
不振だった2事業が足元で業績を牽引
「2025年度の決算は非常に堅調な結果を出せた。26年度は実力ベースでも収益力の着実な伸長を見ている」と話すのは、住友化学社長の水戸信彰氏。
住友化学の業績は上昇傾向にある。同社は24年3月期に連結純利益で3120億円という過去最大の赤字を計上。そこから事業再構築や在庫圧縮、投資削減、事業売却といった構造改革を実行し、業績改善に努めた。
その結果、26年3月期は売上高にあたる売り上げ収益は前期の石油化学やICTの事業売却の反動で前期比10.7%減の2兆3285億円になったものの、本業の儲けを表すコア営業利益は同48.3%増の2084億円となった。
24年3月期の際に赤字要因となった事業も回復。サウジアラビアの国営石油会社・サウジアラムコとの石化合弁事業「ペトロ・ラービグ」は、住友化学とアラムコが37.5%ずつ、25%を一般株主が保有する形で進めてきたが、構造改革の中で住友化学は株をアラムコに売却、出資比率を15%に引き下げた。
そのラービグが属する住友化学の石化事業を含む「エッセンシャル&グリーンマテリアルズ」の前期のコア営業利益は、株式売却益による黒字だったが、26年3月期はラービグの精製マージン改善によって増益となった。
さらに以前は主力薬の不振や特許切れで苦境にあった製薬事業会社の住友ファーマも、前期はアジア事業売却などでコア営業利益が1084億円だったが、26年3月期は主力薬の拡販など本業の力で940億円を計上。
住友ファーマを巡っては、世界で初めて、iPS細胞由来の製品の実用化に漕ぎ着けたという明るいニュースもあった。それがパーキンソン病向け治療薬「アムシェプリ」。26年5月13日には厚生労働省が薬価(患者1人あたり5530万円)を決定、20日に保険適用が始まった。
ただ、住友化学はこれまで、住友ファーマについて売却の方針を示してきた。この方針はどうなっているのか。「再生・細胞分野で住友ファーマのパートナーは住友化学であることは変わらない。ただ、(化学合成でつくる)低分子ではどうか」(水戸氏)と話し、今後保有株式の比率を含め検討を進める考え。
28年3月期までの目標を1年前倒しで達成することを目指すなど、業績上は収益力が大きく改善した。ただ、その中身は住友化学が目標とする絵姿までは、あともう一歩というところ。
水戸氏は「我々の成長ドライバーはアグロ&ライフソリューションと、ICT&モビリティソリューション」と強調。つまり農薬と電子材料・半導体で稼ぐ会社になることを目指している。中計では両事業それぞれが、コア営業利益で800億円を上げることを目標にしている。
水戸氏の出身事業である農薬事業は、殺菌剤「インディフリン」、除草剤「ラピディシル」、殺菌剤「パベクト」という3剤が「ブロックバスター」(世界での売上高が1000億円を超える製品)候補と目されている。
特に「インディフリン」は大豆用殺菌剤市場の拡大が見込まれる中、競争は激しいものの、ブラジルなど、大豆の主要産出国での適用拡大と拡販を加速させている。
また、住友化学では農薬を「化学農薬」と、天然物由来の「バイオラショナル」の2本の柱で進めているが、20年以降、欧州では化学農薬が規制の関係で1件も登録になっていない一方、「バイオラショナルは堅調に登録されている」(水戸氏)。そこで住友化学内の既存会社を統合した新会社を設立して、バイオラショナルの成長に向け、グローバルで販売を加速している。
半導体分野では「AIを中心に市場は着実に拡大。この分野に先端品の開発、品質、量産で積極先行投資をしている」(水戸氏)。同社は最先端半導体向けのフォトレジスト(感光剤)や高純度アルミナなど、世界の中でも強みのある製品を持つ。
さらに、これまで住友化学は半導体分野で「前工程」に強みを持ってきたが、そこで培った技術を「後工程」にも活かそうとしている。今は半導体の高集積化、高性能化、大型化に素材各社が対応しようとしているが、その変化に合わせて、後発組でありながら製品を開発、市場投入している。
祖業である石油化学を含む「エッセンシャル&グリーンマテリアルズ」は構造改革が続く。三井化学、丸善石油化学と共同出資していた「京葉エチレン」は15年に三井化学が離脱。26年度には丸善石化が単独で運転するエチレン製造設備を止め、京葉エチレンに集約する。
また、前述のペトロ・ラービグの持ち分減少に加え、シンガポールでの石化事業でも構造改革を進めている。この分野では、新興国などに、培った技術をライセンス提供するといったソリューション事業を拡大する方針。
米国・イスラエルのイラン攻撃による業績への影響は、27年3月期のコア営業利益で100億円を見込んでいる。懸念されているナフサについて水戸氏は「6月までは目途がついている」と話すとともに年内分の確保に向けて動いている。ただ、価格上昇は否めず、これをいかに顧客が納得する形で価格に転嫁していくかが今後の課題。
かつての危機を脱し、成長軌道に回帰した住友化学。足元の地政学リスクに対応しながら、自らが目指す農薬、半導体の2本柱経営での成長にいかに持っていくか。M&A(企業の合併・買収)も含めた水戸氏の打ち手にかかる。