
話題に上らなくなっても重要な問題はある。トランプ関税もそうだ。4月に、トランプ関税を各国に課すると発表されてから、日本を含めて株価が急落する。交渉の結果、7月22日に日米合意が決まり、当初24%だった相互関税は15%へと引き下げられた。しかし、15%ならば大丈夫という話ではないと思う。株価も史上最高値を更新する場面も8月中にあったが、それをもって安心してよいと考えてはまずいだろう。
様々なデータを見ていてわかるのは、9月初めの時点で「トランプ関税によって輸出が激減した」という数字はまだ出ていない。各月ごとに上下動している。生産活動も4〜7月にかけて一進一退で、8・9月の予想は改善している。マインドは厳しめで、実数は堅調という印象になる。もう少し時間をかけて方向感を見極める必要があると思う。悪影響は、一気に表面化するのではなく、じわじわと9月から2026年3月頃にかけて成長トレンドを下押しするとみられる。
わかりやすい例として、エコノミストが景気後退リスクをどの程度みているかを数字にすると、8月時点で35.0%となる。これは月次のアンケート(日本経済研究センター、ESPフォーキャスト調査)であり、5月に39.7%まで悪化したときが最も景気後退の確率が高まった時期だった。最悪期は通過したが、まだリスクは残っているので、油断してはいけないと読むべきだろう。
先行きを占う変化としては、米国の政策金利の引き下げが好材料として挙げられる。これはトランプ大統領の圧力も一因になっているが、米中央銀行のFRB(連邦準備制度理事会)は9月中旬に一度利下げして、その後も継続して政策金利を下げると見られる。米国はよりインフレが加速すると思うが、日本企業にとっては、米国でトランプ関税分を製品に価格転嫁しやすくなる。これは、米国に輸出する国々で共通する追い風となるだろう。
おそらく、米国経済が上向けば、日本経済が景気後退に陥るリスクはかなり小さくなる。今後の展開として見ておくべきポイントは、①11月初めから発表される主要企業の半期決算、②11月中旬から始まる米国のクリスマス商戦の動向、③来年初の春闘に向けて各企業がどのくらい高い賃上げ率を維持してくるか、という3つになるだろう。
実は、日銀もこれと同じような点に注目していて、ある程度の見極めができるようになれば、利上げを再開することになるだろう。
さて、政府の側では、9月7日に石破首相が辞任表明し、次期首相の選出プロセスに入っている。次期首相が掲げるべきは、成長戦略だ。野党は、減税など分配一辺倒だから、対立軸として、トランプ関税の負担を十分に吸収できる企業収益の拡大を目指す。自民党にとってもチャンスになる。