皆さん、こんにちは!
科学コミュニケーターの倉田祥徳です。

みなさん、ダークマター(暗黒物質)という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
実は、この宇宙には、私たちが知っている物質のおよそ 6倍にもなる「目には見えない物質」が存在しています。
それが 「ダークマター(暗黒物質)」です。
まず名前がかっこいいですが、どうやら、その正体はいまだにわかっていないそうです。ダークマターは、本当に実在するのでしょうか。このブログでは、ダークマター研究の歴史を振り返ってみたいと思います!

ダークマターのはじまり ~銀河たちが集まった銀河団での観測

正体がわかっていないダークマター。その物語は、今からおよそ 90 年前の1930年代にさかのぼります。スイスの天文学者フリッツ・ツビッキー氏は、数百から数千もの銀河が“重力”で集まった巨大な集団である「銀河団」に注目し、その中にある銀河たちの動く“速さ”を観測しました。その結果、地球からおよそ3億光年離れた場所にある「かみのけ座銀河団」に属する銀河たちが、秒速約1000 kmという猛烈なスピードで飛び回っていることを発見しました。
ここで問題が生じます。
銀河が「銀河団」としてまとまって存在するためには、互いを引き止める十分な重力が必要です。しかし、星やガスなど、私たちの知っている物質の量から計算される重力では、この高速で運動する銀河たちをつなぎ止めることができないというのです。観測結果では、銀河団はバラバラに飛び散ってしまうはずなのに、実際にはまとまって存在している。この矛盾を説明するために、ツビッキー氏は「光らない質量があるに違いない(光らない物質による重力があるに違いない)」と考えました。これが、今日「ダークマター」とよばれている存在の最初の手がかりです。

かみのけ座銀河団のようすは、未来館の常設展示「未読の宇宙」でも見ることができます!

ダークマターは広がっている ~渦巻銀河の回転速度の観測

その後、ダークマターの存在をさらに強く示したのが、「銀河の回転速度」の観測です。渦巻銀河では、星々が銀河の中心をぐるりと回転しています。

渦巻銀河では、星々が回転している

重力がはたらくところほど、回転速度が速くなることは知られていたので、当初、中心には星やガスなど観測できる物質が多く集まっているため重力が強くはたらき、星々の回転速度は速くなると考えられていました。言い換えると、銀河の中心から離れるほど、星やガスなどの物質が少なくなるため、重力のはたらきは弱まり、本来であれば星の回転速度はゆっくりになるはずだと考えられていたのです。ところが1970年代、ヴェラ・ルービンらの精密な観測により、思わぬ事実が明らかになりました。なんと、銀河の中心から離れても、星々の回転速度がほとんど落ちていなかったのです。

渦巻銀河内の星々の回転速度を調べた結果、銀河の中心から離れても星々の回転速度は落ちていないことがわかりました。

この結果は、重力が銀河中心だけで強くはたらいているわけではなく、銀河の中心より外側にも強くはたらく重力が広がっていることを示しています。しかし、その外側を調べても、その重力を生み出すだけの質量をもつ物質を、私たちは見ることができません。つまり、私たちが見ることのできない“何か”が銀河の中心よりも外側にも存在していると考えるほかないのです。その“何か”こそが「ダークマター」です。この観測結果から、ダークマターについて、私たちは見ることができないものの、重力ははたらくという不思議な性質が少しずつ明らかになってきました。現在は、渦巻銀河周辺には、ダークマターが銀河全体を包むように球状に広がっていていると考えられており、その質量の分布(まとまり)のことを「ダークマターハロー」とよんでいます。

天の川銀河を包むダークマターハローのシミュレーション図。青色がダークマターの分布を示しており、銀河を取り囲むように、球状にダークマターが広がっているのがわかります。

ダークマターは通りぬける ~重力レンズ効果での観測

さらに、光の曲がり方もダークマターの存在を示しています。かの有名なアインシュタインが導きだした、重力に関する理論である「一般相対性理論」によれば、非常に大きな質量があると光の道筋はゆがみます。遠くの銀河から届く光が、大きな質量がある場所(強い重力がはたらく場所)の近くを通ると、背景の銀河が弓形に伸びたり、リング状に見えたりします。この「重力レンズ効果」を解析すると、そこにどれだけ質量があるかを調べることができます。

左は、重力によって光が曲がる「重力レンズ効果」の概念図(科学コミュニケーターブログ「"新しい天文学"の幕開け! 重力波の直接観測に成功」より抜粋)、右の図は重力レンズ効果によって、背景の銀河が人の顔のように見えています!

ここでも、ダークマターを考慮しないと矛盾が生じることがわかっています。ある天体の質量を 「重力レンズ効果」から実際に求めた値と、光で観測できる物質から見積もった質量の値 を比べると、この2つが一致しない場合があるのです。

重力レンズ効果から求めた質量と、光で観測できる物質から推定した質量を比べると一致しない場合があり、この差がダークマターの存在を示す手がかりになります。

重力レンズ効果から計算される質量は、光で観測できる物質だけでは到底説明がつかないほど、大きくなる場合があります。この差を埋めるには、質量をもち(重力がはたらき)、光では観測できない物質を追加して考えるしかありません。この追加された物質が「ダークマター」です。さらに、重力レンズ効果を用いると、どの程度の質量がどのように分布しているのかを調べることができます。そのため現在では、光による観測データと組み合わせることで、宇宙におけるダークマターの分布を調べる研究も盛んに行われています。

COSMOSプロジェクトが明らかにしたダークマターの分布

そして、重力レンズ効果を使った観測で、とくに有名な例が「弾丸銀河団」とよばれる天体の観測です。下の図は、2つの銀河団が衝突した“後“の姿をとらえたものです。

弾丸銀河団の観測例。オレンジや白の点は可視光(ハッブル宇宙望遠鏡・マゼラン望遠鏡)でとらえた銀河の位置を示しています。赤色はチャンドラX線観測衛星で観測された高温ガスで、銀河団の衝突によって加熱されたガスや塵などの通常の物質(知っている物質)を表しています。一方で青色は重力レンズ効果から推定された質量の分布であり、ダークマターの存在を示しています。

下に示したのは、この2つの銀河団が衝突した際のシミュレーションの図です。赤色で示しているのは、私たちがよく知る通常の物質からできた高温ガスです。通常、物質どうしがぶつかると、強い摩擦や抵抗を受けて減速します。そのため、赤い高温ガスは銀河団同士の衝突の衝撃をまともに受けてブレーキがかかり、中央付近にとどまっています。一方で、青色で示されるのは重力レンズ効果から推定されたダークマターの分布です。ダークマターは光らず、そして物質どうしの衝突による抵抗をほとんど受けません。そのため、青いダークマターは、まるですり抜けるように衝突を突き抜けて前方へ進み続けているように見えています。このことから、ダークマターは、光では見えないのに質量をもち、重力だけはしっかりはたらくというダークマターの不思議な性質が、弾丸銀河団の観測で鮮明に浮かび上がったのです。

弾丸銀河団における、2つの銀河団が衝突するようすを示したシミュレーションのようす

そして現在では、ダークマターが宇宙の中でどれくらいの割合を占めているのかまでわかってきています。宇宙誕生から約38万年後に放たれた「宇宙マイクロ波背景放射(CMB)」には、ごく小さな明るさの“揺らぎ”が残されています。このパターンを精密に調べることで、宇宙にどれだけ通常の物質(私たちが知っている物質)があり、どれだけダークマターがあるのかを知ることができます。観測の結果、私たちが直接見ている通常の物質は宇宙全体のわずか5%。ダークマターはその数倍の割合を占めていることがわかってきました。

私たちが知っている通常の物質は、宇宙全体のわずか5%ほどしかないとは、驚きです。

ダークマターの正体そのものはまだわかりませんが、あるかないか、で言えば“ある”と考えないと、私たちが今見ている宇宙の姿が説明できない。その結論は、今では揺るぎないものになりつつあるそうです。

 ここまでダークマターの歴史からその性質まで簡単に紹介してきました。歴史を追ってみていくと、ダークマターは確かに存在すると感じられる一方で、「ではダークマターの正体はいったい何なのか?」というもっとシンプルな疑問が残ります。研究者たちは、ダークマターの正体をどうやって探ろうとしているのでしょうか。ぜひ、科学コミュニケーターブログ「ダークマターの正体をめぐるガンマ線の“痕跡”」もあわせてご覧ください!

科学コミュニケーターブログ「ダークマターの正体をめぐるガンマ線の“痕跡”」はこちらからご覧ください!
https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20260325post-609.html



Author
執筆: 倉田 祥徳(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
【担当業務】
アクティビティの企画全般に携わり、来館者への情報発信や対話活動を行う。これまで、地球科学の最前線を紹介する企画展(Mirai can NOW第7弾「地震のほしをさぐる」)やノーベル賞関連のイベント等を担当。東北沖の大規模な海底掘削ミッション「JTRACK」のアウトリーチオフィサーとしても活動中。

【プロフィル】
大学・大学院と化学を専攻し、「植物の毒」について研究してきました。その後、シンガポールの日本人学校の教員として働く中で「教科書にとらわれず、多くの人と科学の“楽しさ”を共有したい」そんな想いから、未来館へ。

【分野・キーワード】
有機化学・植物病理学・理科教育