製造業の現場において、情報の断絶は品質や生産性に直結する重大な課題だ。岩手県一関市に拠点を置く光成工業(こうせいこうぎょう)も、営業と製造の間での情報共有の壁に長年悩まされてきた企業の一つ。

そうした状況を打破すべく導入されたのが、サイボウズの「kintone」だ。そこで、生産管理を本業としながら社内のkintone推進を担う同社の畠山成光氏に、現場発のDXがどのように進み、どのような成果をもたらしたのかを聞いた。

「言った・言わない」からの脱却が出発点

光成工業は鉄製パレットやユニットハウスの設計・製造、簡易トイレの設計・製作、金属加工、溶接、粉体塗装を手掛ける金属加工メーカーで、従業員は102名。同社が受注する製品の半数以上が新規案件のため、製造する際には、営業と製造現場で細かく情報共有することが重要となる。しかし、顧客からの要望が設計や製造に正確に伝わらず、色や仕様の認識違いが発生し、手戻りが生じるケースもあったという。

「注文書が来てから、製品の情報を設計が営業に確認するので、その時点で営業が持っている内容を口頭で伝えますが、営業もさまざまな案件を抱えているので、すべての情報を伝えられないこともありました。そのため、あとになって『言った・言わない』が発生していました」(畠山氏)

  • 光成工業 管理部長 畠山成光氏

    光成工業 管理部長 畠山成光氏

そんなときに、社長の村上耕一氏が、ITコンサルティングを営むスマイルアップ代表の熊谷氏の講演を聞き、kintoneの自社導入を決断。そして、社内へのkintone導入を促進する数名のkintoneメンバーが招集された。畠山氏も、同じ一関市に本社がある京屋染物店が「kintone AWARD 2017」を受賞していることから、kintoneには興味があったという。

ただ、社長からの最初のkintoneの活用の指示は、営業と製造の情報共有ではなく、全社員が手書きで作成していた「日報」のデジタル化だった。

「営業からkintone化を実施すると、一部の人だけの活用になってしまうので、社長には、一気に全社展開した方がいいという考えがあったと思います」と、畠山氏はその理由を説明した。

日報では、自身がどういった製品に携わっているのか、どの日にどういった作業を、どれくらいの時間行ったのかを報告していた。そして、作業時間は紙の日報を見ながら総務がExcelで集計していたという。

「当時80名以上の社員がいましたが、すべての日報を一人で入力していましたので作業が追いつかず、2年遅れで情報がまとまったものが出てきました」(畠山氏)

そこで、kintone活用の第一歩として、全社員に日報をデジタル入力してもらい、集計作業を効率化していくことを目指したという。

  • 日報アプリの画面キャプチャ

    日報アプリの画面キャプチャ

入力率アップに向け、紙の日報を強制的に廃止

同社では当初、kintoneへの日報入力は各部署の職長に依頼していた。しかし、入力率はわずか18%にとどまった。そのため、紙の日報を廃止し、強制的にkintoneに入力することを決断した。

「kintoneメンバーが集まり、日報を入力してもらうためにはどうしたらいいのかという打ち合わせが行われ、社長から紙の日報の廃止を宣言するという指示がありました。そこで、キックオフイベントで『50日後に紙の日報を完全に廃止する』と宣言し、日報の原本を破るという動画を作成し、公開しました」(畠山氏)

トップダウンで期限を区切り、強いメッセージを発信したことで、入力率は80%程度まで向上、運用が定着していった。ただ、これまでパソコンやスマホに触ったことがない高齢のスタッフもいたため、入力項目を最小限に絞った専用アプリ、通称「テルオモデル」も別途kintoneで開発された。このアプリでは、受注番号と作業時間だけを入力すれば、工数が自動集計される仕組みになっていた。

  • テルオモデルのアプリキャプチャ

    テルオモデルのアプリキャプチャ

畠山氏はkintoneアプリの作成について、「楽しくやらせてもらっています。ただ、いろいろな作り方ができるので、チェックボックスやラジオボタンなど、使う部品によって入力効率も変わってきます。アプリ開発ではその辺を考えながら、入力しやすくするにはどうしたらいいのかを考えながら行いました。また、kintoneはドラッグ&ドロップで項目を持ってくれば簡単にアプリが作れるので、他のメンバーにも教えやすいと思います」と語った。

日常業務のさまざまな場面にkintoneを活用

日報のデジタル化によって、総務部門が行っていた手入力作業が不要となり、残業時間は月70時間削減されたという。

「Excelをkintone化することにより入力の二度手間、三度手間が減り、社員一人分くらいの効果は出ています」(畠山氏)

日報によるkintone利用が定着したことから、同社は次に本丸である営業と製造の情報共有に取り組んだ。具体的には、顧客名や製品名、数量、納期などの見積り情報を入力するkintoneアプリを作成。そこから、受注に至ったものは受注管理として現場の人たちも見える形にするため、アプリ展開していった。

また、製造部門では以前から受注情報をExcelで管理していたため、それに近いUIを実現するために「KrewSheet」というプラグインを使い、受注情報をExcelのように一覧表示できるようにもした。

さらに同社では受注管理に続き、有給などの申請もkintoneから行えるようにした。申請はkintoneのプロセス管理を使い、承認ワークフローの仕組みを構築したという。

  • 営業と製造現場の業務アプリキャプチャ

    営業と製造現場の業務アプリキャプチャ

また、「陽口(ひなたぐち)」という、社員間でその人の良い面を褒めたり認めたりするアプリを開発するなど、社内の風通しをよくする取り組みや、社内イベントのアンケートにもkintoneを活用している。

光成工業の取り組みで特徴的なのは、kintoneの浸透を「楽しさ」と結びつけた点だ。社内イベントの一環として実施されたリアル脱出ゲームでは、問題回答システムとしてkintoneを活用。ゲームを通じて自然に操作に触れる機会を創出し、ITへの心理的ハードルを下げることに成功した。

  • リアル脱出ゲームで使ったアプリキャプチャ

    リアル脱出ゲームで使ったアプリキャプチャ

また、有給申請やアンケート、社内コミュニケーションの投稿機能など、日常業務のさまざまな場面にkintoneを組み込むことで、利用機会を増やしていった。こうした積み重ねが、全社的な活用定着につながったという。

リアルタイムデータの蓄積で見積精度が向上

さらに、データがリアルタイムで蓄積されることで、工数や原価の把握が可能となり、見積精度の向上にもつながった。その効果は、年間売上30%(約5億円)アップにも及ぶ。

kintoneの導入効果について、畠山氏は、「kintoneでいろいろ管理することによって、きちんと予実管理ができるようになってきました。予実管理によって、今まで営業が何となく見積もっていたものが、日報情報や購入品の金額を照らし合わせることで、実際にどれくらいのコストがかかっているのかが見えるようになり、それを見積り金額に転化できるようになってきました」と語った。

また、「『言った・言わない』によって余計な手間がかかっていた部分もなくなりました。これまでは余計な手直しによって他の仕事ができなくなり、機会損失もありましたが、そういったところがなくなり、売上アップにもkintoneはしっかり貢献しています」とも話していた。

kintoneの利用を社内に浸透させていくポイントについて、畠山氏は、利用者に寄り添うことだと強調する。

「楽しむというところが基本的な部分ですが、利用者からもらったさまざまなフィードバックに寄り添って対応していけば、自分たちのことを考えて使いやすくしてくれているという思いが伝わり、社員の人が使ってくれるようになると思います。そういったところがテルオモデルにすごく現れていると思います」(畠山氏)

  • 光成工業 管理部長 畠山成光氏

kintone利用の次なるステージはAI活用へ

現在、光成工業では新たな挑戦としてAI活用にも取り組み始めている。社内に「AIの学校」を立ち上げ、ChatGPTやGeminiといった生成AIの活用を全社で推進する計画だ。企画書作成や業務効率化への応用を視野に入れつつ、単なるツール導入にとどまらず、社員のスキル向上にも力を入れている。

kintoneにおいてもAI機能の活用はまだ限定的だが、今後は要約機能などを起点に活用範囲を広げていく方針だ。

また、経理に関してもkintone化していくことを考えている。この点について畠山氏は、「経理もkintone化してもっとみんなに見えるようにして、社長が経営判断としてすぐに情報を見られる状態にしたいと思っています」と目標を語った。