NTTドコモビジネス(旧 NTTコミュニケーションズ)とオムロンは10月14日、サプライチェーンにおいてスムーズな企業間グローバルデータ連携を実現するため、製造現場と外部ネットワークを連結した「セキュアデータ連携ソリューション」提供に向けた連携を開始すると発表し、記者説明会を開いた。
両社は今後本格化すると予想されるManufacturing-Xなどの国際データスペースの社会実装に向けて、東京大学大学院・情報学環の越塚登教授が主催する「東京大学データスペース技術国際テストベッド」に参画し、産学連携による共創を促進する。
NTTドコモビジネスでグローバルデータスペースのエバンジェリストを務める境野哲氏は、「データスペースは製造業やものづくりにおけるAI活用を大きく変える可能性がある。今回の発表内容はものづくりとデータ利活用において、全く新しいフェーズへの第一歩となるはず」と、期待を見せた。
グローバル市場におけるデータプラットフォームの潮流
Industry4.0の進展やIoT・AI・ロボットの普及により、製造業界ではサプライチェーンのグローバル化と共に複雑化が急速に進んでいる。企業全体の生産性やエネルギー効率の向上、コスト削減や納期短縮なども強く求められるようになっており、安定した事業継続と競争優位性の確保には、サプライチェーン全体のレジリエンス強化が急務とされる。
特に近年では欧州を中心に、衣料品や洗剤、IT機器などの消費において、原料の安全性や製品ライフサイクルにおける環境負荷などを示すDPP(Digital Product Passport:デジタル製品パスポート)の段階的な義務化が予定されている。
そうした中で、単なる規制対応ではなく競争優位性を確保するためには、信頼性のあるデータ管理を実現する必要がある。カーボンフットプリントなどのデータを人が入力したり、推定値で代替したりするのでは、信頼性が高いとは言えない。機器が計測した正確なデータを、改ざんされないようにサプライチェーン全体で連携し、管理するのが望ましい。
しかしながら、製造現場では現場機器や装置ごとにデータ形式や接続方法が異なるため、データの収集と分析が容易ではない。加えて、製造現場の多くは中小企業であるため、IoT分野の専門人材不足や、収集したデータの活用に必要なソフトウェア・ネットワーク・クラウドの運用ノウハウ不足など、データ利活用には多くの課題が残されている。
加えて、従来のOT(Operational Technology)とITはセキュリティや運用上の理由から、分離された環境で構成されてている場合が多く、相互接続には慎重な設計が求められる。近年ではOTとITのデータ連携を企業内にとどめるのではなく、企業間でもデータ主権を守りながら効率的にデータを共有できる仕組みが検討されている。
ドイツの自動車産業のデータエコシステム「Catena-X」をはじめ、ロボット業界の「Robot-X」や組立製造の「Factory-X」など、同様のモデルは他の製造業にも拡大している。また、これら業界横断の共通機能を提供する「Manufacturing-X」では、各業界に共通する標準やフレームワークが検討されている。2026年6月にはドイツを中心にManufacturing-Xの運用が開始される予定だという。
日本国内においても企業間データ連携への対応が進んでいる。その一例が「ウラノス・エコシステム」で、経済産業省を中心にデータ連携の基盤整備が実施されている。ウラノス・エコシステムでもManufacturing-Xなどで使われているデータスペースの仕様と相互連携が可能な方式が検討されている。
両社のOT技術とIT技術を連携した「セキュアデータ連携ソリューション」
NTTドコモビジネスとオムロンは2022年10月から、オムロンが強みとする工場・製造現場におけるファクトリーオートメーションの技術と、NTTドコモビジネスが持つITソリューションを活用し、Catena-X標準データスペースなどとの接続に向けたソリューションの共同開発、および実証実験に取り組んできた。
今回、オムロンがカーボンニュートラルに必要な現場データを収集できる「データフローコントローラ」を販売開始し、NTTドコモビジネスがセキュアなNaaS(Network as a Service)を提供可能になったため、両社は「セキュアデータ連携ソリューション」提供に向けた連携を具体化する。
オムロンでデータフローコントローラの開発を担当した朴帝映氏は「これまでにも、OTとITをつなぐコンセプト自体は多数あった。今回の違いは、具体的なソリューションとして、明日にでも幅広い業界のお客様に使っていただける点だ」と、両社の取り組みの意義を説明した。
オムロンはデータ収集のためのコントローラを提供
オムロンが提供するデータフローコントローラは、製造現場で稼働するセンサーやコントローラなどの制御機器の稼働データを、専用プログラムやソフトウェアを必要とせずに収集し分析できるエッジコントローラ。
製造現場での使用を想定したデータ分析向けのミドルウェアを標準搭載し、既存設備にイーサネットケーブルを差すだけで機器接続が可能。また、データ処理のプロセスが理解しやすいユーザーインタフェースで、画面上で収集したい処理ブロック(コンポーネント)を線でつなぐだけでデータの処理フローが作成できる。
設備監視や状態監視、工場監視などの主要な指標データをテンプレートで提供するパッケージを搭載し、工場長から現場作業者まで目的に合わせた階層構造でデータを表示する。PythonやC言語での複雑な計算処理など、現場環境に合わせたカスタマイズにも対応。
三菱-MELSECシリーズ、ジェイテクト-TOYOPUCシリーズ、キーエンス-KVシリーズなど、複数の国内メーカーに対応し、他社PLC(Programmable Logic Controller)を使用している場合でも、機器やソフトウェアの交換をせずに設備を稼働したままデータ収集を開始できる。さらに、設備に後付けで設置できるため、データ収集を開始する際に生産を止める必要がない。
NTTドコモビジネスはセキュアなNaaSを提供
NTTドコモビジネスは通信キャリアとして培ったノウハウを活用し、ネットワーク組込型セキュリティを備えたNaaS「docomo business RINK WANセキュリティ」および「docomo business SIGN」を提供している。
IoTデバイスがサイバー攻撃の標的とされるリスクが増大しており、不正アクセスの踏み台として利用され、気付かないうちにサイバー攻撃に加担する事例も発生している。しかしIoT機器のセキュリティ対策は困難な場合が多く、端末側ではなく上位のネットワークでの対策が有効と考えられる。
そこでNTTドコモビジネスは、オンデマンドにブラウザからネットワークを利用でき、従量課金型のモデルでICT機能を利用可能なNaaSを提供する。これにより、ネットワークとセキュリティを一体として導入できるようになり、現場のOTを安全にITに連携できる仕組みを提供する。
両社の連携により、オムロンのデータフローラコントローラに、NTTドコモビジネスのNaaSを接続することで、製造現場のデータを安全かつ簡便にクラウドやデータスペースへ接続できるようになる。
両社のOT技術とIT技術を連携した「セキュアデータ連携ソリューション」を提供することで、企業間で信頼性が担保されたデータの共有と連携が可能な基盤を構築し、製造業のカーボンニュートラルやデジタル化による競争力強化を支援する。
NTTドコモビジネスで営業部門を担当する松井大地氏は「NTTドコモビジネスでは既存環境からの円滑なマイグレーションや、中長期的な移行計画の策定を支援する。また、自社のケイパビリティを生かしながら、各業界に知見を持つパートナーとの連携を強化し、多様な現場の課題解決を目指す」と展望を語った。










