愛媛大学と大阪大学(阪大)の両者は10月30日、南天のちょうこくしつ座の方向、約1000万光年の距離にある渦巻き銀河「NGC 7793」内に存在する、「超臨界降着」が起きているとされる中性子星「NGC 7793 P13」(以降「P13」)について、2011~2024年の長期観測データを基にその放射X線の長期変動を調査した結果、落下するガスの放つX線の明るさと中性子星の回転速度の未知なる関連性を発見したと共同で発表した。

  • NGC 7793銀河とP13

    NGC 7793銀河とP13(X線・可視光・Hα線のデータの合成画像)。(c)X-ray(NASA/CXC/Univ of Strasbourg/M.Pakull et al)・Optical(ESO/VLT/Univ of Strasbourg/M.Pakull et al)・H-alpha(NOAO/AURA/NSF/CTIO 1.5m)(出所:共同プレスリリースPDF)

同成果は、愛媛大大学院 理工学研究科の善本真梨那特定研究員(研究当時・阪大所属)、宇宙航空研究開発機構(JAXA) 宇宙科学研究所の米山友景特任助教、東京理科大学 理学部第一部 物理学科の小林翔悟講師、阪大大学院 理学研究科の小高裕和准教授、同・川室太希助教、同・松本浩典教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する天体物理学を扱う学術誌の速報版「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。

10年以上ものX線モニタリングで得られた謎の一端

中性子星やブラックホールは、強い重力で周囲のガスを引き寄せる「降着」現象の過程で、光を放射する。その際、単位時間あたりのガスの降着量と、放射光の明るさには比例関係がある。そのため、天体の重力と放射による圧力のつり合いで決まる「エディントン限界」を超えると、多量のガスが天体に落ちる(=明るく光る)ことはできないと、これまでは考えられていた。

しかし近年、その限界を超えて明るく輝く天体が多数発見されている。その極端な明るさを生むメカニズムとして、異常なほど多量のガスが一気に天体へと降着する超臨界降着が提唱されている。だが、それが具体的にどのように起きるのか、詳細は不明な点が多い。そこで研究チームは今回、P13に着目。その性質を詳細に調べたという。

P13は極短周期の0.4秒で高速自転しており、しかも加速中だ。さらに、P13は極端に明るいことから超臨界降着が起きていると考えられ、過去約10年でその明るさが100倍以上にも変化していた。このように超臨界降着する中性子星は、強重力、強磁場、高速回転、高光度の極限状態にある究極の天体といえ、これまで約10天体しか見つかっていない。

中性子星は強い重力に加え、並外れて強い磁場(典型的なもので約1兆ガウス)も持つ。そのため、降着ガスはその強力な磁場で進路を制限され、最終的に中性子星の磁極付近に集中的に落下する。この時、磁極付近に溜まったガスが作る柱状構造は「降着柱」と呼ばれ、これがX線で明るく輝く。地球から降着柱を見た場合、見る角度は中性子星の自転に伴い変化する。その結果、灯台のような周期的な明滅(パルス)が観測されるのである。

降着ガスの放つ明るさと中性子星の自転速度の変化の割合は、単位時間あたりに降着するガス量に依存する。より多くのガスが回転しながら落下すると、中性子星の自転速度はその勢いを受け取ってさらに高速化する。つまり、ガスの落下の勢いが強いほど、自転速度の加速率は大きくなる。しかし、超臨界降着する特殊な中性子星については、この関係性は不明瞭だった。特にP13は、過去に100倍以上も明るさが変化したにも関わらず、自転速度の加速率は一定のままで、相関の見られない天体として知られていた。

今回の研究では、複数のX線天文衛星とX線観測装置(XMM-ニュートン、チャンドラ、NuSTAR、NICER)の観測データを用い、従来にない長期間(2011~2024年)でP13のX線の明るさと自転速度の変動が調べられた。その結果、P13は2021年まで暗かったが、2022年以降に再び明るくなり始め、2024年までにその明るさが100倍以上に変化した。これは、過去最も明るかった時期と同程度だ。

さらに、2022年以降の増光時における自転速度の加速率は、2020年以前に比べて2倍に変化していた。この結果は、P13でこれまで不明瞭だった明るさと自転速度の加速率の関係性を示すもので、超臨界降着の性質の解明に迫るものだ。

  • P13の明るさと自転周期の時間変化

    P13の明るさと自転周期の時間変化。時点周期が短くなるほど自転速度は速くなり、両者は反比例の関係にある。図中の自転速度の加速率は傾きで表される(出所:共同プレスリリースPDF)

この加速率の変化は、2020年の暗い時期の前後で、P13の降着の仕方が変化したことを強く示唆する。そのため、P13のパルスの詳細な解析を行われた。その結果、約10年の明るさの変動に合わせ、中性子星の降着柱の高さが刻々と変化していることが判明。この明るさに伴う降着状態の変化は、超臨界降着のメカニズムに迫る重要な観測結果とした。

  • 中性子星の降着柱の形態変化

    明るさの変化に伴う中性子星の降着柱の形態変化(出所:共同プレスリリースPDF

研究チームは今後、P13の明るさに関するモニタリングを継続し、より長期的な傾向の解明を目指すという。また今回観測された、降着ガスの明るさと中性子星自転速度の加速率の相関が、どのような理論に基づいて降着柱の構造と直接的に関係しているのかが不明なため、コンピュータシミュレーションによって、この新しい理論モデルを構築したいとしている。