キヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)は11月17日、オンラインで事業説明会を開催した。説明会では2025年に向けた事業戦略と2023年の取り組みに加え、同日に提供を開始したサプライチェーン計画ソリューション「SCPlanet」を紹介した。

「VISION2025」の進捗

同社では、2021年に2025年に同社がありたい姿や事業モデルを「VISION2025」として発表し、キヤノンマーケティングジャパンが目指す、ITソリューション事業の3000億円という目標に対して、キヤノンITSは2023年当初計画から年平均成長率(CAGR)13.5%を計画。

キヤノンITS 代表取締役社長の金澤明氏は「達成は容易ではないが、2023年の着地見通しは当初計画を上回る見通しとなっており、勢いを引き継いで利益ある成長を続けていく。また、M&Aや資本提携なども含めて市場への提供価値の拡大も継続し、キヤノンMJグループ内における当社の売上構成比率を高め、ITソリューション事業をけん引する」と力を込めた。

  • キヤノンITS 代表取締役社長の金澤明氏

    キヤノンITS 代表取締役社長の金澤明氏

引き続き、同社は「共想共創カンパニー」として「サービス提供モデル」「システムインテグレーションモデル」「ビジネス共想モデル」の3つのモデルを軸に事業に加え、顧客と社員を含むエンゲージメント経営により経営基盤を強化している。今年10月にはスーパーストリームを吸収合併するなど、組織体制の整備にも着手している。

重点領域にスマートSCM(Supply Chain Management)、エンジニアリングDX(デジタルトランスフォーメーション)、車載(CASE)、金融CX(顧客体験)、アジャイル開発プラットフォーム、クラウドセキュリティ、データセンターの7つを位置づけ、従来事業を成長させつつ、2025年の売上計画の25%以上を担うことを想定。

各モデルの進捗として、サービス提供モデルは売り上げが2023年計画比でプラス5%のCAGRの進捗で推移し、サービスシフトに向けて、業種・業界に特化したサービスの提供や自社データセンターを活用したサービスの提供で市場への訴求力を強化し、ストックビジネスの比率を高めている。

ITインフラサービス「SOLTAGE」ではゼロトラストセキュリティの対応など、セキュリティサービスを拡充したほか、小中高向けサービスやAI検査プラットフォームなどを提供している。昨年末にはチエル、今年8月にはドクターズと資本業務提携契約を締結するなどM&Aなどの投資を拡大している。

システムインテグレーションモデルは、案件の大型化が進み、システム開発に加え、企画・設計など上流領域や運用・保守に対応し、2023年計画比でプラス4%増で売り上げが進捗。製造業の顧客において基幹システムの刷新や流通業の案件に参画している。品質管理の高度化と品質・生産性・開発スピードを重視した開発業務改革で安定したプロジェクト運営につなげているとのことだ。

ビジネス共創モデルは2021年からの累積案件数が6倍の見通しとなっており、顧客と新たなビジネス創出や事業拡大に取り組み、双方の企業価値向上、ビジネスの成長を実現するための活動を推進し、新たな案件獲得・大型化が進んでいるという。例えば、DXビジョン策定やDX実践・展開、DX定着化・CX改善などを教育や流通、建設業の企業と取り組んでいる。

また、エンゲージメント経営の取り組みについては顧客ロイヤリティに取り組む新組織を4月に設け、顧客と組織的な相互コミュニケーション活動を強化することで、顧客ロイヤリティの向上を進めている。社内において高度IT人材やプロフェッショナル人材の育成に向けて、ITサービス領域、マーケティング領域などの職種を新設。

さらに、サステナビリティへの取り組みとして中期経営計画と連動した戦略を策定し、Business領域でICTを通じた社会への価値提供、Society領域では社会からの要請・期待に対応していく考えだ。西東京データセンターは、高性能な設備と運営品質でCO2排出量削減に貢献していること加え、2号棟は「優良特定地球温暖化対策事業所」に認定されている。

上記の活動を通じて、同社は2025年の全社の売上目標を2021年比1.5倍、サービス提供モデルの売り上げを同2倍、ビジネス共創人材人数を同5倍に拡大していく方針だ。

  • 2025年の目標に向けた進捗状況

    2025年の目標に向けた進捗状況

VUCAの時代を乗り切る、製造・流通ソリューション事業部門の事業戦略

次に、同社が重点領域の1つに挙げているスマートSCMについて、キヤノンITS 取締役常務執行役員 製造・流通ソリューション事業部門担当の大久保晴彦氏が解説した。

同氏は事業を取り巻くの環境について「コロナ禍や紛争などサプライチェーンに影響を与えるリスクが増大し、エネルギー、原材料価格の高騰で業績への影響、顧客の購買行動の変化などにより、物流・配送の課題が鮮明になっており、VUCAの時代を迎えている。一方で物流クライシスや2025年の崖、カーボンニュートラルと言った、明確な課題への対応に向けたIT投資が進んでいる」という。

  • キヤノンITS 取締役常務執行役員 製造・流通ソリューション事業部門担当の大久保晴彦氏

    キヤノンITS 取締役常務執行役員 製造・流通ソリューション事業部門担当の大久保晴彦氏

こうした事業環境のもと、製造・流通ソリューション事業部門では新たな事業価値を共想共創で生み出し、固有の課題に対してシステム企画から開発、保守、運用まで最適なシステムを提供し、業種・業務の共通課題を解決する新たなサービスモデル提供モデルの創出を事業戦略に据えている。

大久保氏は「システムインテグレーションモデルを主軸にしつつ、ビジネス共創モデルとサービス提供モデルを拡大していく。ただ、IT人材が不足している状況をふまえて、SEに依存するシステムインテグレーションモデルからの転換は必要であり、業務標準化に向けたテンプレート施策を強化し、新規サービスのプラットフォーム創出を目指す。その中で、基幹業務トータールソリューション『AvantStage』と当社の数理・AI技術を組み合わせせ、サプライチェーン全体を最適化していくことが肝になる」と述べた。

  • 「AvantStage」の概要

    「AvantStage」の概要

サプライチェーン計画を最適化する「SCPlanet」

続いて、キヤノンITS 製造・流通ソリューション事業部門 製造ソリューション事業部 事業部長の岩男公秀氏がサプライチェーン計画ソリューション「SCPlanet」を説明した。同氏は「現在、サプライチェーン市場は大久保氏が指摘した物流クライシスや2025年の崖、カーボンニュートラルにとも兄、調達不可・遅延リスクや工程の制約考慮・属人化、操業停止・供給力不足、在庫過剰・欠品リスクなど、先が見えない状況対して需要波動、不足自体に対応する重要性が必要」との認識を示す。

  • キヤノンITS 製造・流通ソリューション事業部門 製造ソリューション事業部 事業部長の岩男公秀氏

    キヤノンITS 製造・流通ソリューション事業部門 製造ソリューション事業部 事業部長の岩男公秀氏

計画業務のサイロ化や計画担当の属人化・職人化・過負荷、そしてメンテンナスできないほどのExcelで作成された計画表など、各社で共通の課題と抱えているのが実情のようだ。このような制約条件や限られた状況・余力を把握したサプライチェーン計画の最適化が必要だという。

そのため、同社ではSCPlanetを提供することで、サプライチェーン計画の最適化を支援する。同サービスは生産・物流計画の中核となるPSI(入庫・出庫・在庫)計画を中心とした計画ソリューション。

  • 「SCPlanet」の概要

    「SCPlanet」の概要

これまで同社が培ってきた計画系システム開発の経験/技術/ノウハウを共通フレームワークとしてSIコア化したプラットフォームであり、独自の数理技術を活用することにより、多段階/多拠点の生産・物流工程におけるPSIの状況を把握し、自動的に各拠点各工程での生産と補充のタイミングを決定することができるという。

  • 「SCPlanet」の導入活用イメージ

    「SCPlanet」の導入活用イメージ

パッケージシステムのような機能はなく、既存システムに柔軟に連携し、固有の業務形態、制約条件すべてに対応できるように設計されている。ターゲットは製造業、流通業で年商規模が500億円~、提供価格は個別見積となる。SCPlanetはAvantStageファミリーに追加し、2025年にAvantStage全体で100億円超を目指す。