「世界トップクラスのフィジカルAIの使い手に」 米企業との連携で独自のAI戦略進める日立

鉄道事業の保守コストが15%削減という成果も

「昨年末くらいから”フィジカルAI”が話題になっている一方で、どうやって業務に活用したらいいのか分からない、という声がすごく増えてきている。日立にはフィジカルAIを実践してきた経験もあるし、いろいろな最先端の技術もあるので、この場に来て、体験していただき、フィジカルAIがどういうものか理解していただきたい」

 こう語るのは、日立製作所AI CoE HMAX & AI推進センター本部長兼 Chief AI Transformation Officerの吉田順氏。

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 AI(人工知能)を活用してロボットなどを動かすフィジカルAI。日立が4月1日から、東京・丸の内にフィジカルAIの社会実装を加速させるための戦略拠点を開設した。

 近年は労働人口の減少やインフラの老朽化が深刻化する中、現場の課題解決に向けたフィジカルAIへの期待は高まるばかり。鉄道や電力など、社会インフラに関連した幅広い事業を展開する日立は”カスタマーゼロ”として、自社内でのAI活用を進め、そこで得た成果を顧客に提供していこうとしている。

「まずは自社でフィジカルAIを徹底的に活用していこうということで、世の中よりも一歩先に社内でフィジカルAIを実装し、そこでうまくいったものをお客様にソリューションとして提供していく。日立は世界トップクラスのフィジカルAIの使い手になりたいという考えがあり、日立社内、あるいはお客様に対して、最適なソリューションを提供していく」(吉田氏)

 2009年3月期に、当時の製造業では過去最大となる7873億円の最終赤字に沈んだ日立。そこから従来の総花的な経営を見直し、御三家と呼ばれた日立化成工業、日立金属、日立電線にも聖域なき改革を断行。一方で、スイス重電大手ABBの送配電事業や米IT企業のグローバルロジックなどを相次ぎ買収。日立独自のDX(デジタルトランスフォーメーション)基盤『Lumada(ルマーダ)』に経営資源を集中し、デジタル技術を核としたサービスビジネスに経営の軸足を移してきた。

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 そのルマーダが今年で10周年の節目を迎え、日立は年明けからルマーダにAIを掛け合わせた『HMAX(Hマックス)』という新たなAIソリューション群の提供を開始した。

 これは例えば、産業用機械や鉄道車両などにカメラやセンサーを取り付けて得た”現場”のデータをAIで分析し、保守メンテナンスなどに生かすというもの。より最適化された交通システムの構築や発電所・工場などの故障防止、性能・効率の最適化などを図ろうとしている。

 すでに日立のグループ内では、HMAXの導入によって、鉄道事業で保守コストが15%、エネルギー消費量も15%削減。物流の現場でも生産性が4倍になったという。自社での成果に手応えを感じた上での、今回の顧客との”協創拠点”開設ということである。

「フィジカルAIは物理的なものに対して制御を加えることになるので、あらゆる機器に対してAIを活用して、今までできなかったようなことが柔軟にできるようになる。フィジカルAIを活用したトータルなサービスを製造業や電力・鉄道のお客様に提供していきたい。実際の現場で使えるものを提供しようと考えている」(吉田氏)

最先端のAIを組み合わせて最適なソリューションを

 日立はAIの開発でも、他社とは違う路線を標榜している。

 現在、LLM(大規模言語モデル)の開発において先行しているのは、『ChatGPT(チャットGPT)』で知られるオープンAIやグーグルなどの米国企業。日本でもNTTが『tsuzumi(ツヅミ)』、NECが『cotomi(コトミ)』といった独自のLLMを開発しているのに対し、日立は自社開発にこだわらない。自社開発している間に、世の中から他の新しい技術が出てくると取り残されるリスクがあるからだ。

 一方で日立は、エヌビディアやグーグル、マイクロソフトとの協業・提携を加速。AIを自社開発するよりも、最先端のAIを組み合わせて最適なソリューションを提供するという戦略をとってきた。

 現場の知識を持たないIT企業がデータだけを集めてフィジカルAIをつくろうとしても、現実社会で安全に適合させることは難しいが、日立には鉄道や発電所など、現場の知見がある。

 自社で持つIT(情報技術)とOT(制御技術)、プロダクトを掛け合わせることによって、社会イノベーション事業を強化する――。日立のように自社でIT、OT、プロダクトの3つを保有している企業は珍しく、ライバルの独シーメンスはハード、米アクセンチュアはITに強いのに対し、日立は3つ全てを持っていることが強みだ。

 吉田氏曰く、これこそが「グーグルやマイクロソフトが日立を選んでくれる理由であり、日立の優位性」だという。

 2022年11月にオープンAIがチャットGPTを公開して以降、AIブームは一気に加速した。現在はAIの主戦場も情報の分類・予測、テキストや画像の生成といったフェーズから、いかに現実社会へ実装できるかが問われるフェーズへと移行しつつある。LLMの開発では米国企業が先行しているが、社会実装という点で先行している企業はまだ出ていない。

 日立はグループの潜在力をいかに掘り起こし、同社ならではの新たな価値を創出していくことはできるか。社長就任から1年、德永俊昭氏の実行力が問われている。

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