産業技術総合研究所(産総研)は9月29日、中部電力とともに、太陽光パネルのカバーガラスに含まれる希少元素の「アンチモン(Sb)」を抽出するための温和なプロセスを開発したことを発表した。
同成果は、産総研 マルチマテリアル研究部門の三村憲一研究グループ長、同・若林隆太郎主任研究員、同・大橋文彦技術担当主幹、産総研 材料基盤研究部門の赤井智子研究部門付と中部電力の共同研究グループによるもの。その詳細は、10月30日・31日に中部電力が開催する「テクノフェア2025」で展示される。
やがて訪れる太陽光パネルの一斉処分、希少元素をリサイクルするために
再生可能エネルギーの代表格として普及が進む、太陽光発電。その効率的な発電のために高い透明性が求められる太陽光パネルのカバーガラスには、製造過程で気泡が生じるのを防ぐため、希少元素であるSbを含む酸化アンチモン(Sb2O3)が使われている。
2010年ごろから、太陽電池モジュールの大規模な設置をはじめとする発電設備への投資が飛躍的に活発化する中、それらに用いられる太陽光パネルの耐用年数は概ね20~30年程度とされており、2030年代後半には大量の太陽光パネルが一斉に寿命を迎え、その受光面側を構成するカバーガラスも大量に処分する必要が生じると予測される。そのため、カバーガラスからSbを分離・回収する技術の実用化が求められているのである。
産総研によれば、これまでにもカバーガラスからSbを分離する方法は報告されているものの、広く実用化されるには至っていないとのこと。そのためカバーガラスからSbを省エネルギー条件下で分離・回収する技術が開発できれば、政府が推進する“資源循環型社会”の構築にも貢献できると期待されている。
そこで今回の研究では、太陽光パネルに使用されるカバーガラスの再資源化につながる要素技術の確立を目標に設定。省エネルギーで効率的にSbを抽出して分離・回収を達成するための手法として、研究チームは“水熱処理技術”に着目し、さまざまな水熱処理条件により処理された廃ガラス試料について各種分析を行うことで、より効率的なSb含有成分の抽出条件を探索したという。
同研究ではまず、使用済み太陽光パネルからカバーガラスを外し粉砕して粉末状にした後、その粉末を密閉容器で水と混ぜて撹拌しながら、一般的な圧力容器の標準設計温度以下で、1時間~6時間の水熱処理が行われた。その処理後に得られたスラリーは、遠心分離によって液相と沈殿物(粉末)に分離され、得られた粉末について蛍光X線(XRF)分析によるSb抽出率の算出とX線回折(XRD)法による生成物の同定が行われた。なおSb抽出率の算出においては、各試料のシリカ(SiO2)に対するSb2O3の含有率によって定義された。
そして両分析の結果、処理時間に伴って抽出率が上昇する傾向が示され、6時間処理後には約8割にまで達することが判明。また水熱処理後の試料において、ガラスの主成分であるケイ素(Si)を含む結晶に帰属可能な回折線が確認されたことから、これらの条件における水熱処理を経て結晶化されていることが確認されたとした。併せて、これらの回折線が処理時間の経過とともに強度が増大し、半値幅も狭くなることから、結晶の成長も確認されたとしている。
研究チームによれば、今回のように廃ガラス粉末に対して水熱処理を行うと、まずガラスからSbを含む成分が液相中に溶出すると考えられるとのこと。その後ガラスの結晶化に伴い、溶出したSbが決勝に取り込まれず液相中にとどまり続けることで、その抽出が可能になると考察しているという。
これらの結果から、水熱処理を用いた今回の廃ガラス処理方法は、太陽光パネルのカバーガラスを粉砕後に水と混合させ、一般的な圧力容器の標準設計温度以下で加熱するという、工業的にも十分実現可能な温和な条件下でSb含有成分を効率的に抽出可能なプロセスだと言えるとする。そして今後研究チームは、同プロセスの社会実装に向け、抽出メカニズムのさらなる理解によるSb含有成分抽出の高効率化、および反応スケールの大型化を行うとのこと。またSb含有成分からのSbの分離・回収・リサイクル技術の開発、ならびに得られる結晶化ガラス粉末の有効活用も目指すとしている。

