
再エネの総発電容量は大型の原発5基分に相当
今年6月、エジプトでアフリカ最大の風力発電所『スエズ湾風力発電所Ⅱ』が商業運転を開始した。スエズ湾沿いのガルフ・エル・ゼイト地区に100基超の風力発電機を設置。
設備容量は654㍋㍗(65・4万㌔㍗)。今後、エジプト送電公社へ25年間にわたり売電する予定で、エジプトの一般家庭、約110万世帯の消費電力に相当する電力を供給する。
【著者に聞く】『エネルギーの地政学』 日本エネルギー経済研究所 専務理事・小山 堅
同発電所を運営するのは、豊田通商と傘下のユーラスエナジーホールディングスなどが出資する現地事業会社。すでに同地区では、2019年に『スエズ湾風力発電所Ⅰ』を運営。大型の原子力発電所1基分に相当する合計約91・6万㌔㍗の風力発電所を運営することになった。
「これまで当社の再生可能エネルギー開発は日米欧の先進国が中心だったが、これからは新興国にも展開していく。新興国の中でも、われわれが得意とするアフリカで再エネ開発が急速に進んでおり、当社としても積極的に再エネ開発を進めていく」 豊田通商社長の今井斗志光氏はこう語る。
豊田通商がアフリカで再エネ事業を強化している。2012年に買収した仏商社CFAO(セーファーオー)とユーラスが50%ずつを出資して、昨年4月にアフリカ専門の再エネ新会社「エオラス」を設立。すでにチュニジアで100㍋㍗の太陽光発電所の建設も始まった。
同社は再エネを重点事業の一つに位置付ける。2021年から2030年までの10年間で1兆円を再エネに投じる予定で、各国のニーズに応じて風力や太陽光などの再エネ開発を進めていく方針だ。グループで、再エネ事業の中核をなすのがユーラスである。
ユーラスの歴史は、豊田通商の前身トーメン時代に遡る。同社はトーメンの電力部門が源流で、2002年に現在の東京電力ホールディングスが出資。その後、東電が東日本大震災後の経営再建の過程で、22年に1850億円で豊田通商へ譲渡。豊田通商の完全子会社になった。
ユーラスは1999年に、北海道苫前町で国内初の大規模風力発電事業を開始。今では陸上風力を中心とした風力発電で国内最大手へと成長した。また、今年4月には、ユーラスと太陽光発電を手掛けるテラスエナジー(旧SBエナジー)を統合。今では国内首位の風力・太陽光発電事業会社となった。
現在は日米の他、欧州のスペイン、イタリア、オランダなどで再エネ事業を展開しており、中央アジアのウズベキスタンや中東サウジアラビアなどで開発を進行中。また、年内にも経済成長が進むインドで再エネ事業を行う新会社を設立。主にインドへ進出している日系企業向けに、太陽光を中心とした再エネ導入を支援するPPA(企業向け電力購入契約)事業を展開する。
「電化率の低いアフリカでは、経済成長と共に急速に電化が進むことは間違いない。また、サウジアラビアなども国家全体のトランスフォーメーションを進める中で、再エネ開発にも積極的になってきた。
風力や太陽光など、自然エネルギーのポテンシャルが高い地域を見極めながら、地域の特性に合った形で再エネ開発を進めていく」(今井氏)
すでに同社が持つ再エネの総発電容量は5㌐㍗(500万㌔㍗)と、大型の原子力発電所5基分に相当。今後は31年3月期までに再エネの総発電容量を10㌐㍗まで拡大させる方針だ。
中東のエネルギー転換など、まだまだ役割はある
日本は第7次エネルギー基本計画で、2040年度の電源構成について、再エネが4~5割程度(23年度は22・9%)、原発が2割程度(同8・5%)、火力が3~4割程度(同68・6%)とする見通し。
再エネを最大の供給源に高める方針で、太陽光は23~29%程度(同9・8%)、風力は4~8%(同1・1%)まで引き上げる考えだ。
ただ、日本の国土は山がちで、陸上で風力発電に適した土地は多くない。太陽光発電の適地も減少している。そして、再エネ導入の起爆剤とされた洋上風力では、三菱商事が秋田県と千葉県の3海域で開発を進めていた発電事業から撤退。
当初計画から建設費用が2倍以上に膨らんだことが原因で、今後はさらに撤退する企業が出てこないかが懸念されている。
世界でもトランプ米政権は脱炭素に消極的な上、2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、資源価格は高止まり。脱炭素のけん引役だった欧州でも物価高に国民が嫌気をさし、ひと頃に比べ、脱炭素に向けた機運はスローダウンしている。
それでも、長期的な脱炭素への移行は必要だ。化石燃料に依存する中東のエネルギー転換やアフリカでのエネルギー確保など、日本の企業が果たすべき役割はまだまだある。
こうした状況下、今井氏は「ユーラスとテラスエナジーを統合し、国内最大の風力・太陽光発電事業会社を立ち上げた。今後は発電にとどまらず、蓄電池を活用してエネルギーの調整、制御、マネジメントを行い、再エネを基点とした総合エネルギーマネジメント企業へと進化させていきたい。
そして、日本で培ったノウハウを世界中で展開していく」と意気込む。
現在は『次元上昇』をキーワードに、ビジネスモデルの進化を目指している豊田通商(インタビュー欄参照)。新生ユーラスを中心に、これまで培ってきた再エネ開発のノウハウを活かして、いかに新たなバリューチェーンを構築していくか。〝総合エネルギーマネジメント企業〟の進化へ、同社の挑戦は続く。