牛乳に眠る神秘─人の骨格形成に役立つ成分を発見した雪印メグミルク・研究者たちの執念

骨を強くするのはカルシウムだけではなかった

「うちのおばあちゃんが転んで骨折してから、一気に身体のあちこちが悪くなってしまって…」という話は常日頃からよく聞く話。特に、男性と比べ女性は閉経後の50代以降、ホルモンの関係で急激に骨密度が低下すると言われる。超高齢化社会、人生100年時代と言われ健康意識が高まる中で、人々の骨の健康に目を向ける動きが高まっている。そうした背景にあって今注目を浴びているのが、雪印メグミルクの「MBPドリンク」だ。

 MBPとは、ミルクベーシックプロテインといって、骨を強化する成分。「MBPドリンク」1本(100g)で、牛乳4本(800㎖)分のMBPを摂取可能で、毎日継続して飲むことで骨密度が増加するという商品。2021年に販売を開始後、毎年売上2桁伸長を続けている。

 現在同社ではこのMBPという成分を飲料、チーズなどの乳製品に入れたり、素材化して高付加価値商品として海外を中心に販売している。

 しかし、このMBP関連商品は、長い間あまり注目されてこなかった。MBPに関する研究は今から36年前の1989年から開始し、最初の商品化が2001年。商品化まで10年以上かかった。

「カルシウムの研究を進めていくうちに、カルシウムだけが骨を強くしていると説明しきれない壁にぶち当たりました。われわれは粉ミルクを扱っていましたので、母乳にヒントを得て、牛乳中のカルシウム以外のどこかに秘密があるはずだと考え探り始めました。ヨーグルトやチーズをつくる際に出る上ずみのホエイの中に骨の細胞に働く成分がありそうだということを突き止め、そこから3年間、探しに探してそのホエイの中にある成分を特定しました」─。こう話すのは、95年入社時からMBP研究に携わってきた雪印メグミルク・ミルクサイエンス研究所上席研究員(農学博士)の鳥羽保宏氏。

 93年についに特定に漕ぎつけた成分MBP(ミルクベーシックプロテイン)は、牛乳中に0.005%しか含まれない希少なたんぱく質。人試験を通してエビデンスデータを蓄積していき、2002年に発売した「毎日骨ケアMBPⓇ」は、特定保健用食品、いわゆる〝トクホ〟商品として世に送り出した。

                   

     毎日骨ケアMBPブルーベリー 継続して飲んでも飽きのこない味にもこだわっている

「最初は全く売れず、販売停止寸前の時もありました。というのも、骨と言われてもなかなか消費者の方はピンと来ず、自分事化しづらい。特定保健用食品の認可を取得するために莫大な開発コストがかかっていて、簡単には止められない。しかし諦めずに通販を中心にコツコツと販売数を伸ばし、現在世界でMBPを大々的に売り出しているのは当社だけの状況がつくれた」と機能性食品事業部機能性食品グループ担当課長の木村浩氏は振り返る。

 2000年に起きた、戦後最大の集団食中毒(雪印集団食中毒事件)直後、同社の経営状況は厳しい状況にあった。会社を立て直す商品をなんとか打ち出さねばという中で、生まれたのがこのMBP商品でもあった。

 他社がやらない研究を粘り強くやり続けてきたことで、現在同社は骨の研究に関し世界で大きなアドバンテージを得ることができた。その功績あって、世界中で起きている健康志向の高まりの追い風も吹き、MBPは海外でも引き合いが強まっている。2004年頃からMBPの素材をアメリカ、カナダを皮切りに販売を開始。現在売上として大きいのは韓国。今後は台湾、タイ、マレーシアなどのアジア市場も含め、海外市場の開拓を強化していく方針だ。

難しいのは〝体感がない〟こと

「ご購入いただいたお客様から、病院で骨密度を測ったら数値が改善したなど、良い報告はたくさんいただくのですが、普段の体感がないものなのでそこが頭を悩ませる点。骨は日々生まれ変わっているのと、在宅勤務など、現代はさまざまな観点から骨が弱くなる生活環境にあるので、若いうちからケアすることの重要性を訴えていきたい」と木村氏。

 骨の強化に必要なビタミンDは、魚の摂取や日光を浴びることで生成されるが、近年国内では魚食の減少、日焼け止めを塗る習慣により、体内でビタミンDの生成がされづらい生活環境にある。

 人口減という課題を抱える日本は、女性の健康寿命を延ばし労働人口を増やしたいこともあって、現在の骨粗しょう症検診受診率5%程度から15%に引き上げる(厚生労働省『健康日本21(第三次)』ことを打ち出している。今後、骨ケア市場は一層大きくなっていくだろうと考えられる。

 雪印メグミルクの2025年3月期の売上高は6158億円、営業利益191億円で、増収増益。乳製品を扱う企業の中では、トップの明治ホールディングスに次ぐ企業規模で、バターやチーズなどのカテゴリーでは国内トップシェアを誇る。

 人口減、高齢化の中で乳製品業界も、常備食としての美味しさと安全、安定供給だけでない、より健康に寄与する高付加価値商品で戦う時代に突入している。価格競争から脱するため、〝牛乳に眠る神秘〟の掘り起こしに今日も汗をかく同社である。