KDDIは10月27日、渋谷未来デザイン、渋谷区観光協会を中心に組成する「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」とともに、渋谷区内のさまざまな情報をデジタル空間上に再現し、分析や予測などを行うことでスマートなまちづくりを進める「デジタルツイン渋谷」をリアル空間とバーチャル空間が連動したプラットフォームとして拡張すると発表した。
それに伴い、同社主催で記者発表会と体験会が開催された。発表会には、KDDIの事業創造本部副本部長 兼 Web3事業推進室室長 兼 LX戦略部長の中馬和彦氏と渋谷区長の長谷部健氏、スマドリの取締役CMO元田済氏が登壇し、同プラットフォームのデモンストレーションが披露された。
本稿では、デジタルツイン渋谷の概要と体験会の模様をお届けする。
「デジタルツイン渋谷」とは、渋谷データコンソーシアムの参加企業などとともに、現実世界のさまざまな情報をデジタル空間上に集めて都市を再現する デジタルツイン技術を活用して、渋谷区民や渋谷区に関わるさまざまな人々、企業とともにスマートなまちづくりの実現を目指すプロジェクト。
従来の「デジタルツイン渋谷」では、自宅に居ながらも、アーティストのライブやアート展示、トークイベントなど「渋谷」らしいコンテンツを発信・体験できることをコンセプトに、先端テクノロジーとエンターテイメントを組み合わせることでバーチャルイベント会場とリアルな渋谷の街を連携し、同一コンテンツを表現するデジタルツイン (ミラーワールド) の2つの体験を提供していた。
今回の拡張により、リアル空間の環境をバーチャル空間上に再現するデジタルツインに、渋谷の街の写真や位置情報、ARを連動させることで空間を超えたコミュニケーションを実現することが可能になるという。リアル空間では、スマートフォンを街にかざすとバーチャル空間の参加者が街に現れ、また、バーチャル空間では、リアル空間の参加者がデジタルツイン内に現れる。
街の外観・店舗の内観・販売商品の陳列などは、衛星写真・航空写真・スマートフォンで撮影した写真などのデータから作成しており、空間同士の連動はVPS(Visual Positioning Service))技術で参加者の現在地や向いている方向を特定することで実現する。スマートフォンでの撮影のみで商品などを3D化できる手軽さと全国主要都市をカバーするVPSデータで、各地域へ短時間かつ低コストで展開していくことが可能だという。
実証第1弾としては、実際の街の中にあるアパレル店舗と商品をバーチャル空間に再現し、リアル空間の店員がバーチャル空間の顧客を接客する実証実験を実施する予定だという。
この内容は、今回の発表会でデモンストレーションも行われ、顧客は店員へ質問が可能なほか、気になる商品を指差して伝えるなど、実店舗での買い物と同様の自然な対話が可能な様子を見ることができた。
このように、「デジタルツイン渋谷」では、リアル世界の店舗にいる店員とバーチャル空間にいる顧客がまるで同じ空間にいるかのようにコミュニケーションを取ることができる。筆者もデモンストレーションの接客を拝見したが、会話もスムーズで、意思疎通も問題なく行えており、まさに未来の接客の形だと感じた。
店舗に訪れずに商品を買う方法はECサイトやネットショッピングといった方法があるが、これらのツールではサイズ感や自分の持っている他の服と合うかなどが分かりにくい部分もあり、せっかく買ったものの箪笥の奥に仕舞ってしまうというケースも少なくないだろう。
しかし、この実証実験では、店員が要望に合わせてコーディネートしたマネキンの画像を共有したり、SサイズとMサイズの大きさがどのくらい違うかを店員側に質問したりすることができるため、ありがちな「思っていたものと少し違った」という悔しい想いを回避できる。
この実証実験のほかに、元田氏、長谷部氏、中馬氏が発表会の舞台となったスマドリバー(渋谷区)で、リアル世界の元田氏と長谷部氏の元に中馬氏がアバターで現れるという「待ち合わせをする」というデモンストレーションも開催された。
元田氏は「デジタルツイン渋谷」を体験してみて、以下のような感想を述べていた。
「オンラインで会えるコンテンツと聞くと、Zoomなどのサービスを思い浮かべますが、それらは会いたい人と予定を合わせないと会えないというオンライン特有の難点もあります。しかし、この技術があれば偶発的に会うことができるため、よりリアルに近いバーチャル体験をすることができると感じました」
また、同じく「デジタルツイン渋谷」を初めて体験したという長谷部氏は、以下の言葉で発表会を締めくくった。
「ゴーグルをかけるのではなく、スマホなどからバーチャルとつなげられるのは新しいと思います。この技術を上手に活用していけば、コロナ禍でなかなか行えてない学生の職業体験などを実現したり、区役所に来なくても書類が出せるような仕組みを構成したり、そんな未来の渋谷を作り出せるのではないかと思います」