東京大学(東大)は7月25日、リング共振器をクロスバーアレイ状に集積した新方式のシリコン光回路を用いた光ニューラルネットワークの深層学習アクセラレータを実証することに成功したと発表した。

同成果は、東大大学院 工学系研究科 電気系工学専攻の竹中充教授、同・唐睿特任助教、同・大野修平大学院生(研究当時)、同・トープラサートポン・カシディット講師、同・高木信一教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行するフォトニクスに関する全般を扱う学術誌「ACS Photonics」に掲載された。

AI技術の進展に伴い、要求されるコンピュータの演算能力も指数関数的に増加しているが、半導体の性能向上をけん引してきたプロセスの微細化のスピードは鈍化しており、演算性能を高めていくための新たなコンピューティング技術が求められている。

そうした中で注目されている技術の1つが、シリコン光回路を用いた光ニューラルネットワークによる深層学習アクセラレータだという。同アクセラレータは光演算により、推論に必要となる積和演算を高速・低消費電力・低遅延に実行可能であることから、半導体の微細化に依らずAIの性能を向上できる技術として期待されている。

しかし、これまで提案・報告されているシリコン光回路上の光ニューラルネットワークは主に推論用途を想定しており、学習には使用できないという課題があったとする。

そこで研究チームは今回、新たなシリコン光回路の光ニューラルネットワークを用いて、学習に適用できる深層学習アクセラレータを提案することにしたという。

今回提案された光回路の光演算部は、シリコン光導波路をリング状にしたリング共振器がクロスバーアレイ状に配置された回路構成となっている。リング共振器は、特定の波長の光のみを入力方向とは垂直な方向に出力する特性を持つ。出力される光強度を電気信号で制御できることから、特定の波長の光に対してのみ重みに相当する値を掛けた積演算を実行することが可能だという。

  • リング共振器をクロスバーアレイに配置した光回路を用いた深層学習アクセラレータの模式図

    リング共振器をクロスバーアレイに配置した光回路を用いた深層学習アクセラレータの模式図 (出所:東大Webサイト)