Zoho Japanはこのほど、製品の最新情報や活用事例を紹介するイベント「ZOHOLICS Japan 2025」を開催した。Zohoがグローバルで展開する製品が個別のセッションで取り上げられる中、注目を集めたのが人事・労務プラットフォーム「Zoho People」だ。日本市場では2026年度から本格的に日本の人事・労務関連法制への対応をスタートし、本格的に展開していくという。

Zohoは、すべての製品に対して横断的にAIプラットフォーム「Zia」を実装しているが、このZoho Peopleを通じてZohoは人事・労務をはじめとした人材マネジメントをAIによってどのように変革しようとしているのか。Zoho Peopleの製品責任者であるラジャ・ラマサミ氏と、日本市場におけるマーケティング展開を統括する前川大介氏に聞いた。

  • Zoho Peopleの製品責任者であるラジャ・ラマサミ氏

    Zoho Peopleの製品責任者であるラジャ・ラマサミ氏

クライアントの声から日本実装が決定されたZoho People

日本市場ではCRMをはじめマーケティングプラットフォームのイメージが強いZohoだが、人事労務管理システムであるZoho Peopleの歴史は古く、サービス開始から15年以上が経ち、グローバルでは150カ国で100万人以上が利用している。Zohoはマーケティングや営業支援だけでなく、会計、人事・労務、法務、セキュリティ、BIなど幅広く業務アプリケーションを展開しており、Zoho Peopleは人事部門の業務効率化を目的に従業員の管理やドキュメント管理など人事・労務事務の支援、研修管理やタレントマネジメントなどさまざまな機能を提供している。

そして、このZoho Peopleに組み込まれたZoho独自のAIプラットフォーム「Zia」は、例えばアシスタントとのチャットを通じて出退勤の記録や休暇申請を簡単にできるような仕組みを実現するなど、人事・労務業務における手間を効率化しているという。現在は英語のみ対応しているが、日本市場での本格展開にあわせて日本語にも対応する予定とのこと。

今後の製品ロードマップでは、従業員のスキルレベルを分析して必要な研修内容を自動的に提案する機能、キャリアにおける目標の自動設定機能、目標に対する実態を評価して改善策を提案する機能、人材の評価や職場との相性を踏まえて最適な配置を提案する機能、社員の離職予想や社員エンゲージメントの評価など人材マネジメントの機能を強化し、日本市場にも順次提供して計画だ。

そして、なぜこのタイミングで日本での本格展開を決めたのかについて、国内マーケティングを統括する前川氏は「クライアントや販売パートナーからのニーズが高かった」ことを背景に挙げた。営業・マーケティング支援製品以外ののニーズはこれまでもあったが、HR製品に対するニーズは突出して高かったのだそうだ。「近年、CRMだけでなくHRの製品も日本で展開してほしいという声が高まっている。その背景には他社のHR製品の価格高騰などもあるが、企業のシステム戦略としてZohoの製品で統一したほうが使いやすく管理がしやすいという意向が強い」と同氏は語る。

  • Zoho JapanでZoho Peopleのマーケティングを統括する前川大介氏

    Zoho JapanでZoho Peopleのマーケティングを統括する前川大介氏

営業・マーケティングと人材管理、企業から見た関連性とは

こうした幅広い製品群を展開することによるニーズの連鎖は、Zohoの描くビジネス戦略でもあることが、ラマサミ氏の次の発言にも示唆されている。

「多くの企業がZoho CRMやZoho Workplaceなど個別の製品からZohoを導入するが、Zohoは関連製品を段階的に導入することで全社的な情報のエコシステムを作ることができる設計になっている。企業に対し一つのプラットフォームでさまざまなアプリケーションを提供することで、さまざまな業務にシームレスなデータ連携を提供することが可能だ」

営業・マーケティング製品と人事・労務管理製品のシームレスな連携とはどういうことか。例えば、Zohoでは営業支援ソリューション「Zoho CRM Plus」、マーケティングソリューション「Zoho Marketing Plus」、社内の生産性向上ソリューション「Zoho Workplace」といったビジネススイートを展開しているが、それらが人材マネジメントツールである「Zoho People」とどのように関わるのか。

最もわかりやすい例が人事評価だ。一般的な人事評価は、社員の個人業績や目標達成度のレポートを元に行われるが、Zoho PeopleはZoho CRM PlusやZoho Marketing PlusなどのデータをAIが直接参照して社員個人の業績を評価することができる。また、その評価をもとに社員のリスキリングのプランを提案したり、スキルアップの目標設定を提案したりすることも、AIを活用すれば可能なのだ。

「他のZoho製品と連携して従業員を評価し、成長のためのフィードバックを行うことによって、従業員全員のエンパワーメントを可能にする」とラマサミ氏。また前川氏も、「APIなどで複数のソフトウェアを連携させればできることかもしれないが、ここまでシームレスなデータ連携はZohoでなければできないと自負している」と語った。

人事・労務管理業務は、特定の「型」にはめられない

これまで営業・マーケティング関連製品を中心に製品を展開してきたZohoにとって、人事・労務管理ソリューションにはどのような価値が求められると考えているのだろうか。キーワードは「柔軟性」だ。

ラマサミ氏によると、世界で最も人口が多いインドには企業も無数にあり、また地方によって商習慣がまったく異なるのだという。例えば、南インドの企業と北インドの企業では求められる機能が真逆になることもあるそうだ。こうした多種多様なニーズに対応できるよう、Zoho Peopleでは幅広いカスタマイズニーズに対応できる柔軟性を備えている。「Zoho Peopleはインド市場で幅広い企業の人事・労務業務のニーズに対応してきたノウハウがある。この経験を日本市場でも生かしていきたい」(ラマサミ氏)

前川氏も、営業・マーケティング関連製品との考え方の違いについて「一般的にSaaS製品は、効果的な活用事例を学び導入する“ベストプラクティス”という考え方があり、Zohoの多くの製品でもこの考え方に基づいて活用されている。しかし、人事・労務管理の分野は企業ごとに仕組みが違う。人事評価の仕方も、勤怠管理のルールも、企業によって大きく異なる。システム側が定義することができない領域であり、システム側がこうした企業ごとの特色を吸収できる柔軟性を備えることが重要だ」と語る。

デジタルマーケティングの場合、ユーザーエンゲージメントの醸成やカスタマージャーニーの構築には他社の成功事例からの学びが大きな参考になる場合があるが、人材マネジメントの場合には企業それぞれにローカルルールがあり、特定の「型」に収まりきらない部分があるのだ。

加えて前川氏は、グローバルな製品であるZoho Peopleの価値のひとつとして、グローバルな人材戦略への対応を挙げた。日本は現在、少子高齢化による労働人口の減少、日本国内の需要減少という課題に直面している。こうした課題に対して、グローバルなビジネス展開と海外からの人材雇用というのは避けて通れない段階まで来つつあるが、Zoho Peopleはグローバルな人材戦略の実装を容易にするという。

「われわれは、Zoho Peopleの事業を通じてグローバルなレベルで蓄積されていく人事・労務管理のノウハウをもとに、グローバルな人材戦略についてアドバイスができる立場にあると考えている。これは日本市場に特化した人事労務サービスにはできないことだ。今後は社員の離職防止や人事評価の適正化などに貢献できる機能も、AIを活用しながら提供していければと考えている」(前川氏)

AIプラットフォームとの連携により、HRテックの進化を支える

最後に、ラマサミ氏にZoho PeopleとAIプラットフォーム「Zia」を通じて、企業の人事・労務管理や人材マネジメントにどのような価値を提供していきたいか、今後の展望を伺った。

「グローバルに展開しているZoho Peopleは、現在AIプラットフォーム『Zia』との連携によって発展を遂げている。今後もプライバシーの保護と顧客中心というポリシーを大切にしながら、HRテック全体の進化を支え、グローバルな人事・労務分野に長期的な価値をもたらしていく方針だ」(ラマサミ氏)