2024年9月に発足した石破茂政権は、就任からわずか1年足らずで幕を閉じることとなった。2025年9月7日の辞任表明は、参院選での与党敗北と党内分裂を背景に、苦渋の決断として受け止められた。しかし、この短い期間に、石破政権は半導体分野を経済安全保障の柱として位置づけ、積極的な政策を展開した。グローバルな供給網の脆弱性が露呈する中、日本が最先端技術で巻き返すための基盤を築こうとした試みは、注目に値する。
石破政権下で生まれた「AI・半導体産業基盤強化フレーム」
石破首相は就任直後、所信表明演説において「高付加価値創出型経済」への転換を強調した。半導体は、その象徴として位置づけられた。従来の補助金中心の支援から脱却し、複数年度にわたる計画的な枠組みを構築する方針が示された。これは、米中貿易摩擦の激化やAIブームによる需要急増を背景に、国内生産体制の強化を急務としたものだ。石破政権は、単なる産業振興ではなく、国家安全保障の観点から半導体を「信頼できる基盤」として捉え、国際協力も視野に入れた。
転機となったのは、2024年11月の経済対策だ。石破首相は記者会見で、半導体とAI分野への公的支援を複数年度で大規模に実施する方針を表明した。これにより、「AI・半導体産業基盤強化フレーム」と名づけられた新たな仕組みが打ち出された。従来の単年度補助では予測しにくい投資環境を改善するため、政府出資や債務保証を組み合わせ、民間資金を呼び込む設計だ。特に、北海道に拠点を置くラピダスへの支援が念頭にあり、2027年の量産開始に向けた技術開発を後押しする内容となった。
ラピダスは、IBMやトヨタなどの大手企業と連携し、先端プロセス技術の国産化をめざすプロジェクトとして、石破政権の象徴的な取り組みとなった。この表明は、衆院選での自民党大敗直後だっただけに、政権の経済政策へのコミットメントを示すものとして評価された。
半導体を「地方の成長エンジン」に再定義した石破政権
2025年に入り、この政策は地方創生との連動を強めた。同年4月の記者会見で、石破首相はAIや半導体分野への官民投資を地方に誘致する方針を明らかにした。これは、都市部偏重の産業構造を是正し、地方の活性化を図る狙いがあった。データセンターの立地促進や人材育成プログラムを組み合わせ、半導体関連のサプライチェーンを全国に広げる構想だ。
政府は公的支援を継続的に提供し、民間からの投資を喚起する枠組みを整備。結果として、熊本や九州地方での工場誘致が進み、雇用創出の兆しが見え始めた。石破政権は、こうした取り組みを通じて、半導体を「地方の成長エンジン」として再定義したと言える。
一方で、課題も少なくなかった。国際的なサプライチェーン確保に向けての政策は、米国の関税措置や中国との緊張をめぐる外交の影響を受け、進展が遅れた。石破首相の「現実的な自由貿易維持」路線は、半導体輸入依存のリスクを軽減するはずだったが、政権末期には停滞の兆候が浮上した。
また、予算配分の優先順位付けが党内議論を呼び、AI分野とのバランスが取りにくかった点も指摘されている。ラピダスプロジェクトは着実に進んだものの、グローバル競争の激しさから、技術的ハードルは依然高い。
石破政権の半導体政策は、短期間ながら方向性を明確にした点で評価される。就任から一年、10兆円規模の支援表明や地方投資の推進は、次期政権に引き継がれる基盤を残した。辞任表明で「決定的な分断を生みかねず」と語った石破首相の言葉通り、政権交代の波紋は大きいが、この分野の投資は中断されず継続されるだろう。日本が半導体大国として復活する道筋は、石破政権の遺産として、静かに息づいている。
