三菱UFJモルガン・スタンレー証券社長・小林真の〝融合〟戦略 「モルガンとMUFGの掛け算をこれからも」

米トランプ大統領の市場への影響をどう見る?

「『トランプ関税』については、まだまだ見定めが必要だと思うが、いつまでも続くわけではなく、どこかで収束していく。それも、そこまで時間はかからないのではないか」と見通しを語るのは三菱UFJモルガン・スタンレー証券社長の小林真氏。

 相互関税の導入など、米トランプ大統領の政策や発言で、世界の株式市場が揺さぶられる状況が続き、先行き不透明感が漂う。2025年4月7日には、相互関税の発動を受けて株価は大きく下落。しかし、9日には一部の国に対する上乗せ分の関税発動が延期されるとわかると、大きく上昇という形で乱高下。

 小林氏はトランプ政策を巡る株式市場の動きを「年の後半、あるいは年度の後半には落ち着いた動きになってくれるのではないかと思っている」と見る。

 今後、相互関税による各企業への影響額や、サプライチェ―ンの再構築も出てくるが、それらの動きを見定めた後、「いろいろなものが元のレベル感に戻っていくのではないか」(小林氏)。

 例えば、トランプ関税以降、M&A(企業の合併・買収)の動きが停滞したと言われる。だが、案件自体がなくなったのではなく、時期を待とうという形でペンディングになっていたということ。足元では、徐々に動きが戻ってきているようだ。

 三菱UFJモルガン・スタンレー証券自身の株式市場に対する見通しは、25年中には日経平均4万3000円に到達することも想定されるというもの。米トランプ政権の動きに対する懸念はあるものの、日本の株式は長期的には上昇する潜在力があるという見方。

 政府も引き上げを目指す名目GDP(国内総生産)についても、賃上げに伴うインフレが定着しつつあり、GDPの安定的な伸びと、それに伴う株価の上昇が年後半にあり得ると見る。

 加えて、23年3月から東京証券取引所が、東証プライム市場、スタンダード市場に上場している企業に対して「資本コストや株価を意識した経営」を要請するなど、市場改革を進めている。その流れの中で「生産性、利益を高めるような投資が進むことが期待できる。PBR(株価純資産倍率)1倍割れの企業は減ってきているが、欧米に比べると多く、改善の余地は大きい」(小林氏)。

 前述のトランプ関税を受けた世界的なサプライチェーンの再構築の中で、日本の位置付けがいい意味で見直されることへの期待もある。「米国との関係は非常に大事だが、日本独自の動きも今後出てくる可能性がある。各企業にはしたたかに、しなやかに今のマーケットを切り抜けていただきたい」と小林氏。

「アドバイザリー型」で他社に先行

 今、日本では政府が「資産運用立国」を掲げ、24年の「新NISA」(少額投資非課税制度)開始以降、長年の課題だった「貯蓄から投資へ」の流れがようやく定着化しつつある。

 その流れの中で三菱UFJモルガン・スタンレー証券は25年で設立15年を迎えた。米大手投資銀行・モルガン・スタンレーと、日本の大手銀行グループが組む合弁会社という世界でも例のない取り組み。同社は三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)60%、モルガン・スタンレーが40%を出資する。

 投資銀行では、国債など市場部門の取引などで連携を深化させてきたが、今は「ウェルスマネジメント」と呼ばれる個人部門での連携も強化している。

 その取り組みの甲斐もあってか、米市場調査会社、J.D.パワー社による顧客満足度調査(対面証券部門)では3年連続で1位の座を獲得。

 今後、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、日本におけるもう1社の合弁会社であるモルガン・スタンレーMUFG証券、そしてネット証券会社である三菱UFJeスマート証券(25年2月、auカブコム証券から商号変更)という3社で純営業収益シェアを取りに行く戦略。

 三菱UFJモルガン・スタンレー証券の中核ビジネスの一つは富裕層に伴走してサービスを提供すること。今はそれに加えて、企業に持ち株会を設立してもらうなど職域での取り組みや、新NISAを通じて投資を始めた層をネット証券会社で取り込み、先々はプロのアドバイスを提供するような関係を築く「エコシステム」の構築を目指す。

「『資産運用立国』に貢献すべく、マスから富裕層まで、全ての段階で適切なサービスを提供するように心がけている」

 24年以降、野村ホールディングス、大和証券グループ本社が、「個人向け営業部門」を「ウェルスマネジメント部門」に変更するなど、この分野への注力を鮮明にしている他、SMBC日興証券、みずほ証券といった他のメガバンク系証券会社も、この領域をターゲットとする。

 その中で、どう差別化するか。

 小林氏は「アドバイザリー型ビジネスモデル」だと話す。以前の証券会社は顧客に売買をしてもらうことで手数料を稼ぐモデル。それが今は大手を中心に、顧客の資産形成に伴走し、アドバイスし、預かり資産を増やすというアドバイザリー型ビジネスモデルに転換している。

 だが小林氏は「アドバイザリー型ビジネスモデルというが、言うは易く行うは難し」と話す。同社がこのモデルに転換したのは19年のこと。販売目標、収益目標といった、いわゆる「ノルマ」を撤廃し、顧客が目標とするポートフォリオの形成に向けたアドバイスをする、という形に大きくカジを切った。

 ただ、長きにわたって顧客からの売買手数料で稼ぐモデルに取り組んできたため、その転換は「並大抵ではなかった」(小林氏)。だが、業界に先駆けて、このモデルへの転換を図ったことが強みとなり、差別化につながっていると強調。

 人材育成においても、新卒、キャリア採用、いずれで入社した人材に対しても、このアドバイザリー型ビジネスモデルを理解してもらった上で営業をしてもらうということを徹底している。「これは当たり前のようだが、決して当たり前ではない。地道に取り組んできた結果が今」

「人」のつながりを今に継承して……

 MUFGが、リーマンショックで信用不安に陥った米モルガン・スタンレーに約9000億円の出資を行ったのが08年のことだった。10年には合弁で三菱UFJモルガン・スタンレー証券を設立。

 このモルガン・スタンレーへの出資で、MUFGの連結純利益は毎年4000~5000億円押し上げられているという非常に大きな収益源であると同時に、合弁事業を行う重要なビジネスパートナーという位置づけ。

 小林氏は、MUFGがモルガン・スタンレーへの出資を決めた後、その提携内容についての交渉責任者を務めた経験を持つ。「我々が言っているのは『スピリット・オブ・パートナーシップ』。このアライアンスをいいものにしようというお互いの信頼感は、ここまで続いてきた秘訣ではないかと思う」

 そして、出資を決めた当時の経営陣だった畔柳信雄氏や永易克典氏、若手時代にモルガン・スタンレーにトレーニーとして派遣されて以来の関係を構築してきた平野信行氏など、先人が築いてきた関係を、今の世代も引き継いでいることが大きい。

 前述のように、投資銀行事業に強みを持つモルガン・スタンレーとの提携で、国内のみならず国際間のM&Aでも存在感を発揮、M&Aのリーグテーブルで24年は国内1位となっている。この投資銀行業務を中心とした連携が「アライアンス1.0」。

 そして「2.0」として、24年1月から日本株の機関投資家向けのビジネスをモルガン・スタンレーMUFG証券に移管。

 そして今は、前述のようにウェルスマネジメントでの連携を強化するとともに、25年4月から「お客さまには、全て円ではなく、ドルでも資産を持っていたいというニーズがある」としてドル建てのラップサービスをスタート、顧客への説明を進める。

 サービスではモルガン・スタンレーが米国で展開するウェルスマネジメントビュー(投資見解)を活用しており、これも他社との差別化ポイント。

「モルガン・スタンレーが米国で展開しているモデルと、MUFGのネットワーク、顧客基盤の掛け算で、つくり出せるビジネスはまだまだある。常に、お互いにとっていいモデルとは何かを追求している」(小林氏)

「口座乗っ取り問題」では顧客保護に全力

 だが、ここまで全てが順風満帆だったわけではない。24年、三菱UFJ銀行、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、モルガン・スタンレーMUFG証券の3社は、同じグループの銀行と証券との間での顧客情報の共有を制限する「ファイアウォール規制」に違反したとして行政処分を受けた。

「再発防止に向けて、法令の正しい理解と、それを常に忘れずに守っていくという取り組みを今も続けている。これをさらに徹底して、自然にそういう動きができるところまで行きたいと思っている」

 さらに今、「貯蓄から投資へ」の流れに水を差しかねない事態が業界全体を揺るがしている。それが「口座乗っ取り問題」。

 サイバー犯罪集団が証券会社をかたったメールで顧客を偽のサイトに誘導するフィッシングや、悪意のあるプログラム(マルウェア)を個人の端末に感染させるなどして、IDやパスワードを窃取。本人になりすまして、不正な株式の売買を繰り返し、利益を上げている模様。被害規模は業界全体で5000億円を超えている。

「今は『資産運用立国』に向けた大事な時期。お客さまが『怖い』と言って動きが止まってしまうのは問題。お客さまにはご不便をおかけする面もあるが『多要素認証』の導入を決めた」

「多要素認証」は、ネット口座にログインする際、パスワードなどの情報だけでなく、一定の時間しか使えず、刻々と変化する「ワンタイムパスワード」や、本人の指紋など生態情報を用いた追加手続きを経て、ログインする方法。一定程度、乗っ取りの抑止が期待できる。

 三菱UFJモルガン・スタンレー証券では、全ての顧客に「多要素認証」を必須とした。「新しい手順だけに、お客さまによっては戸惑われることもあると思うが、丁寧に説明させてもらい、お客さまをセキュリティの観点からしっかりお守りしていく」

 ネットの活用は決してマイナスばかりではない。25年5月27日、MUFGは独自の総合金融サービス「エムット」をスタートすることを発表した。

 三菱UFJ銀行のアプリを刷新し、グループのサービスの「ゲートウェイ」とする。26年度中にグループの共通ポイント「エムットポイント」を始めるとともに、独自に「デジタルバンク」の開業も目指す。ポイントの特徴はMUFGのサービスを使えば使うほどメリットが感じられる仕組みになっていること。

「エムットでは証券サービスもシームレスに入っていただけるようになる」と小林氏。セルフトレードは三菱UFJeスマート証券が機能提供をし、それを入口に、富裕層や高度なアドバイス、サービスを受けたいという顧客に対しては三菱UFJモルガン・スタンレー証券が対応する。

 新たな企業の育成も証券会社として意識している。「以前は新規上場ありきだったが、欧米のマーケットなどを見ると、提携やM&Aで動く企業も多い。また、上場する時もなるべく大きくしてという動きが活発」

 その意味で、日本では企業だけでなく、それを支える投資家を育てることが重要。「証券会社として、その流れをしっかり支えていきたい」と小林氏。19年に投資銀行部門の中にスタートアップ専担組織を設置、24年に「SAT」(Startup Acceleration Team)を設置、投資銀行のノウハウをスタートアップに活用してもらうための取り組みを進める。

 人口減、人手不足が叫ばれる中、各業界で人材の奪い合いも起きているが、三菱UFJモルガン・スタンレー証券では「新卒はもちろんのこと、キャリア採用でも多く入社してくれている。キャリア採用は新卒を上回るほどの勢い」と話す。

 これは、これまでの地道な取り組みが、求職者を引き付けているものと見られる。小林氏は常に社内に「自分たちのやっていることに意義を見出して、社内外からリスペクトされる存在になろう」と呼びかけている。

「貯蓄から投資へ」が進む中、顧客はより一層、自分のために動く証券会社はどこかを真剣に選ぶ時代になっている。その中で選ばれ続けるためにも、「人」の育成が引き続き重要となる。