葉の意味を改めて考えるようになった。これまでは、立場によって意識や行動が変わり、リーダーらしくなっていくという意味で捉えていた。

 しかし、それだけではない。周囲がその人をリーダーとして扱うようになることの影響が極めて大きいのではないかと感じている。

 社長という立場に就いた瞬間、その人の発する言葉は、それまでとは異なる重みを持つ。強い言葉であっても、穏やかな言葉であっても、その一言で人が動き始める。組織の中での利害や役割と結びつきながら、その言葉は現実を動かしていく。社長の資質というよりも、立場そのものが持つ力が働いているとも言える。

 同時に、社長がすべてを動かしているわけではないということも実感する。確かに大きな方向を示すのは社長の役割である。しかし、その方向性も、社長一人で決められている会社は多くない。

 「実るほど、こうべを垂れる稲穂かな」という言葉がある。経験を重ねるほど、この言葉の意味が沁みてくる。社長という存在は、周囲の人間があってこそ成り立つものだ。組織の中で信頼を得て、支えられてこそ、その役割を果たすことができる。

 さらに、会社が置かれている状況によって、求められる社長の資質も変わる。成長期にはスピードと決断力が求められ、安定期には調整力が問われる。危機の局面では覚悟と胆力が必要になる。

 結局のところ、社長とは特別な資質だけで成り立つ存在ではない。立場によって育てられ、周囲との関係の中で形づくられていく存在である。そして、そのことを自覚すればするほど、支えてくれる人々への感謝の気持ちが欠かせないものになる。組織を動かしているのは一人の力ではない。

 その前提に立ち、周囲への敬意と感謝を持ち続けること。そして何より、社員とともに未来を信じ、その空気をつくり続けることこそが、社長という立場を全うするための基盤なのだと思う。

【著者に聞く】『エネルギーの地政学』 日本エネルギー経済研究所 専務理事・小山 堅