食材の品質重視、人手不足にひと工夫   1&D(ワンアンドディー)社長・髙橋淳の人材活用論

焼肉業界に暗雲 トランプ移民政策も影響

 焼肉店倒産が過去最多の46件(2025年10月30日時点)と前年を更新した。輸入牛肉や野菜などの原料高、人件費、エネルギーコストの上昇により、もともと高単価の焼肉店は価格転嫁が難しく、リーズナブルな価格を強みとしていた店は倒産に追い込まれている。

 物価高と実質賃金マイナスが続く中、家庭用食肉にも消費者動向の変化が見られる。食肉小売事業「ダイリキ」と、焼肉「ワンカルビ」などの飲食事業を行う1&D(ワンアンドディー)社長の髙橋淳氏は次のように語る。

「コロナ禍以降は焼肉業界はどこも好調であったが、今年の夏くらいからトレンドが変わって来た。先に動きが出てきたのは小売り事業で、今まで牛肉を食べていた家庭が豚肉に、豚肉を食べていた家庭が鶏肉にシフト。飲食事業の方は、ハレの日需要があり、多少高くても絶対に失敗しない店という安心感ニーズを拾えている状況」

 米国産牛肉の相場も近年上がり始めているのに加え、円安という重荷が重なり、焼肉店における原材料高騰は死活問題だ。

「(牛肉の)収穫数やマーケットの問題もあるが、トランプの移民政策も大きな影響を与えている。メキシコなど多国籍から来ている人材が米国に入国できなくなり、結果的に雇用者の賃金上昇も招き、ミートパッカー(食肉用の家畜の解体から加工・卸売までを行う精肉業者)が大赤字のため、そのしわ寄せが輸入牛肉にきている」(同氏)

 一方、飲食業界はファストフードや客単価の低い飲食店は好調。多業態を展開する外食企業のコロワイドは2025年4〜9月期連結決算説明会で、「フレッシュネスバーガ―」や「大戸屋」は2桁成長で好調の半面、客単価が高い業態は客数減に影響を与えており、焼肉業界最大手ブランドの『牛角』が一番その影響を受けていると発表した。社長の野尻公平氏は「『牛角』は財布の紐が固くなっている影響が一番大きく出た。お客様が飽きないようなフェアを打ち、客数巻き返しを図る」と話した。

成長の鍵となるのはチーム力

 厳しい外部環境下で、1&D(ワンアンドディー)は良い業績を保っているのはなぜなのか。同社は1965年に大阪の精肉販売店から出発、現在は関西、九州エリアを中心に外食135店舗、小売45店舗の計180店舗を展開する。コロナ禍以降成長を続けており、25年3月期の売上は367億円、社員は約630名でアルバイト・パートを含め1.1万人の従業員を抱える。

 他社との差別化は〝肉屋がやる焼肉屋〟。他店は冷凍肉をカットするところが多いが、同社ではチルドの肉を店内でカットしている点が大きく異なる。肉はカットの仕方で美味しさが全く変わる。新入社員にはマイ包丁を渡し包丁の研ぎ方から始まり基礎技術を徹底。検定試験で5級以上を取らなければ店長になれない人事制度がある。

「われわれはもともと食肉小売からスタートしている技術屋集団。この技術屋集団を育成するためには直営でないと難しい。時間も手間もかかるが、人を育て、着実に1店舗ずつ良い店を作っていく戦略」と髙橋氏。

 また、技術を高めると同時に「経営で最も重要なのは採用」だと強調する。2008年の社長就任時から、将来の少子高齢化における成長戦略を見据え、インナー採用の仕組み化に注力してきた。

   インナー採用とは、社員をアルバイトから採用し、アルバイトは紹介してもらい採用するという仕組み。現状、従業員の7割弱はアルバイト出身だ。これは当然、雇用条件、店舗の風土、働き甲斐、人間関係が良くなければ成立しない。職場が良い場所でなければ人に紹介しないし、人手不足による売り手市場の中、社員に上がりたいとも思わない。

「お客様に触れるほとんどがアルバイト。彼らの成長が店舗の成長で、店舗の成長が会社の成長となる。従ってアルバイトのモチベーションをどう上げるかが経営の根幹たるところ」(同)

 そのため店舗はアルバイトリーダーが主体で社員はオブザーバーという立場の体制を敷く。BSC(バランス・スコアカード)をもとに事業計画書をつくり、それに基づき毎月のPDCAを回す。一店舗に在籍する80~100人の高校生大学生のアルバイトの店舗運営会議の参加率は97%だ。

 なぜこんなにもチーム力が高いのか。その鍵となる取り組みの1つに「気づきメモ」というものがある。店や学校のことや、プライベートのことなど、テーマは問わず気づいたことをメモして貼っていき、メモに対して誰かが返信コメントをする。これにより、間接的に店舗内でのコミュニケーションが活性化されている。この「気づきメモ」は良いものは選ばれ共有され、最終的には従業員全員が投票して全社内で表彰される仕組みにもなっている。2009年から継続して行っている取り組みが、従業員のモチベーションの1つにも繋がっている。

 紹介での採用から始まり、従業員同士のコミュニケーションが団結力につながり、良い業績を出し、会社を成長させるという循環が同社の強さといえる。

「店舗のデザインやメニューは目に見える価値で真似しやすいが、インナー採用、気づきメモなど会社の仕組みは簡単に真似できない。目に見えない価値を上げることにより、目に見える価値を上げる」と髙橋氏。カリスマ性に頼らないチーム力による仕組み化構築は、岳父の創業者から引き継ぎ経営素人であった商社マンの髙橋氏ならではの経営戦略である。

※本誌1月7日号の誌面において、社名「ワン・ダイニング」は誤り、正しくは「1&D(ワンアンドディー)」です。お詫びして訂正します。