
4ブランドから5ブランドへ
「『ジャパン・プライド』。それを背負って生まれたクルマがセンチュリーだ」─。2025年10月29日に行われた「ジャパンモビリティショー 2025」に登壇したトヨタ自動車会長の豊田章男氏は意気込む。
モビリティショーでは各社のトップが自社の見どころなどをプレゼンするが、豊田氏が姿を現したのは大衆ブランドの「トヨタ」や高級ブランド「レクサス」、軽・小型ブランドの「ダイハツ工業」ではなく、超高級車「センチュリー」だった。トヨタはそのセンチュリーを新たに独立したブランドとして確立させる。これによりスポーツブランド「GR」を加えれば、トヨタのブランドは5つになる。
センチュリーと言えば、日本で本格的なショーファーカー(専属の運転手がいるオーナー向けのクルマ)として誕生。価格も2000万円程度と数百万円の他のクルマとは別格だ。そもそも購入する層も主に社会的地位や財力を持つ人が多く、企業経営者や大手企業の役員、芸能人などが挙げられる。
センチュリーの販売台数は売れ筋の車種でも年間600~700台程度。世界で約1000万台を販売する同社にとって、台数面で大きな存在感を示す規模ではない。
しかし、センチュリーは国内工場で、1台ずつ手作業で製造される。他車の工場と異なり、クルマを次々と送る長い生産ラインもなく、設備や機械が発する大きな音も聞こえない。静かで広々とした空間で「クラフトマン(職人)」と呼ばれる少数精鋭・熟練の作業者により製造されているのだ。通常の塗装は4層だが、センチュリーは7層だ。
センチュリーが特別なのは製造だけではない。そもそも商談はトヨタが認証する「マイスター」が在籍する販売店でしかできず、そのマイスターも全国で600人ほどしかいない。商談時には氏名や住所、勤務先などと共に「センチュリーへの想い」を記入する欄もある。また、購入時には手付金が必要。購入者の本気度を確認するためだ。
他でセンチュリーと同じような位置づけにあるクルマと言えば、独メルセデスの最高級ブランド「マイバッハ」がある。旧ダイムラー・クライスラーがメルセデス・ベンツを超える高級車として開発し、独立したブランドにしたのが2002年。ただ、その後、廃止されて14年にメルセデスのブランドとなった。
足元の自動車業界は電気自動車などの電動化に加えてAIなどを組み込んだ知能化の領域が競争の軸に加わりつつある。米トランプ政権の関税策や環境規制の緩和で、電動化ではガソリン車やハイブリッド車への揺り戻しが起こっている。その中でトヨタがセンチュリーをブランドとして独立させる意義はどこにあるのか。
2人の開発者の思い
「センチュリーは台数や売上高を追う車ではない。他のクルマのように販売台数を増やし、収益を上げて社会に貢献するのではなく、日本のものづくりや伝統・技術などの日本の自動車産業のシンボルを世界に示すことが使命だ」とミッドサイズビークルカンパニーMS統括部副部長の田中義和氏は意気込みを語る。
豊田氏にとってもセンチュリーは特別な存在だ。1930年代、「日本人には自動車はつくれない」と言われた時代に豊田喜一郎氏がトヨタを創業し、戦後の53年に同社で初の主査となった中村健也氏と章男氏の父である元社長・会長の豊田章一郎氏の2人のエンジニアがセンチュリーの開発を始めたからだ。
当時の中村氏の姿勢はセンチュリーが「同じでないこと」。鳳凰のエンブレムには江戸彫金、シート生地には西陣織など、日本の伝統・文化を取り入れた。
豊田氏は「そこには『自動車産業の成長なくして日本の発展はない』という信念と、『戦争で多くを失っても日本には技術の蓄積がある』という誇り、そして『世界に誇れる車をつくりたい』という夢があった」と話す。今回のショーでは新たにセンチュリーのオレンジ色のクーペ(車高が低く、流れるようなデザインが特徴のスタイリッシュな車)が披露されている。
外板色の「緋色」は日本の伝統色。エンブレムには江戸彫金など日本の伝統や文化を取り入れている
業績面では目下、トヨタは奮闘中だ。通期で1兆4500億円の影響が出る見込みのトランプ関税が重荷となる中でも25年4―9月期の営業利益は前年同期比18.6%減の2兆56億円。赤字や利益の大幅減に沈むメーカーがある中でも健闘。
米国だけでなく、中国や欧州などの全地域でバランスの良い販売網を持ち、各地域のニーズに合った車種を展開できていることがその要因だ。象徴的な例ではアフリカや中近東などを含めた「その他地域」が営業利益を2000億円近く捻出した。車種でも地域でも〝全方位〟を掲げる戦略が奏功している。
しかし、懸念材料もある。供給網では、オランダと中国の両政府による対立が激化し、電動車に必須の半導体の確保が課題になりつつある。同様に今後はレアアース(希土類)でも同じようなリスクが起こりかねない。
また、トヨタ個社に関して言えば、下請け企業に金型や部品を無償で保管させていたのは下請法違反に当たるとして、公正取引委員会がトヨタ自動車東日本に再発防止を勧告。親会社のトヨタの発注マニュアルが違反行為につながったと判断し、トヨタ本体にも改善を求めている。
全方位戦略を掲げても、AIやコネクテッドなどの最先端技術を導入しても、クルマづくりには〝核〟が必要。トヨタの場合は職人による匠の技術だ。550万人の雇用を抱える日本の自動車工業を成長させるかどうか。センチュリーの独立ブランド化がその成否を分ける。
【創業120年】日本旅行社長・吉田圭吾「日本で最も歴史ある旅行会社として お客様を喜ばせるチャレンジ精神を発揮していきたい!」
