三菱総合研究所・小宮山 宏理事長を直撃!『課題先進国』・日本の再生には何が必要ですか?

2050年に再エネが8割に

 

 ─ 米国とイスラエル軍にイラン攻撃など中東情勢が不安定な中、小宮山さんが会長を務める「プラチナ構想ネットワーク」が2050年のエネルギービジョンを発表しましたね。 

 小宮山 はい。この「2050エネルギービジョン」は日本で現在、電気・ガス・灯重油・ガソリン・ディーゼルなどで賄っている全てのエネルギーを脱炭素化する全体像を提示したものになります。日本がほぼ全てのエネルギーを国内で生産する「エネルギー自給国家」を実現することを目指すものであり、現状ある技術を前提にして構築したものになります。長期的な経済面・安全保障面でのメリットは大きいと考えています。 

 いま政府が掲げているエネルギー戦略の中長期指針「エネルギー基本計画」(第7次)は、熱や輸送の多くを電気ではなく、主に輸入に頼る水素や合成燃料で賄う前提としています。 

 現在、自然界に存在する人為的な変換プロセスを経ていない一次エネルギーの約4割が電気に変換されており、残りの約6割は熱として利用されています。我々はそういうものが全て脱炭素化されることを前提としています。国の試算では2040年には今よりも1.2倍の発電電力量が必要とされていますが、我々の見方では全てが脱炭素化されることにより、2050年には2倍以上は必要と見ています。 

 ─ 国の計画とは違った視点でのビジョンと言えますね。 

 小宮山 ええ。脱炭素とは本来そうあるべきものです。ですから我々は全部を脱炭素にするというビジョンを発表したわけです。このビジョンの骨子は2050年に日本の全てのエネルギーの8割は国内の再生可能エネルギーで賄えるという点にあります。残りが原子力、CCS(化石燃料などに由来する炭素を地中に戻す技術)を前提とした火力、輸入水素などで賄う形です。 

 我々の試算では原子力の10基新設をはじめ、CCSや水素の輸入の拡大の可能性も検証しましたが、賄えるのは全体の2割程度だろうと。ですから、8割は国内の再エネしかないということになります。その8割を国内で生産することができるのだ、ということを示したのが我々のビジョンの意義です。 

 ─ 現実に基づいているビジョンになるわけですね。 

 小宮山 そうです。再エネのうち一番比率の高い電源の割合が太陽光の44%になります。次に風力が39%です。この2つの比率は、これまでの数値と比べてそんなに変わるほど特殊な話ではありません。その次に水力が8%、地熱が5%、バイオマスが3%になるとみており、中でも地熱が水力に近いレベルにまで増えると見ています。 

 地熱に関しては新しい技術が随分と出てきています。従来より深いところから高温の地熱を取り出す技術で、地下3000メートルといった深さまで掘る技術が非常に進化してきています。しかも他国では約5000メートル掘らないと(気体と液体の密度が同じになり、二相が区別できなくなる)「超臨界」という水の状況にはなりませんが、火山国の日本では3000~4000メートルの深さで超臨界に達します。そうすると、高効率の発電ができます。 

太陽光と農業が併存 

 ─ 再エネのうち最も多くの比率を占める太陽光はどのように普及すべきなのですか。 

 小宮山 今はメガソーラーの土地がないと言われていますが、我々が考えているのは、日本の田んぼや畑、耕作放棄地といった農地の活用です。農地に設置して農業と併存する「営農型」の「ソーラーシェアリング」を導入すると、約500万ヘクタールの敷地が活用可能になります。その敷地全てでソーラーシェアリングを導入すれば、今の総発電量の約5倍の電気が賄えます。 

 耕作放棄地や現時点で耕作されていない農地だけでも、その10分の1に当たる50万ヘクタールを超えていますから、今の総発電量の半分くらいは賄える計算です。加えて薄くて曲がり、壁に貼ることができるペロブスカイト型太陽光発電パネルなどを貼り、建物の屋根にはもっと太陽光パネルを置く。そういう取り組みを展開していけば、今の総発電量くらいは太陽電池だけでも賄えるのです。ビジョンでは、その半分ほど実装しようということです。 

 ─ ソーラーシェアリングという画期的な技術も国内で生まれてきているのですね。 

 小宮山 はい。ソーラーシェアリングに対しては、今のところネガティブな話はあまりありません。全国各地で実験していますが、我々の中核になって活動してくれているのが千葉エコ・エネルギー会長の馬上丈司さんです。このほどプラチナ構想ネットワーク内に立ち上げた「営農型太陽光発電社会実装推進コンソーシアム」の発起人代表を馬上さんが務めています。 

 ソーラーシェアリングにはヤンマーやクボタといった農業に関連する事業を手掛けている企業も一生懸命に取り組んでいます。それから日本政策投資銀行といった金融機関も国内に投資しないと国内の産業が空洞化するという危機感を抱いており、地銀などもこのコンソーシアムに参加してくれています。「米国のトランプ政権に80兆円も投資してどうするんだ」と疑問に思っている人たちが多いんです。 

 ─ そのソーラーシェアリングもあまり目にしないのは農地に関連する法律の問題ですか。 

 小宮山 いいえ、法律ではなく解釈の問題です。ほとんどの法律では、そんな細かいことまで決まっているはずがありません。法律を基に細かな解釈をしているのは行政です。 

 ─ そうであるならば実行するしかありませんね。実践例をつくればいいわけですね。 

 小宮山 そうです。前例をつくっていくことが重要です。実際に今でも導入して収益を立てている事例はあるんですからね。やればできるところは多いわけですよ。そして、ある程度の規模にまで広がっていけばルールの方が変わると思うのです。そういった我々の成功例の1つが木造住宅の耐用年数が50年になったということです。 

 それまでの木造建築の耐用年数は22年と言われていました。一方の鉄筋は50年ですから、資金を得ようにも木造と鉄筋では状況が全く違っていました。ところが木造建築の大きなビルがどんどん建ち出した。そうすると、木造でも収益が上がるという理解が政治家にも広がり、官僚も動けるようになるわけです。 

 規制緩和と社会実装はニワトリと卵の問題ではあるのですが、今でも日本全国を見れば、やれるところはいくらでもあるはずなんです。ある程度の規模で「これはいいぞ」とみんなが思えば、制度も変わるはずです。そうなれば日本の仕組みが一気に変わる。これが我々の描くモデルなのです。 

日本には危機感がない! 

 ─ テクノロジーがあるのに、それを社会実装しないのはなぜなのでしょうか。 

 小宮山 例えば、介護分野で人手不足が課題となりました。そういうときに介護ロボットを介護市場で使うと。それが課題先進国のテクノロジーなのです。しかしそうはならず、日本は北欧などに負けてしまっています。なぜなのか。そのテクノロジーを使わないからです。結局、介護ロボットを最初に使った国はスウェーデンです。 

 ─ なぜスウェーデン? 

 小宮山 どうして開発されて間もない介護ロボットを使うことができるのかと聞いたら、「スウェーデンには危機感があるからです」という回答でした。ということは、日本には危機感がないということになります。強調したいのは、大きな意味における課題解決です。 

 私が2007年に著した『「課題先進国」日本』で「課題先進国」という言葉をタイトルに使い、その言葉も一般名詞になりました。ただ、今は何でも課題先進国だと言って課題解決をしようと、絆創膏を貼るような、あるいはパッチワークのような小さな問題についてもそう言っています。私が言いたいことは、そういうことではありません。 

 ─ 具体的なソリューションを考えることこそ重要だと。 

 小宮山 そうです。そういった大きいことを言っているんです。だからこそ、ソーラーシェアリング×フィジカルAIで労働制約経済からの脱却を実現したい。それを事例にしたいと。 

 ─ AIがセンサーなどを通じて現実世界を理解し、ロボットなどの物理的な実体を伴って自律的に行動するフィジカルAIと農業との融合ですね。 

 小宮山 日本の農耕地のピークは1961年の約609万ヘクタールです。しかし今は約420万ヘクタール。三菱総合研究所の予測によれば、2040年には約300万ヘクタールになると言われています。大きな原因は人手不足です。これに対しては農地の大規模化も必要ですが、困っているところは大規模化ができない中山間地です。ならば、ヒューマノイド(ヒト型ロボット)を活用していくしかありません。 

 ─ ヒューマノイドにはドローンなども含まれますか。 

 小宮山 もちろんです。ただ、ドローンの場合は航空法などの法律による規制がある。でもこれも先ほど申し上げたように変えていけばいいだけの話です。それを実現するためには「変えてください」と言ったって変えてくれないわけですから、実際に実行して実績をつくってしまえばいい。それで何が悪いんだと。 

 

世界は再エネに向かっている! 

 ─ 行動することが何よりも重要だということです。先ほどのエネルギーに関してもポイントは再エネだと。 

 小宮山 そうです。一番大事なのはソーラーシェアリングなんです。馬上さんが実際に縦×横が100㍍の1㌶の農地で実験しています。すると、1㌶で農産物の収入が年間で約300万円でした。品質も年収も周辺の農家と遜色ありませんでした。ソーラーシェアリングの場合は、そこに電気代収入が約2000万円入ります。 

 設備投資に約1億円かかりましたから、5年で投資した金額を回収できるという計算になります。5年で回収できるエネルギー投資などなかなかありませんよ。ですから、どんどんやるべきなのです。私は農業協同組合(JA)ともうまくやれると思っているんです。なぜなら、彼らにとってもいい話だからです。 

 ─ 経済安全保障につながる食の安全保障にもつながりますね。一方で足元ではホルムズ海峡の閉鎖でエネルギーの議論がより一層重要になっています。 

 小宮山 ええ。今の世界の電力構成の約9%が原子力、32%が再エネです。いま世界中で新しくできている設備の90%以上が再エネです。新しい原子力発電所はほとんどできていません。残りはガス火力か石炭火力です。世界が将来の電源構成がそうなると思っているということです。 

 もちろん、日本でいま原子力発電所を稼働させないと電力供給が難しい、電力会社の経営すら危うくなるという議論は分かります。しかし未来は違う。それなのに日本の議論は違う論調になっています。もはや鎖国した方がいいと言ってしまいたいほどです。将来のエネルギーは再エネだということは疑いようのない事実なのです。

〈特別鼎談〉 科学技術立国の再興、そして、”強い経済”を取り戻すには