【政界】改憲発議も宣言して「成果」急ぐ高市首相 政権内の結束を強められるのか?

首相の高市早苗は4月12日の自民党大会で党是とする憲法改正について「改正発議に目処が立ったと言える状態で来年の党大会を迎えたい」と宣言し、改憲議論の加速化を促した。インテリジェンス(情報収集・分析)強化のための「国家情報会議」創設法案や皇室典範改正、「国旗損壊罪」創設など、重要案件が山積する特別国会で新たな課題が積み上がったと言える。足元のイラン情勢から来る物価高対策に加え、次から次へと「成果」を生み出すには、政権内の結束が不可欠となる。

「高市一色」の党大会

 グランドプリンスホテル新高輪での党大会は冒頭から高市の数々の発言を紹介する映像が流された。サプライズ・ゲストとして登場した歌手の世良公則は自身のヒット曲『燃えろいい女』を熱唱。サビの部分を「燃えろサナエ~」と歌い変えると会場は盛り上がり、大喜びで応える高市の姿がスクリーンに大きく映し出された。会場は「高市一色」に染まった。もちろん、最も注目を集めたのは高市自身の演説だ。

「どのような国を創り上げたいのか、その理想の姿を物語るものが憲法だ。私たちの物語を、理想の日本国を文字にして、歴史という書物の新たなページに刻もうではありませんか」─。こう声を張り上げ、「立党から70年。時は来ました」と宣言した。高市が、改憲のスケジュールまで踏み込んだのは初めてだった。

「時が来た」の文言は、高市のオリジナルではない。2018年3月の党大会で、当時の首相で高市の師だった安倍晋三が語った「結党以来の課題である憲法改正に取り組む時が来た」との発言がベースにある。

 この党大会で、党は9条1項と2項を堅持した上で自衛隊明記する案など4項目の条文イメージを正式決定し、悲願の改憲に向けアクセルを踏んだ。「時が来た」との高市の言葉には、安倍の思いを継ぎたいとの強い意思が込められている。

 安倍は前年10月の衆院選で自民、公明両党の与党合わせて3分の2以上の議席を確保する大勝を収め、改憲への意欲を強めた。2月の衆院選で自民に3分の2以上の議席をもたらせた高市と、当時の安倍の状況は酷似している。

 高市側近の党幹事長代行・萩生田光一は改憲発議に向け「条文の整理をする」「各党の合意を得る」などの手続きを進めると説明した。党大会は1~3月に開催されるのが通例だ。「首相は来年の通常国会中の改憲発議を視野に入れている」。高市周辺は解説する。

 この通常国会直後の来秋には自民党総裁選を控える。今特別国会と秋の臨時国会、来年の通常国会と3国会で議論を深め、改憲が現実味を帯びれば、総裁再選は確実となる─。長期政権を見据えた皮算用まで透ける。

改憲へ高いハードル

 ただ、改憲自体の見通しがまだ立ったわけではない。改憲原案の発議には、衆参両院それぞれで総議員の3分の2以上の賛成が必要だ。2月の衆院選で自民党は戦後初めて単独政党として3分の2以上となる316議席を得たことで衆院では条件はクリアしているが、問題は参院(定数248)だ。発議には166議席以上の賛成が必要だが、自民は101議席、日本維新の会も19議席にとどまる。

 カギを握るのは野党の動向だ。改憲については国民民主党(25議席)や参政党(15議席)、日本保守党(2議席)も掲げるが、3党の協力を得たとしても3分の2には届かない。立憲民主党や公明党など他党の動向が状況を左右する。立民代表の水岡俊一は高市発言について「憲法改正ありきで議論が進むことに危機感を持っている。静かな環境で議論ができる場を求めたい」と自民と距離を置いた。

「静かな環境」とは、衆参両院の憲法審査会で用いられてきた「中山方式」を指す用語だ。自民の元外相で故・中山太郎が主導した憲法を巡る議事運営の独自ルールだ。憲法審では議席数にかかわらず、各党平等に持ち時間が配分される。政局状況から一線を画して丁寧な議論で各党の合意点を探る方式で、このルールは今も踏襲されている。

 18年に改憲を目指した安倍にとっても、このルールが壁となった。安倍の前のめりの改憲姿勢に立民などは反発し、公明も慎重姿勢を強めた。他党が硬化すれば、「多数決」が通用しない憲法審で議論が進むことはない。

 改憲に向け、高市は衆院選直後、野党側から衆院憲法審会長ポストを奪還し、古屋圭司を新会長に据えた。気脈を通じる古屋に議論の加速化を託した形だ。

 高市は党大会で改憲に関し「徹底した議論を行った後に、意見の集約を図り、最後は多数決によって決断する。これが民主主義の原則であり、政治の役割だ」「国民の負託に応えるために行うべきなのは『決断のための議論』だ」と語った。「中山方式」に対する挑戦とも映る。

 16日の衆院憲法審査会で、与党筆頭幹事を務める自民の新藤義孝は、国会議員任期の延長を含む緊急事態条項についての集中討議を提案した。緊急事態条項の創設は安倍政権下で自民がまとめた4項目の条文イメージの一つで、新藤は改憲に向けた実質議論への移行を求めた形だ。

 だが、中道改革連合の国重徹は「新しい会派や少数会派の意見を置き去りにしたまま、結論ありで進むことは慎重であるべきだ」と「中山方式」を盾に取り、前のめりの自民をけん制した。

 連立を組む維新との調整も課題だ。維新の改憲方針は25年にとりまとめた「国防構想と憲法改正」が基本路線となっている。中でも9条では自民と距離がある。自民がまとめたのは、安倍が提唱した9条1項と2項を堅持し自衛隊の存在を明記する「9条の二」の条項を追加する案だ。

 それに対して維新は戦力不保持を謳った2項を削除し、集団的自衛権の全面行使を認め、「国防軍」を明記する案を提唱している。自民、維新両党は17日、両党でつくる憲法改正条文起草協議会で9条を巡る議論を開始したが、どこまですりあわせが進むのか、先行きは見えない。

山積する課題

 高市政権発足から半年にあたる21日、政府は閣議と国家安全保障会議で防衛装備移転三原則と運用指針を改定し、装備品の輸出ルールを非戦闘目的に限定する「5類型」を撤廃した。武器輸出を解禁する安全保障政策の大きな転換を果たした形だ。だが、後半国会は重要法案が目白押しとなっている。

 高市の肝いり政策でもある「国家情報会議」創設法案はインテリジェンス機能強化に向け、内閣に国家情報会議と、その事務局として内閣官房に国家情報局を創設する内容だ。

 同会議の議長は首相が務め、官房長官、金融担当相、国家公安委員長、法相、外相、財務相、経済産業相、国土交通相、防衛相の9閣僚が参加し、安全保障やテロ防止に関する「重要情報活動」と、外国のスパイ活動に関する「海外情報活動」について審議・対処する。衆院での法案審議はスムーズに進んでおり、国家情報会議と国家情報局は7月ごろに創設する算段だ。

 今回の法案は、緊迫化する日本周辺の安全保障環境や複雑に変化する国際情勢を踏まえ、日本独自のインテリジェンス機能強化を図ることを主目的としているが、問われるのは、法案の成立の後だ。

 国家情報会議と国家情報局の創設後、政府はインテリジェンス強化の「本丸」として、諜報活動を行う「対外情報庁」(仮称)と、外国勢力の諜報活動を監視する「スパイ防止関連法案」の制定を目指す。ただ、通信傍受などどこまでの諜報活動を認めるべきか、行動監視をどこまで行うのかなど論点が多い。

 中道の長妻昭は17日の衆院内閣委員会で「強い法律には副作用もつきものだ。人権侵害が非常に心配される」と指摘した。国民の不安をいかに払しょくしながらインテリジェンス機能を高められるのか。難しい舵取りを迫られる。

 後半国会では他にも、日本の国旗を損壊するなどした場合に処罰する日本国国章損壊罪(国旗損壊罪)創設に向けた法案や、維新が重視する「副首都構想」の関連法案、昨年の臨時国会から「宿題」となっている衆院議員定数削減の関連法案の成立を目指している。

 皇室典範改正も大きな課題だ。衆参両院は15日、安定的な皇位継承に向けた皇族数確保に関する全体会議を衆院議長公邸で開いた。焦点は女性皇族の配偶者や子への皇族身分付与や、皇統に属する男系男子の養子縁組だ。衆院議長の森英介は「今国会中に皇室典範改正案の成立までこぎ着けたい」と表明したが、与野党間で一致点を見いだせるかどうかが焦点となる。

 重要法案が山積みの中で、イラン情勢に起因する不安定な経済状況が重くのしかかっている。公明党代表の竹谷とし子は8日の党会合で「政府は、本予算の成立で終わらせずに、直ちに補正予算を編成し、迅速に対応するべきだ」と語った。

 米イスラエルのイラン攻撃に伴うホルムズ海峡の封鎖は依然として続いている。緊迫する中東情勢が日本経済に暗い影を落とし続けており、補正予算案編成に向けた「圧力」は今後も強まる可能性がある。

「内なる課題」

 重要課題が山積みの後半国会。高市が成果を挙げるには、政府・与党との結束が不可欠となる。だが、自民党内では、党幹部に報告しないまま衆院解散に踏み切り、衆院選後も平然と26年度予算の年度内成立を求めた高市の「独断」への不満はくすぶり続けている。

 高市は10日昼、首相官邸に副総裁の麻生太郎、幹事長の鈴木俊一と萩生田と昼食を共にした。党執行部との連携強化がカギを握るとみた高市が党運営で最も影響力のある麻生を誘った。2人の会食は実に約4カ月ぶりだった。麻生は高市側が用意した焼き魚定食を前に、高市に党の国会対策に携わったメンバーを慰労するようアドバイスした。麻生が最も懸念したのは、高市と党との間の「コミュニケーション不足」であったのは間違いはない。

 高市は基本的に首相官邸や公邸で1人で閉じこもって没頭する独自スタイルで公務をこなしている。歴代首相と異なり、首相秘書官や省庁幹部との議論よりも、1人で資料を読み込む時間を重視する。官邸でも大テーブルのある首相執務室ではなく、その奥の応接セットが置かれた小部屋にこもることが多いという。高市と普段接するのは官房長官・木原稔ら一部に限られ、官邸・自民党内の連携不足という「内なる課題」を懸念する政府関係者は多い。

 高市は21日夜、首相公邸に自民の衆院予算委員長の坂本哲志と予算委理事を招き、「本当にお疲れ様でした。ありがとうございました」と頭を下げた。高級料亭から取り寄せた和食のコースを振る舞い、積極的に出席者に話しかけて場を和ませたという。「飯会苦手女」を自称する高市だが、麻生の助言には素直に従った。

「女性の総理、女性の自民党総裁は初めてなので違和感を感じたり、女性だからできていないとの声もあるかもしれないが、国民のため一生懸命働いていきたい」。高市は21日、記者団にこう語った。「内なる課題」は克服できるのか。高市自身の今後の姿勢が何よりも問われている。(敬称略)

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