現在、全国で地域通貨の導入が広がっている。理由としては、地域経済や地域コミュニティの活性化、効果的な政策の立案、地域活動への参加促進などの効果が期待できる点がある。
そうした中、群馬県安中市も、市内のみで利用できる電子地域通貨「UMECA(ウメカ)」を2024年12月2日から導入した。UMECAはどんな目的でつくられ、市民はどう受け止めているのか。
今回、現地に赴いて地元の方々に話を伺い、「UMECA」を利用する場を取材した。
安中市が電子地域通貨「UMECA」を導入した背景
安中市では、UMECAを通じて地域活性化を推進するとともに、UMECAの利用によって可視化される購買データの分析を通じて、EBPM(Evidence-based Policy Making:政策目的を明確化した上で、確かなエビデンス<合理的根拠>に基づいて政策の立案や決定、実行、効果検証を行う手法)を推進し、「住んで良かった 豊かで魅力ある元気な 新しいあんなか ~さらに、光り輝くまちへ~」の実現を目指している。
UMECAは、安中市の特産品である「梅」と通貨の「貨」を組み合わせた名称で、市民の投票により決定した。
安中市 企画政策部 政策・デジタル推進課 政策・デジタル推進係 新井裕美さんは、UMECAを導入した背景について、次のように話す。
「安中市は所得が大きい一方、消費が近隣の高崎市や軽井沢町、富岡市などの都市に流れていってしまう点が課題としてありました。そこで、電子地域通貨を導入することによって、観光客の方も含めて、市内での消費を喚起して、地域内経済の好循環やコミュニティの活性化を図りたいと考え、UMECAを開始しました」
コミュニティ活性化の面では、例えばボランティアに参加した人にUMECAのポイントを付与することで、地域活動に参加したい人が増えていくなど、UMECAをきっかけに市の中でのつながりが生まれ、安中市に愛着を持ってもらうことを期待している。
電子地域通貨「UMECA」の特長とは?
UMECAの決済には、スマートフォンアプリとプラスチック製の専用カードの2つの方法がある。専用カードは、市内に居住する人のみが利用可能だが、アプリは市外に住む人も使うことができる。
UMECAは、誰でも使える優しい仕様が特徴だ。アプリのトップ画面でチャージ残高やポイントが一目で確認でき、支払いのためのボタンやチャージボタンなど、普段使う機能がシンプルにまとめられている。アプリには、利用履歴の確認や使えるお店を検索する機能もある。
チャージはクレジットカードや現金のほか、他の電子地域通貨の決済ではあまり見られない、銀行口座からの引き落としが可能な点も大きな特徴だ。
UMECAは現在、市内のコンビニやスーパー、ホテル、タクシー、ドラッグストア、飲食店など133店舗(2025年1月23日時点)で利用することができる。安中市では、今年度中に160店舗に拡大することを目指している。また、市内を走るバスや乗り合いタクシーの運賃の支払いでも利用できる。
UMECAの運用にあたっては、NTTネクシアが事務局運営、マネジメント管理、利用者および加盟店からの問い合わせ対応を、NTT東日本-関信越 群馬支店が地域窓口としてICTに関する情報提供・事業化支援を行っている。
和菓子の丸田屋総本店でUMECAを使ってみた
では、UMECAの使い勝手はどうなのだろうか? 今回、市役所の近くで和菓子や洋菓子を販売する丸田屋総本店で体験してみた。同店は生クリーム大福が有名で、1756年創業と歴史あるお菓子屋さんであり、サービス開始当初からUMECAを導入した店舗の一つだ。
第19代目の店主の田村昌義さんは、地元店舗として、安中市の活性化に協力したいという思いで導入を決めたという。
市民向けのUMECAの説明会でも、安中市が始めた事業であれば、それに協力したいという思いで参加した市民もいたそうだ。
UMECAをアプリで決済する場合は、店舗に置かれたQRコードを自身のスマートフォンで読み取って支払う方法と、アプリのQRコードを表示して、それを店舗の端末で読み取ってもらう方法がある。
店舗に置かれたQRコードを読み取る場合は、表示された画面で購入者が金額を入力。それを店の人に確認してもらい、「支払い」ボタンを押すことで、自身のアプリで決済する。
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店舗に置かれたUMECA用のQRコード
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店舗に置かれたQRコードを読み取る場合は、アプリ上で購入者が金額を入力し、それを店の人に確認してもらい、「支払い」ボタンを押すことで決済される
店舗の端末で読み取ってもらう場合は、アプリでQRコードを表示して、それを店の端末で読み取り、店員が金額を入力。入力された金額を購入者が確認後、店の端末で決済する。これは、専用カードの場合も同様だ。
UMECAは店舗、利用者の双方にメリット
丸田屋総本店は他の電子決済も導入しているが、それらを利用する際は、店側で利用料を負担する必要がある。一方、UMECAは店の利用料が発生しないため、他の決済に比べ、コスト負担が少ない点がメリットだと店主の田村さんは語った。
また、利用する側にもメリットがある。他のサービスはクレジットでチャージした場合0.5%のポイントがもらえるものが多いが、UMECAではチャージ額の1%がチャージ額に加算される。サービス開始時の12月には、10%還元のキャンペーンも実施した。
「チャージ額の1%が加算されるということで、現金よりもお得で、他のキャッシュレス決済よりもメリットがあります。そのため、今までキャッシュレス決済を利用したことがない方も、この機会にUMECAをはじめてもらうようにPRしています」(安中市役所・新井さん)
丸田屋総本店の田村さんも「UMECAのお得なところをもっとアピールし、市が今後も事業を継続してやっていくことを表明すれば、もっと利用者が増えていくのでは」とアドバイスしていた。
安中市地域おこし協力隊で移住・定住コーディネーターを務める平間麻衣子さんは、UMECAで市内の店舗情報が得られる点にメリットを感じているという。
「私は安中市に移って1年も経っていないので、どこに何のお店があるのか自分でリサーチする必要があります。UMECAは、地図で店舗情報を検索できるので、『こんなお店がある』ということがわかります。企業や工務店の情報もあり、工事をお願いする際に、工務店がUMECAに加入していると安心感も得られます。この機能はすごく便利だと思いました」と語った。
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安中市地域おこし協力隊で移住・定住コーディネーターを務める平間麻衣子さん
安中市地域おこし協力隊は、SNSでUMECAの告知を行うなど、周知の面で協力している。2025年1月現在のUMECAの利用者数は1,800名ほどで、約9割がアプリの利用者だ。今後、利用者数を増やしていくには、市民への周知が重要になる。
「ステッカーやポスターで周知してくれるお店がたくさんありますので、徐々にUMECAが広がっていると感じています。昨年の12月はスタートキャンペーンとして、10%のポイント付与を行いました。このキャンペーンをきっかけにUMECAについて知りたい、登録したいという市民の方もいらっしゃいました。そのため、市民の方においてもUMECAへの関心が高まってきていることを実感しています。また3月10日まで、5000円チャージごとに自動でエントリーが行われ、最大5万円分のUMECAポイントが当たるキャンペーンも実施しています。」(安中市役所・新井さん)
行政サービスでもUMECAを活用
安中市では今後、行政サービスでUMECAを活用することを検討している。現在市の事業で実施している給付金について、UMECAでの給付に切り替えていくことを予定している。給付金をUMECAで支給することで、市内の店舗での消費につなげることができるというわけだ。
さらに将来は、UMECAの購買履歴を活用することも考えているという。
「UMECAを、少額で利用する人が多いのか、それとも一気にチャージして使う人が多いのか、使い方によって使われる店舗も違うと思うので、そうした点を分析して無駄のない持続的なキャンペーンを実施していきたいと考えています」(安中市役所・新井さん)
最後に新井さんは、「UMECAによって市民も事業者も、安中市がこれだけ元気になったということが感じられる取り組みにつなげられれば、電子地域通貨としての存在意義があると思います」と、UMECAの効果に期待を寄せた。