
最先端技術と文化の融合を掛け合わせた新しい産業創出を目指して、2025年4月博報堂が指揮を執り共創型プラットフォーム一般社団法人「Planetary(プラネタリー) Platformers(プラットフォーマーズ) Initiative(イニシアチブ)」(PPI)を設立。社会課題解決へ向けたPPIの様々な取り組みを聞く――。
日本再生は閉塞感打破から
─ 時代の転換期ということで、これからの産業の価値について様々な取り組みをされている西山さんと春日さんに、それぞれ話を伺います。高市政権誕生で日本経済を強くする戦略を打ち出されていますが、このあたりの考えから聞かせてもらえませんか。
西山 はい。博報堂DYグループが実施している生活者調査でも、今の若い世代の方々が、20年後、30年後の未来に対して、なかなか希望を持ちにくいという閉塞感を抱えていることを強く感じています。
だからこそ、世の中に未来への期待感を取り戻していくことが重要だと思っています。
そのためには、政府だけでなく、われわれのような民間企業も、未来に期待を持てる産業の仕組みや変革を自ら生み出していかなければならない。私はそう考えています。
にしやま・やすお:1966年東京都生まれ。上智大学法学部卒業。1989年博報堂入社。25年4月博報堂取締役(現任)。25年6月から現職
─ 変革を起こす経済リーダーたちの役割は非常に大きいですね。春日さんはどんな感想を持ちましたか。
春日 この結果は現経営者の方たちにとっては強烈なインパクトを与えたと思いますし、まさに時代の転換期にあると感じています。
わたしは大学で平成生まれの学生に講義をしていますが、彼らは日本がかなり危機的状況にあることはわかっています。
日本は失われた30年間、GDP自体500兆円前後で横ばいのまま、実質的には貧しくなっていっています。そういう中で、日本経済を牽引するものづくり産業はアップデートできていない。要は付加価値が高い産業になっていないんです。
では日本のものづくりに何が必要なのかというと、いわゆる伝統的な日本の文化とか、日戦後生まれた漫画やアニメのサブカルチャーとの掛け合わせです。わたしが提唱しているサイエンスアートは、これまでに培った産業を大事にしながらアップデートし、付加価値を高めて高く売れるようにしていくといいうことです。そこには日本の伝統文化や美意識が不可欠だと考えています。
かすが・ひでゆき:1973年長野県生まれ。東京工業大学大学院修士課程修了(工学修士)後、大手複合材メーカー入社。フランス駐在、エクス-マルセイユ大学留学。家業NiKKi Fron(株)社長を経て、国内外で素材を軸にライフスタイル全般に価値を提供するコングロマリット「hide kasuga group」代表。2018年信州大学博士課程修了(工学博士)信州大学特任教授
─ 美意識を掛け合わせて付加価値を上げていくと。博報堂DYグループは広告会社として価値の創造をやってきていますが、創造力についてはどう考えますか。
西山 われわれは、生活者の微細で本質的な感情や、潜在的な幸福感、そしてまだ世の中には顕在化していない課題の兆しを捉えることを起点にしてきました。
その上で、企業が長年培ってこられたサービスやプロダクトの価値を可視化し、さらに新たな価値を構想し、生活者へ届けるお手伝いをしてきたと思っています。これまで多くの企業とご一緒する中で蓄積してきた知見や経験を、次の産業モデルの創出にも生かしていきたい。今はその力を発揮すべきタイミングだと感じています。
─ つなぐ役割は博報堂DYグループだからこそできることですね。
西山 はい。異なる価値や技術、思いをつなぎ合わせ、新しい意味や価値へと編集していくところに強みがあると思っています。そうしたクリエイティビティを通じて、これまで交わりきれていなかったプレーヤー同士をつなぎ、新たな可能性を形にしていきたい。その意味でも、春日さんと出会えたことは非常に大きかったと思っています。
春日 わたしは、家業も、サラリーマン時代も、重厚長大の企業の中にいましたから、そこで閉塞感を感じて起業に至っています。クリエイティブな分野の創造産業も、従来の産業と本当はつながっていきたいのになかなかできないのが現実です。
ですからわたしは約15年前に家業からスピンアウトして、自分の会社を作り、東京や海外に出てやってきました。その時には工場もない契約もない中、パイプラインは人脈でした。
─ 人との出会いで発展してきたと。
春日 ええ。西山さんを含めこれまでいろいろな方たちと出会い、共感やビジョンの共有をしてきました。そうやってたまたま出会った方と話をすると、「春日さん、それは日本にとって重要だ。けどやる人はいなかったね」と言っていただけることが多かったんです。
自分は変わり者だと自覚していますが、循環型経済は社会にとって必要だと主張しつづけて、同じように必要だと考えている人に出会うことができました。そういう人たちに出会えなかったら今のわたしはないでしょう。ですからベンチャー企業の起業家は本当にいかにたくさんの人と出会うかが重要だと思います。
日本企業に必要なことは
─ 日本の産業で魅力ある分野はどういった分野ですか。
西山 例えば、日本の農業分野には大きな可能性があると感じています。これまでの日本の農業は、人の高い技能や、丁寧なものづくりの感覚によって支えられてきました。その営みは非常に労力もかかるため、技術や知恵を十分に継承しきれないという事業承継の課題も生まれています。
ただその一方で、土壌改良や品種改良など、非常に先進的な技術を持つスタートアップも次々と出てきています。世界的な競争の中にある分野ではありますが、日本にも十分に世界へ打って出られる競争力があると思っています。
独自性の高い技術ほど孤立しやすい面もありますので、われわれとしては、そうした技術や企業のネットワークを広げ、社会実装につなげていきたいと考えています。
─ 日本企業で力を掛け合わせていけば、世界で戦う潜在力はあると。
西山 はい。日本企業の力を適切につなぎ合わせていけば、世界で十分に戦える潜在力があると思っています。
わたし自身、海外のさまざまな方とお話しする機会がありますが、その中で、日本の企業や技術は新しい社会の基盤づくりに確実に貢献できる、という感触を持っています。
今、インバウンドの方々が多様な角度から日本の魅力を再発見してくださっています。日本人自身が気づいていなかった価値を、むしろ海外の方が先に見出している、という現象も起きています。
また、春日さんのように海外で生活された日本人が、外から日本を見直すことで得る気づきは、日本の価値を再編集し、世界に伝えていく上で非常に重要だと感じています。
─ 春日さんはヨーロッパにいるときに感じたことはどういったことでしたか。
春日 フランス、ドイツ中心に6年、タイに1年いましたが、長い歴史や文化といったヨーロッパにあるものは、元々日本にもあります。あるのにただそれをうまく発信していないのです。
日本は世界一のものづくり大国になりましたが、韓国、中国、台湾などがすぐ後ろにきているのに、アップデートができていません。失ってしまった30年間は、いわゆる実装化をやっていなかったことが原因だと思います。われわれ日本人が、もっと日本の良さを知るべきだとわたしは強く思います。
─ 教育も含めて大事なことですね。インバウンドの方からすると、日本は安いということも魅力ですが、価格の適正化ということも産業界の重要な課題です。
西山 適正な価格づけが難しかった背景には、結局のところ、自分たちの商品やサービスが世界の価値の中でどの位置にあるのかを、十分に比較し、捉えきれてこなかったことがあるのではないかと思います。
春日さんが取り組まれている素材ビジネスは、本来世界を変えうる意思を持ったものだと思っています。しかも、それをあえてテーブルウェアのような、生活者が直感的に価値を感じるBtoCの領域で形にしようとしている。そこが非常に面白い。
人がブランディングとして最も実感しやすいのは、日常の中で触れられ、かつ広く開かれたものです。そうした領域で価値が成立すれば、素材そのものの価値も、これまでとはまったく違う次元に引き上がっていくと思います。難しい領域だからこそ、そこに挑んでいる点に大きな可能性を感じています。
春日 もともと自動車や電気半導体が専門のエンジニアですから、今ライフスタイルという相当畑違いのことをやっています(笑)。しかし、エンジニアリングや研究は社会的な課題を解決するためにあり、ライフスタイルを作る源泉だと考えています。
西山 春日さんのおっしゃる通り、研究と社会は本来、分断されるべきではないと思っています。
わたしは「ビジョンプロトタイピング」という言葉を大事にしたいと思っています。いま産業界が取り組んでいる技術や開発、あるいはプロダクトやサービスのプロトタイプが、将来、街や暮らしの風景をどう変えていくのか。そこまで見えなければ、人はなかなか投資できません。
だからこそ、生活者へのマーケティング支援だけではなく、投資家の方々にも、われわれが構想する未来の価値を伝わる形にしていくことが重要だと思っています。
昨年4月に設立した「Planetary Platformers Initiative(PPI)」では、参画企業の皆さんとともに描いているビジョンを、日本だけでなく世界中で価値化し、実証していきたい。そして、広告会社とベンチャー企業の連携のあり方そのものが、新しい産業モデルとして広がっていけばいいと考えています。
共創型プラットフォームPPIの構想は
─ 地球全体の社会課題を解決していこうという目的で設立されたPPIですが、春日さんのやってきた事業は、廃棄物を素材として再生し新たなものを生み出すサーキュラーエコノミー型ですね。
春日 ええ。やっと世の中でもその価値観が重要視される時代になり感慨深いです。
例えば天然の天ぷら油を再利用し素材として新たなものに生まれ変わらせるという営みは、従来の石油系の5倍~10倍のコスト高になってしまいます。地球のために使いたい気持ちは皆さんあるので、そこで少し高くても使いたくなるようなモチベーション作りが重要だとわたしは思うのです。
それには、性能や環境調和だけではだめで、それを普及させるにはストーリー性や地域性が不可欠です。
きちんとブランディングができた素材を異業種間で協力しながら使えば、サーキュラーエコノミーがより活性化します。要は同じプールに集めて、大きく回していくためにはプラットフォームが必要だということです。それがまさにPPIの根本思想です。
─ その思想を持った仲間をPPIに募って活動すると。
西山 そうです。さまざまな企業の方々に参加いただき、多様なテクノロジーを単なる個別技術としてではなく、社会や暮らしの文脈の中でOS的に実装していくことを目指しています。
有難いことに、設立時点からすでに同じ志を持ってくださる産官学の方々に参加いただいています。この活動は、単にネットワークを広げることだけが目的ではありません。同じ理念を共有できる方々とつながりながら、社会実装を前に進めていくこと。そこにPPIの今の本質的な役割があると考えています。
─ 新しい事業の発掘にもつながりますね。ベンチャーキャピタル機能的な要素も持つんですか。
西山 はい。ベンチャーキャピタルの方々を含め、さまざまな立場の方からお問い合わせをいただいていますし、われわれとしても継続的に投資の可能性は検討していきます。
ただ、単にご一緒すること自体が目的ではありません。それぞれの強みをつなぎ合わせながら、都市OSや生活OSを支えるような長期的な価値をどう創れるか。そのためのビジョンや価値観を共有できるかどうかが、最も重要だと考えています。

