東京工業大学(東工大)は10月27日、エタン(C2H6)ガスの中に炭素の同位体のうち13Cを2つ含む分子(13C2H6)がどれだけ存在するのか(13C-13C二重置換度)を精密に決定する分析法を開発し、実験室で無機的に合成したエタンは生物由来のエタノールや天然ガスに比べて13C2H6の存在度が明瞭に低いことを明らかにしたと発表した。

同成果は、東工大理学院 地球惑星科学系の田口宏大大学院生、同・アレキシー・ジルベルト准教授、同・上野雄一郎教授らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

近年の太陽系探査において、火星の堆積物や土星の衛星エンケラドスの噴出物から炭化水素などの有機分子が検出されているが、有機分子=生物由来とは限らないため、生命の痕跡なのか、それとも無機的な化学過程で合成された有機分子なのかを判別する必要がある。

その判別方法の1つが、有機分子の光学異性体のL型とD型の偏りを利用する方法だという(地球の生物はL型のアミノ酸しか利用しない)。しかし、生成から時間が経つことで、有機分子の構造の特徴が失われてしまう。それに対し、より単純な構造の有機分子は熱による変化や、経時変化は起きづらいが、分子構造による判別法を使うことはできないという課題があった。

そこで期待されているのが、安定同位体比を活用した判別法だという。地球の炭化水素(メタンやエタンなどの天然ガス)は主に生物起源であり、堆積性有機物の熱分解で生成する場合と、メタン生成菌の代謝により作られる場合がある。しかし、一部の特殊な天然ガスは無機的にも生成されると考えられている。

炭化水素が生物起源なのか非生物起源なのかを判別するため、これまで炭素の安定同位体比(13C/12C)が用いられてきた。これまでの報告においては、熱分解でできたエタンや微生物起源のメタンは、無機的に生成された炭化水素と比べて13C/12C比が低いとされている。しかし、実際に分析すると、生物起源の炭化水素と非生物起源のもので近い13C/12C比を持つ場合もあり、安定同位体を用いた環境分子の起源推定には限界があったという。

そこで研究チームは今回、新分析法「同位体分子計測」を開発。炭化水素の起源判別ができるのかどうかの検証をすることにしたという。今回特に注目されたエタンは、3つの同位体分子種(12C2H612C13CH613C2H6)からなる。このうちの13Cを2つ含む分子(13C2H6)が、どれだけ存在するのか(13C-13C二重置換度)を精密に決定する独自の分析法を開発することにしたとする。