国立天文台は1月15日、スーパーアースに分類される太陽系外惑星「GJ 1214 b」をジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を用いて観測したデータと、理論シミュレーションを組み合わせた結果、従来説とは異なる、二酸化炭素(CO2)を主成分とする太陽系には見られない新しいタイプの系外惑星であることが確認されたと発表した。
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主星の前を横切る系外惑星GJ 1214 bのイメージ。主星の光が系外惑星の大気を通過する時、どの波長の光が影響を受けるのかを分光法を用いて調べることで、系外惑星の大気を分析することが可能だ。(c)国立天文台(出所:国立天文台Webサイト)
同成果は、国立天文台 科学研究部の大野和正特任助教や、米・アリゾナ大学スチュワード天文台の研究者らを中心とした国際共同研究チームによるもの。研究成果は2本の論文にまとめられ、どちらも米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された(論文1本目・論文2本目)。
NASA Exoplanet Archiveによれば、系外惑星は2025年1月9日時点で、5819個がその存在を確認されている(系外惑星候補はさらにたくさんあるが、探査衛星が発見した候補天体は必ずしも系外惑星とは限らないため、地上の大型望遠鏡による精密な追観測で確かめられてはじめて存在が確定される)。系外惑星にもさまざまなサイズが存在し、地球サイズ、地球サイズと海王星の中間程度の岩石型惑星(スーパーアース)、海王星サイズのガス惑星、そして木星サイズ(木星よりも遥かに巨大で、褐色矮星に近いものも含む)の巨大ガス惑星と4種類に大別されている。発見が確認されている5819個のうち、最も多いのが海王星型の1989個で、その次が巨大ガス惑星の1874個、スーパーアースが1739個、そして地球サイズが210個となっている(そのほか分類不能が7個)。
地球より大きく海王星よりは小さいスーパーアースは、太陽系には見られないこともあり、その組成を巡っては議論が続いている。岩石型惑星に分類されているが、岩石質のコアの周りに水素に富む外層部を持つ惑星なのか、それとも氷でできたコアの周りにほとんどが水蒸気で構成された外層部を持つ惑星なのかの2つが主要な仮説だ。
両者は平均密度が似通っており、質量と半径の測定だけでは区別できないため、天文学者たちは、大気を観測することでその区別を試みている。これは分光法を利用したもので、光が惑星の大気を通過する際に特定の波長が吸収される性質を解析することで行われる。ところが、そうした系外惑星は大気が厚い雲に覆われていることが多く、これまでの観測では上層の雲が邪魔をして雲の下の大気や内部構造を研究することが困難だったとする。そこで研究チームは今回、半径が地球の約3倍、質量が約8倍(このデータは不確定性が含まれている)のスーパーアースに分類される系外惑星「GJ 1214 b」を、JWSTを使って観測し、詳しく調べたという。
系外惑星の大気を調べる方法は、主星の前を系外惑星が横切る時に可能となる。その理由には、主星からの光が系外惑星の大気を通過するため、大気成分の影響を受けることがあるといい、この惑星の大気を通過した光を観測すれば、系外惑星の大気に関する情報を得ることができる。観測の結果、GJ 1214 bの大気を特徴づける成分は地球のような水蒸気でも、海王星のような水素やヘリウムでもなく、意外なことにCO2であることが示されたとした。
ただし、観測データには多くの不定性があったことから、理論シミュレーションによって数多くのモデルを計算して観測と比較したとのこと。その結果、観測に適合するモデルのCO2量は、太陽系でCO2を最も多く含む大気を持つ金星に匹敵することが突き止められたとした。つまり今回の研究成果は、スーパーアースの大気組成が従来の2説とは異なる特性を持つものもあることを示すものであり、惑星形成理論に加え、場合によっては地球外生命の探査などにも新たな視点を提供する可能性があることがわかったのである。
理論シミュレーションを主導した大野特任助教は、今回の研究について「観測で検出されたCO2の信号は微弱で、それが本物であることを確認するためには慎重な統計解析が必要でした。加えて、検出されたCO2の信号から雲の下の大気組成を探るには、理論シミュレーションによる徹底した物理・化学的考察が必要でした」とコメントしている。なお研究チームは今後、さらに多くの似たサイズの系外惑星を観測することを計画中としている。