NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)、アルプスアルパイン、双日テックイノベーション(STech I)は3月11日、モビリティリゾートもてぎ(栃木県芳賀郡茂木町)において、ローカル5Gの実験環境下で高速移動する車両からの映像を高精細かつ低遅延で配信する実証実験をメディア向けに公開した。
実証の背景と目的
現在のサーキット場では、車両や設備のセンサーデータの伝送、トランシーバーなどの無線機の利用、売店などでのキャッシュレス決済、車載カメラからの映像伝送など、さまざまな用途で無線通信が用いられている。
NTT Comは2021年にトヨタのレーシングチーム「ROOKIE Racing」とスポンサー、テクノロジーパートナー契約を締結しており、サーキット場でのICT活用を進めてきた。スーパー耐久レース(STMO)では、レースカーのGPS情報を収集し、安全情報の提供、車両の監視、4K360度カメラを用いた臨場感のあるレース観戦を実現するための実装実験などを実施している。
近年のモータースポーツ観戦では、リアルタイムでレースカーに搭載したカメラで撮影したオンボード映像を活用した臨場感あふれる配信が要望されるなど、サーキットコース全域においてより高品質な無線通信が求められるようになっている。
その一方で、サーキットはコースのエリアが広大でトンネルや起伏などがあり、電波の届きにくいエリアが生じる。また、一般的なキャリア5Gではハンドオーバー時のパラメータが高速移動には特化していないことから、レースカーのような高速移動体はハンドオーバーにより通信品質が劣化する可能性もある。
その上、レース開催日には数万人規模の観戦客が訪れるため輻輳が生じ、QRコードを用いた入場管理や売店での電子決済に時間がかかり、ユーザー体験を損なう場合もあるという。
そこで3社はサーキット場でローカル5G実証環境を構築し、オンボード映像を用いた安定無線通信の実現、高速移動に適したローカル5G基地局の設置とハンドオーバーのチューニング、基地局と5Gコアの接続について、それぞれ実証に着手した。
ローカル5Gを利用した安定無線通信を見学
上記の通り、イベント開催時など多くの観戦客がサーキットに集まる場合にはキャリア無線基地局への通信が増大し、観戦客のスマートフォンだけでなくレース運営に関わる通信も不安定となる。そこで今回の実証では、キャリア5Gとは異なる周波数帯を占有可能なローカル5Gシステムを構築し、安定した無線通信の実現可能性を確認した。
実証に用いたモビリティリゾートもてぎでは、全長約4.8キロメートルのサーキットコースに計6台のローカル5G基地局を使用しエリアを構築した。主にコース脇のマーシャルポスト(フラッグなどレース運営をサポートするスタッフの詰所)などに基地局を設置し、コース全域をカバー。
担当者によると実証は2024年8月に開始し、基地局を設置する場所や本数などを検証した結果、6台に落ち着いたという。今回構築したローカル5G環境はすべて物理線で接続しているが、今後は基地局と5Gコアの間をミリ波帯無線システムで接続した環境でも検証を行う予定。
走行するレース車内にはHDカメラとエンコーダー、通信端末を設置。車載カメラから受信サーバにローカル5G経由で映像を伝送し、高精細かつ低遅延な映像を配信した。
実証のオンボード映像をリアルタイムで見学したところ、コース内で基地局を切り替えるタイミングで一部ハンドオーバーが発生し映像が途切れる箇所はあったものの、従来のキャリア通信を用いた場合と比較してリアルタイムなHD映像を楽しむことができた。
3社は今後について、サーキット場におけるさらに高精細かつ低遅延な通信の実現を追求するとともに、4K / 8K映像や360度カメラによるさらに臨場感あるコンテンツの配信、エンジン音までリアルに届ける高品質音声配信など、レース観戦の顧客体験向上につながるユースケースを検討するとしている。