花王は12月7日、広視野で多数の皮膚毛細血管を撮影し、深層学習を用いて毛細血管の数や面積を算出する技術を開発し、同技術を用いて、実際の肌における毛細血管の個人差や部位差、刺激への応答性の違いを確認することに成功したと発表した。

  • 今回の研究の概要

    今回の研究の概要(出所:花王プレスリリースPDF)

同成果は、花王 解析科学研究所・ヘルス&ウェルネス研究所、千葉大学 フロンティア医工学センターの羽石秀昭教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、国際光工学会が刊行する生物医学に関する光学全般を扱う学術誌「Journal of Biomedical Optics」に掲載された。

ヒトの身体において、すべての血管を1本につなぎ合わせるとその総延長は約10万km(地球2周半)にも及ぶとされ、そのうちのおよそ9割を占めるのが毛細血管だ。毛細血管は、全身に網目状に張り巡らされており、細胞や組織との接点として、動脈を通って運ばれてきた酸素や栄養を受け渡すと同時に、細胞・組織からの老廃物を受け取って静脈へと送る役割を担う。

皮膚の毛細血管の状態は生活習慣や疾患によって変化することが知られており、皮膚の上からでも観察が可能なため、花王ではその評価が肌や全身の健康状態の把握に利用できる可能性があると考え、研究を進めているとのことだ。

毛細血管は、読んで字のごとく毛髪の10分の1程度と非常に細いため、顕微鏡で観察することが一般的だ。しかし、高倍率で拡大すると視野内の毛細血管の数は限られてしまう。その一方で、毛細血管の形や内部の血流状態はばらつきが大きいため、評価の観点ではある程度の数を一度に捉える必要があるとする。

そこで今回研究チームは、広い視野と、微細な構造を捉えられる解像度を両立し、一度に多数の皮膚毛細血管を撮影できる装置の開発に取り組んだという。さらに、得られた画像から皮膚毛細血管を検出して定量化する解析方法も検討したとしている。

広い視野と微細構造を捉えられる解像度を両立するには、大きな画素数の画像を撮影できることが重要となる。そこで今回は、4K画質(3840×2160画素)よりも高画素数(4000×3000画素)のカメラに最適なレンズや照明を組み合わせたとのことだ。

また毛細血管自体は透明なため、位置や構造を観察するには血管内に流れる血液を目印にする必要がある。しかし、毛細血管の血流は断続的で常に血液が充満しているわけではないことから、ある時点の画像1枚では全貌を捉えることはできない。そこで新技術では、動画で同じ場所を撮影し、その画像を重ね合わせることで、血流の軌跡から毛細血管領域のつながった画像を得ることを目標として設定。デバイス本体は、肌に押し当てて撮影することが容易なハンドヘルド型にしたという。こうして開発されたデバイスで肌を撮影し、画像処理の方法を種々検討した結果、視野全体で多数の毛細血管を一度に可視化することに成功したという。

  • 今回開発されたデバイス

    今回開発されたデバイス(出所:花王プレスリリースPDF)

  • 今回開発されたデバイスで撮影された皮膚毛細血管画像とその拡大図

    今回開発されたデバイスで撮影された皮膚毛細血管画像(左)とその拡大図(右)(出所:花王プレスリリースPDF)

また、毛細血管の状態と肌や組織の状態の関係を調べるためには、画像から血管の数や面積などを適切に算出し定量化する必要がある。そこで研究チームは、深層学習を用いて、画像から毛髪やシミなどを不要な要素として区別し、膨大な数の毛細血管を自動的に検出するAIを開発したとのことだ。

なお、撮影された2つの画像例について、手動で毛細血管領域を白く塗った画像と、深層学習による自動抽出画像の比較を行った結果、毛細血管を検出できていることが確認できたという。これにより、1000本以上の毛細血管の数や面積を自動的に算出・定量化することが可能となったとしている。

  • 毛細血管画像の部分拡大と、手動および深層学習による血管領域抽出結果

    毛細血管画像の部分拡大(左)と、手動(中央)および深層学習(右)による血管領域抽出結果(出所:花王プレスリリースPDF)

そして研究チームは、今回開発されたデバイスを用いて4名の被験者の前腕内側部を撮影し、毛細血管数の算出を行った。その結果、同一人物でも数センチ離れた場所では値が異なること、部位ごとの平均値は個人ごと異なることが明らかになったとする。

また、テープで4名の前腕内側部7か所で角層を数回剥離して軽微な炎症に似た状態を擬似的に作り出し、その前後においても比較を行ったとのこと。すると、毛細血管の数や面積が変化すること、その変化は個人ごとに異なることが判明。これは、同じ環境変化に対する血流の応答が個人ごとに異なる可能性を示しており、同じ刺激で肌状態が悪化・改善する人の違いや、スキンケアの効果の違いなどの理解につながると考えられるとした。

  • 刺激前後における毛細血管数の変化

    刺激前後における毛細血管数の変化(出所:花王プレスリリースPDF)

研究チームは今後、今回開発された皮膚毛細血管の画像解析技術を用いて、個人ごとや、同一人物でも部位ごとの皮膚毛細血管の評価を行い、肌や健康状態、製品使用後の変化との関係を調べることで、最適なスキンケアやヘルスケアなどの提案ができるようになることが期待されるとしている。