キヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)は10月28日、オンラインで「2024年事業説明会」を開催した。説明会には同社 代表取締役社長の金澤明氏らが出席し、プレゼンテーションを行った。

ITソリューション事業の売り上げ3000億円を1年前倒しで達成

冒頭、金澤氏は「キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)グループでは、2022年度~2025年度を対象とした中期経営計画において、3つの基本方針の核となるITソリューション事業の単年売上3000億円を目指す、利益を伴った事業の拡大に取り組んでいる。その中でキヤノンITSはグループにおけるITソリューション事業のけん引役としての役割を期待されている」と述べた。

  • キヤノンITS 代表取締役社長の金澤明氏

    キヤノンITS 代表取締役社長の金澤明氏

同社は、大手企業から準大手・中堅企業の経営課題や社会課題の解決に貢献するため、最適なITソリューショをパッケージやシステムインテグレーション、サービスで提案するビジネスを展開している。現在、キヤノンMJの2025年におけるITソリューション事業の売り上げ3000億円を1年前倒しで達成する見通しとなっており、キヤノンITSの2024年着地見通しは当初計画を上回る見込みだという。

金澤氏は「2022年~2023年にかけてキヤノンITSは、SI案件の大型化や車載システム開発、データセンターサービスの成長、ITインフラの大型案件の複数受注により、実績を伸ばすことができた。2024年もSIおよびITインフラ構築に加え、文教向け大型案件の獲得により、堅調に成長を続けている」と力を込めた。

  • キヤノンITSが成長をけん引しているという

    キヤノンITSが成長をけん引しているという

同社では、2021年に2025年に同社がありたい姿や事業モデルを「VISION2025」を発表し、先進ICTと元気な社員で未来を拓く共想共創カンパニー」を掲げている。共想共創カンパニーは、エンゲージメント経営により経営基盤を強化し、顧客の想いを起点に「サービス提供モデル」「システムインテグレーションモデル」「ビジネス共創モデル」の3つの事業モデルを展開すると位置づけている。

  • 「VISION2025」の概要

    「VISION2025」の概要

3つの事業モデルに加え、スマートSCM(サプライチェーン管理)、エンジニアリングDX(デジタルトランスフォーメーション)、車載(SASE:Secure Access Service Edge)、金融CX(顧客体験)、アジャイル開発プラットフォーム、クラウドセキュリティ、データセンターを重点領域とし、2025年の売上計画の25%以上を担うことを目標としている。これに伴い、社内では共想共創人材や高度IT人材育成のほか、M&A(合併・買収)、資本業務提携に積極的な投資を行っている。

3つの事業モデルの進捗状況

続いて、金澤氏は3つの事業モデルの進捗状況に話を移した。まずはサービス提供モデルについて。同モデルでは、業種・業界に特化したサービスの提供やクラウドセキュリティのラインアップ拡充、先進技術を活用したサービスを創出しつつ、市場への訴求力を強化。売上実績は2024年計画比3%増で進捗しており、2025年の目標達成向けて新サービスの定着、案件規模の拡大が重要だとしている。

ITインフラサービス「SOLTAGE」では、今年に脆弱性情報提供サービスやランサムウェア対策ソフト、個人情報漏えい対策、ゼロトラストセキュリティ対応などのサービスを拡充。また、文教向けとして教職員の業務を効率化する公立小中学校向けサービス「in Campus School IS」や、画像AI連携プラットフォーム「Bind Vision」を訴求している。

  • サービス提供モデルの進捗

    サービス提供モデルの進捗

システムインテグレーションモデルでは、企画・設計構築・運用・保守にいたるITライフサイクルをフルサポートする案件やシステム構築を上流工程から参画するプロジェクトなど案件の大型化が進んでいるという。2024年の売上実績は計画通りに進捗し、2025年の目標達成には受注済案件の進行と生産性の向上が重要とのことだ。

化学メーカーに対してサプライチェーン計画ソリューション「SCPlanet」を導入してシステム化したほか、自動車・建機メーカーとは制御ソフトウェアでシミュレーション技術を活用したモデルベース開発など、車載領域のビジネスを拡大している。

  • システムインテグレーションモデルの進捗

    システムインテグレーションモデルの進捗

ビジネス共創モデルでは、DXビジョンの立案に向けたコンサルティングを中心に実績を積み重ね、同モデルの取り組みの後続となる開発案件につなげており、売上実績は2021年の10倍に拡大。

教育業ではDX戦略の策定から企画・設計・構築・実装をトータルで支援しているほか、流通業ではDX戦略の策定ユア業務効率化、予測ロジックの開発を支援している。また、DXに関する独自の調査を実施し、市場の実態を正確に把握して今後の活動に反映していく方針だ。

  • ビジネス共創モデルの進捗

    ビジネス共創モデルの進捗

こうした3つの事業モデルを支えるために研究開発にも取り組んでいる。同社が強みを持つ数理技術やソフトウェア技術、言語処理技術、映像解析技術をSCPlanetやBind Visionといったソリューションに適用。

さらに、映像解析技術/AI技術を表情の映像からストレス状態を推定する「顔映像解析によるメンタルヘルス状態推定技術の検証」を学会で発表するなど、新たなサービスとして準備を進めるとともに物体の検出や識別、人の作業検知などへの適用も検討している。

そのほか、NPS(Net Promoter Score)を指標とした推奨度調査や顧客接点に応じた満足度調査を実施し、継続的な改善に取り組むと同時に社員の行動変容につなげるほか、社員のキャリア形成支援の強化など、顧客、社員双方とのエンゲージメントを高めていく。加えて、中期経営計画と連動したサステナビリティ戦略のもと「ビジネス領域」と「ソサエティ領域」において8つの戦略を掲げて、取り組みを進めている。

VISION2025の最終年度に向けては「サービスシフトの加速」「システムインテグレーションの質的転換」「エンゲージメント経営の強化」の3つを重点テーマに定めて取り組む。これにより、全社の売上目標を2021年比で1.5倍、サービス提供モデルの売上を同2倍、ビジネス共創人材を同5倍に拡大していく考えだ。

  • VISION2025の最終年度向けた重点テーマ

    VISION2025の最終年度向けた重点テーマ

脱メインフレームを支援 - マイグレーションを強化

次に、キヤノンITS 常務執行役員 デジタルイノベーション事業部門担当の村松昇氏がマイグレーション事業の戦略について解説した。同社のデジタルイノベーション事業では、取り組みのうちの1つとして、いわゆる「2025年の崖」に伴うレガシーシステムを独自の開発ツールや専門人材でマイグレーションを行っている。

  • キヤノンITS 常務執行役員 デジタルイノベーション事業部門担当の村松昇氏

    キヤノンITS 常務執行役員 デジタルイノベーション事業部門担当の村松昇氏

村松氏は「お客さまの現状として、メインフレームを含む期間システムの刷新は2021年~2023年の3年間変化がなく、未着手の企業が58%となっており、検討が進んでいない。これはメインフレーム技術者の不足や高齢化、システムの複雑化・ブラックボックス化、特にメインフレームの維持費が高額であることに起因する。これに加えて、システム更新の期限が課題となっている」と指摘。

同社の調査によると、メインフレームの維持・運用費はハードウェアとソフトウェアの合計で6600万円、年間で約8億円を要し、人材は維持している企業は平均で26人、51人以上で維持・運用している企業は全体の20%以上になっているという。

同氏は脱メインフレームについて「メインフレームのレガシー環境を当社のマイグレーションにより、最新のプラットフォームにしてDX Readyな状態にする。これよりコストダウンし、そのお金と時間をDXの投資に振り向けることが可能だ」としている。

  • マイグレーションによる脱メインフレームの概要

    マイグレーションによる脱メインフレームの概要

方法論としては、現行機能のまま同じ言語(COBOL to オープンCOBOL)で移植を行う「リホスト」、現行機能のまま異なる言語(COBOL to Java)に置き換える「リライト」、業務プロセスの見直しを含めた再構築(COVOL to ピュアJavaなど)を行う「リビルド」の3つの手法があり、同社はリホストを推奨している。

リホストが向いているパターンは、更新の期限が差し迫り、社内のITリソースやスキルが限られ、ROI(投資収益率)を確保したいと考えている状態だという。リホストは短期間であり、現行業務を解析しなくてもツールで移行を可能としており、手法が確立されているため低リスクかつ低コストといったメリットがある。

  • マイグレーションの手法

    マイグレーションの手法

一方で、リホストを実施するうえでの課題は難易度の高いプロジェクトを推進しなければならず、技術・ノウハウの不足、相対的にコストが低いとはいえ大掛かりなプロジェクトになることから、高コストになりやすいという側面があるという。

その点、同社の強みは100%自動変換を目指すツールを備え、ITコンサルタントとプロジェクトマネージャー、エンジニアのスペシャリストが支援し、30年で120件のマイグレーション実績を持つということにある。

  • キヤノンITSにおけるマイグレーションの強み

    キヤノンITSにおけるマイグレーションの強み

そして、10月28日にはメインフレームと互換性の高いシステム基盤ソフトウェアの提供を開始。これは、メインフレームからオープン環境へのマイグレーションツールを拡充し、自社開発したマイグレーション用のオンライン基盤ソフトウェアだ。

  • オンライン基盤ソフトウェアの概要

    オンライン基盤ソフトウェアの概要

メインフレームのオンライン制御機能(IBM:CICS、IMS、NEC:VISⅡ、富士通:AIM)を代替するプラットフォームとして、保守サポートを含むサブスクリプションで提供する。価格は税別で月額75万円~。メインフレームと同等のアプリケーションインタフェースの提供により、オンラインプログラムの修正を最小限にし、メインフレームと同じ処理を実現するという。

また、富士通では2030年にメインフレームの販売を終了予定のため、富士通メインフレーム向けツールの機能も拡充。富士通MSP特有の言語記述や機能に対応。

特にオンライン処理のAIM/DC、データベース処理のAIM/DBを中心に機能拡充を図り、移行性を高めることで富士通MSPユーザーに従来以上に高品質かつ低リスクのマイグレーションを提供する。

  • 富士通MSP向けツールも機能を拡

    富士通MSP向けツールも機能を拡充

今後、生成AIの活用による生産性の向上を図るとともに、2027年の売上目標は2023年比400%の成長を計画している。