早稲田大学(早大)は9月9日、寝室内換気と睡眠の質の関係について、研究チーム自身による研究の成果と、近年、国内外で発表された関連研究を整理・分析した結果、寝室の換気状況を示す代表的な指標である二酸化炭素(CO2)濃度が1000ppmに達すると、睡眠効率や深睡眠割合が低下する可能性が示唆されたこと、さらに安全側に余裕を持たせ、睡眠の質の低下リスクを十分に低く抑えるためには、800ppm以下を目標とすべきであることが明らかとなったと発表した。また、その水準を満たすためには、現行の住宅換気基準の少なくとも2倍の換気量が必要であることを示したことも併せて発表された。
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今回の研究から、質のよい睡眠には、寝室のCO2濃度の目標を800ppm以下に保つことが望ましいことが判明した。現行の住宅換気基準の少なくとも2倍の換気量が必要であることが示唆された(出所:早大Webサイト)
同成果は、早大 スマート社会技術融合研究機構の秋元瑞穂研究助手、早大 理工学術院の田辺新一教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、建築環境に関連する科学技術を扱う学術誌「Science and Technology for the Built Environment」に掲載された。
寝室内のCO2濃度を800ppm以下に保つことが重要
これまで、室内のCO2濃度が高まると、覚醒時に眠気や集中力の低下が生じることは知られていた。しかし、寝室内の換気不足とCO2濃度の上昇が睡眠に与える影響については、これまで統一的な結論を導くことが困難だった。それは、既存研究が、対象とする人数や年齢、測定した睡眠指標(睡眠効率、深睡眠割合、入眠潜時など)、換気方法(窓開けや機械換気など)において、それぞれ異なり、結果の直接比較が難しいためだ。
そこで研究チームは今回、自らの研究成果を含め、2020年1月から2024年8月までに発表された、寝室の換気状況と睡眠の質を同時に測定した合計17本の研究を整理・分析したという。
対象には、実際の住環境で寝室の状況を調べた研究に加え、換気条件を意図的に操作して睡眠への影響を検討した研究も含まれており、寝室内のCO2濃度や換気条件と、睡眠効率、深睡眠割合、入眠潜時といった睡眠指標との関係が比較された。その結果、寝室内のCO2濃度が高くなると、睡眠の質に影響が及ぶことが確認された。
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寝室内CO2濃度と睡眠の質に関する各研究の結果。縦軸にはレビュー対象とした研究番号、それぞれの研究の種類(横断研究=実際の住宅で実態調査を行った研究、介入研究=実験室や実際の住宅で換気条件を変えた研究)と対象者の年齢属性が整理されている。なお、同じ研究番号が複数示されているのは、1つの研究で条件の異なる実験結果が含まれるため(出所:早大Webサイト)
脳波計や腕時計型睡眠計による睡眠の質の測定で、有意な低下が報告された。最も低い絶対CO2濃度は約1000ppmで、統計的に有意差が確認された条件と、比較された参照条件の中で最も高い濃度は850ppmだった。ただし、この値はあくまで参照条件であり、影響のない「無影響量」とは位置づけられない。そのため、センサの測定精度(±50ppm程度)を考慮し、安全側に余裕を持たせる観点から、800ppm以下を暫定的な目標水準とすることが合理的であると提案したとする。
さらに、外気のCO2濃度を420ppmと仮定し、睡眠中の人体からのCO2産生量に基づき、寝室内のCO2濃度を800ppmや1000ppmといった目標値以下に保つために必要な外気供給量が推計された。その結果、成人が睡眠中の寝室でCO2濃度を800ppm以下に維持するには、一人あたり約8リットル/秒(L/s)の外気供給が必要であることが判明した。
この換気量は、現在推奨されている住宅の換気量より明らかに多く、また住宅で広く採用されている0.5回/h換気よりも高い値だ。例えば、床面積10m2・天井高2.5mの寝室(容積25m3)で考えると、1人で滞在する場合はおよそ1時間に1回、2人で滞在する場合はおよそ30分に1回、部屋全体の空気が入れ替わる換気量に相当する。現状、この水準に対応する規格は限られており、欧州規格「EN 16798-1」の最も厳しいカテゴリーI(屋外濃度+380ppm以内)が該当するほか、一部の病院規格(例:米国暖房冷凍空調学会「ASHRAE Standard170」、日本の病院設備設計ガイドラインHEAS-02)でも同様のレベルが規定されている。
なお、必要換気量は「屋外濃度との差」と「室内のCO2産生量」によって決まる。就寝時はCO2産生量が覚醒時より小さいため、寝室で800ppmを目標とする場合でも、一般オフィスで1000ppmを目標とする場合と同程度の換気量(1人あたり約8~10L/s)が必要になる目安だ。
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寝室内CO2濃度を抑えるために必要な外気供給量の推計。外気CO2濃度を420ppmと仮定し、睡眠中のCO2産生量(9、10、11、15L/(h・人))と、目標とする寝室内CO2濃度(800ppmや1000ppmなど)に応じて必要な外気供給量を推計。睡眠中のCO2産生量は、9L/(h・人)が高齢者、10L/(h・人)が子ども、11L/(h・人)が成人、15L/(h・人)が夜間に目覚めやすい人や代謝量の高い人を想定。成人の睡眠中の寝室を想定した場合、CO2濃度を800ppm以下に維持するには、一人あたり約8L/sの換気量が必要だ(出所:早大Webサイト)
今回の研究は既存研究を整理・分析したレビューであり、対象となった研究数がまだ多くなく、研究ごとに条件や評価方法に違いがあることが課題とする。また、CO2濃度は寝室の換気状況を示す指標として広く用いられているが、CO2のみを操作した研究は限られており、特に1000ppm未満の低濃度での比較データが不足している。このため、今後さらなる研究の積み重ねが必要とした。
今回の研究で得られた知見をもとに、比較可能なデータが増えていくことが重要であり、研究チームも実際の寝室での実験や調査を継続することで、より確かな知見を蓄積していきたいとしている。
