九州大学(九大)、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、神戸大学、東京大学(東大)、早稲田大学(早大)の5者は10月11日、高温で乾燥していた時代として知られる中生代・三畳紀(約2億5190万年前~2億130万年前)の中で、約200万年にわたって降雨量が劇的に増加した「カーニアン多雨事象」が生じた理由について、大規模な火山活動が引き金となって起こったことを明らかにしたと共同で発表した。

同成果は、九大大学院 理学研究院の冨松由希助教、同・佐藤峰南助教、同・尾上哲治教授、JAMSTECの野崎達生グループリーダー代理(神戸大大学院 理学研究科 客員准教授兼任)、東大大学院 工学系研究科システム創成学専攻の髙谷雄太郎准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

地質時代的に、三畳紀は中生代(約2億5190万年前~約6600万年前)の3つうちの最初の“紀”で、大きく前期、中期、後期に時代が区分されている。さらに、その後期はカーニアン(約2億3700万年前~約2億2700万年前)、ノーリアン、レーティアンの3つに区分され、カーニアンは約2億3200万年前を境として前期と後期に分けられる。その境を挟んだ前後期にまたがる約200万年の間に起きたのが、長い雨の時代であるカーニアン多雨事象だ。

三畳紀は総じて高温で乾燥した気候だったにも関わらず、200万年も続いた雨の時代というカーニアン多雨事象は奇妙な気候変動として知られ、その痕跡は世界各地の地層から発見されている。最近の研究によって、同事象の原因が、現在の北米北西部のランゲリア洪水玄武岩や、日本やロシアに分布する玄武岩を生じさせた火山活動だった可能性も指摘されている。

  • 後期三畳紀カーニアンの地球の姿。

    後期三畳紀カーニアンの地球の姿。超海洋パンサラッサ海において大規模な火山活動が起こり、これが引き金となりカーニアン多雨事象が誘発された。この時に噴出した大量の玄武岩の岩体は、海洋プレートの移動により分裂し、現在は日本、極東ロシア、北米北西部などに分布している。グレーで囲われた領域は、今回の研究で対象とされた研究地域のチャートの堆積場を示す。(出所:九大・東大プレスリリースPDF)

またカーニアン多雨事象に伴い、陸上では哺乳類が出現したり、恐竜が爆発的に多様化したり、植物相の変化が起こったりするなど、同事象が陸上生物にとって大きな転換期だったことが明らかにされている。その一方で、海洋においては、原始的な脊椎動物の一部と考えられる「コノドント」や、アンモナイト類の一部などの海洋生物の絶滅が報告されているものの、その原因については解明されていなかった。

そこで研究チームは今回、カーニアン多雨事象の原因と海洋生物に与えた影響を解明するため、日本の5つの地域(大分県佐伯市、京都府南丹市、岐阜県山県市、岩手県下閉伊郡、岐阜県坂祝町)のカーニアン時代に堆積した地層を対象に、当時の超海洋である「パンサラッサ海」の深海底で堆積した岩石のチャート(SiO2を主成分とする珪質堆積岩の総称)の研究を開始したという。

  • 今回の研究対象となった地域の位置(大分県佐伯市、京都府南丹市、岐阜県山県市、岩手県下閉伊郡、岐阜県坂祝町)。

    今回の研究対象となった地域の位置(大分県佐伯市、京都府南丹市、岐阜県山県市、岩手県下閉伊郡、岐阜県坂祝町)。これらの地域に露出したカーニアン時代の岩石であるチャートが研究対象とされた。(出所:九大・東大プレスリリースPDF)

そして5地域で採取されたチャートに対し、JAMSTECが所有する、元素の濃度や同位体比を求めるために使用するマルチコレクター誘導結合プラズマ質量分析装置を用いた分析が行われた。その結果、地球内部のマントル物質に特有の低いオスミウム同位体比が、全地域の前期カーニアンのチャートから検出されたとする。

研究チームによると、このことは大規模火山活動に由来するオスミウムが海洋中に大量に供給されたことを示すという。つまり、5つの地域から火山活動の痕跡が見つかったということは、当時のパンサラッサ海の広域で巨大火成岩岩石区を形成するほどの大規模な火山活動が発生したことを意味するのである。また、この大規模な火山活動は前期カーニアンの後期に発生し、前期を終わらせたこと、またカーニアン多雨事象を誘発したことも確認された。

さらに、研究地域の地層から、火山活動の末期(前期カーニアン末期)に深海底が無酸素化した証拠が、貧酸素~無酸素環境で堆積物に濃集しやすいバナジウムやウランなどの元素濃度の変化から確認された。この海洋無酸素化は、当時の海洋の浅海域にまで広がっていた可能性があるという。

  • オスミウム同位体分析および元素の濃集率(平均的な大陸地殻の元素濃度を1とした時の各元素の濃集率)から明らかにされた、カーニアンの火山活動と海洋無酸素環境への変化、およびコノドント絶滅の年代関係。

    オスミウム同位体分析および元素の濃集率(平均的な大陸地殻の元素濃度を1とした時の各元素の濃集率)から明らかにされた、カーニアンの火山活動と海洋無酸素環境への変化、およびコノドント絶滅の年代関係。大規模火山活動は、前期カーニアンの末期にピークを迎え、それと同時期に海洋における無酸素環境の拡大やコノドントの絶滅が起こったことが明らかにされた。(出所:九大・東大プレスリリースPDF)

またチャートから産出する化石の研究からは、無酸素化と同時期にコノドントの多様性が著しく低下し、前期カーニアンに生息していたほとんどの種が絶滅したことが判明。これらの結果から、大規模火山活動の末期に起こった海洋の無酸素化が、コノドントを含む海洋生物を絶滅に導いた可能性が示されたとする。

  • 今回の研究で明らかにされた三畳紀カーニアンの火山活動と海洋無酸素化、カーニアン多雨事象、コノドント絶滅の年代関係。

    今回の研究で明らかにされた三畳紀カーニアンの火山活動と海洋無酸素化、カーニアン多雨事象、コノドント絶滅の年代関係。火山活動の末期に起こった海洋の無酸素化によって、コノドントが絶滅したことが示された。(出所:九大・東大プレスリリースPDF)

今回の研究により、カーニアン多雨事象を誘発した大規模火山活動の期間が特定され、さらに火山活動の末期には、海洋の無酸素化とコノドントの絶滅が起こったことが明らかになった。しかし研究チームは、この海洋無酸素化が起こった詳細な理由については、まだ十分に解明できていないとする。また海洋においても、放散虫のように無酸素化の影響を受けず、逆に多様化した生物も確認されていることから、今後これら未解決の問題についての研究を進める予定だとしている。