宇宙航空研究開発機構(JAXA)は6月29日、H-IIAロケット50号機を打ち上げた。種子島宇宙センター 大型ロケット発射場から1時33分3秒に離昇した50号機は順調に飛行を続け、打上げ後約16分07秒に地球観測衛星「いぶきGW」を正常に分離、所定の軌道への投入に成功した。
H-IIA50号機は、日本の基幹ロケットとして20年余りにわたって運用を続けたH-IIAシリーズの最終号機。宇宙航空研究開発機構(JAXA)や三菱電機らが開発した、温室効果ガス・水循環観測技術衛星「いぶきGW」(GOSAT-GW)の軌道投入が最後のミッションとなる。
2001年の初号機打ち上げ以来、H-IIAは「はやぶさ2」などの探査機や、日本の重要な人工衛星、海外の商業衛星など、さまざまなペイロードを宇宙へ送り届け、日本の宇宙開発における重要な役割を果たしてきた。今回の50号機をもって退役し、H3にその役割を引き継ぐ。
いぶきGWは、海面水温など水循環に関わる状況や、温室効果ガスの種類や濃度を、宇宙から観測する機器を搭載した“ハイブリッド衛星”。高性能マイクロ波放射計3(AMSR3)と、温室効果ガス観測センサ3型(TANSO-3)を積んでおり、衛星本体と各搭載センサは主に三菱電機が開発を担っている。
いぶきGWの位置づけは、2012年に打ち上げられた「しずく」(GCOM-W)の水循環変動観測ミッションと、2009年に打ち上げられた「いぶき」(GOSAT)、2018年打ち上げの「いぶき2号」(GOSAT-2)の温室効果ガス観測ミッションを発展的に継続するものとされている。
同衛星の詳細については、秋山文野氏によるレポート記事を参照のこと。また、「いぶきGW」という愛称に込められた意味については、H-IIA 50号機の打ち上げ前ブリーフィングを取材した大塚実氏の連載記事で報じている。
JAXAは打ち上げ後、いぶきGWからの信号を同日1時51分(日本標準時)にオーストラリアのミンゲニュー局で受信し、太陽電池パドルの展開が正常に行われたことを確認。続いて2時12分(同)に南極大陸のトロール局でも信号を受信し、衛星の太陽捕捉制御が正常に行われたことを確認した。
現在のいぶきGWの状態は正常であり、JAXAでは引き続き、プライムメーカーである三菱電機をはじめ、衛星運用に携わる企業、機関等とともに着実に取り組むとしている。
なお、マイナビニュース TECH+では、種子島で現地取材を続けている大塚実氏の連載「H-IIAロケット最終号機現地取材」と、鳥嶋真也氏がH-IIAロケットのこれまでの歩みを振り返る連載「翔べH-IIA 技術の粋と不屈の情熱が拓いた宇宙への道」を掲載中だ。どちらの連載も、ぜひ一読いただきたい。
H-IIAロケット50号機による温室効果ガス・水循環観測技術衛星の打上げ成功について(阿部俊子 文部科学大臣の談話)
本日、H-IIAロケット50号機の打上げに成功し、搭載していた温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT-GW)が所定の軌道に投入されたことを確認いたしました。
H-IIAロケットは今回の50号機が最終号機であり、この打上げ成功により、2001年の運用開始以降50機中49機が打上げ成功となり、高い信頼性を示すことができました。技術的に難易度の高い新型エンジンを開発し、2003年の6号機打上げ失敗を技術者が一丸となって乗り越え、現在に至るまで絶え間なく改善を重ねて、有終の美を飾ることができたことを大変喜ばしく思います。これまで努力を重ねてきた関係者の皆様に、心から敬意を表したいと思います。
また、H-IIAロケットは、これまで地球観測衛星「だいちシリーズ」や測位衛星「みちびき」、気象衛星「ひまわり」、深宇宙探査機「はやぶさ2」など、防災・減災から宇宙科学に至るまで、幅広い分野で価値を創出する多様な衛星を打ち上げてまいりました。これにより、国民生活の向上や、我が国の宇宙開発利用の発展に大きく貢献したと考えています。更に、民間移管を経て、国内の政府衛星のみならず、企業・大学や海外機関が開発した衛星など、様々な主体に輸送手段を提供することができ、我が国の国際競争力の強化にも貢献したと考えています。
今回打上げたGOSAT-GWは、JAXAと環境省が共同で開発した衛星であり、温室効果ガス濃度や、海面水温等の高度な測定を可能とするものです。気候変動や防災・減災、水産業など、幅広い分野で貢献することを期待しています。
文部科学省としては、今後は後継となるH3ロケットの打上げや高度化を着実に進め、我が国の宇宙活動の自立性確保や技術力向上、産業振興、国際競争力強化等につながるよう、引き続き、宇宙開発利用を積極的に推進してまいります。