歴史のある企業ほど、高い技術力を持った熟練技術者を多く抱えているものだ。彼らの技術力と経験こそが、生産現場を支えてきた原動力である。一方で、時代や環境の変化に合わせて、そうした生産現場も変わることを余儀なくされている。
現在、多くの企業が取り組むのが“生産DX”だ。ICTやデータ活用で生産現場を変革し、不確実な将来へと歩を進める強力な推進力を得るためである。しかし、生半可な取り組みでは生産DXを成功させるのは難しい。データ活用が現場に受け入れられなかったり、DX人財がいなかったり、何から手を付けていいか分からなかったりと、さまざまな課題が待っているからだ。
そうした課題に挑み、見事に生産DXを成功させた企業がコニカミノルタである。
6月23日、24日に開催された「TECH+ EXPO 2022 Summer for データ活用 データから導く次の一手」にコニカミノルタ 上席 執行役員 生産・調達本部 本部長 兼 SCM 担当の伊藤孝司氏が登壇。同社における生産DXの歩みについて語った。
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事業構造が変化しても変わらない「みせる」DNA
コニカミノルタといえば、フィルムやカメラといった製品で記憶している人も多いだろう。実際、経営統合でコニカミノルタになる以前から、同社の前身となったコニカもミノルタも創業事業は写真やカメラに関係するものだった。
しかし、事業を取り巻く環境変化もあり、同社は2006年に写真フィルム・カメラ事業から撤退している。2013年にはホールディングス制を廃止し、傘下7社を吸収するなど、組織体制や事業構造を変化させながら継続的に成長を続けているのだ。
現在は従業員数約4万人。約150カ国にセールス/サービス体制を持ち、顧客数は約200万にも上る。まさに巨大グローバルカンパニーと言える。
コニカミノルタの現在の事業は、大きく4つに分かれている。複合機とITサービスを提供するデジタルワークプレイス事業、デジタル印刷機器と関連ソリューションを提供するプロフェッショナルプリント事業、計測機器や材料コンポーネントを提供するインダストリー事業、医療用画像診断システムや遺伝子診断などプライマリケア関連サービスを提供するヘルスケア事業である。
一見すると脈絡がないようにも見えるが、全ての事業の根底に流れているのはコニカミノルタとしてのDNAだ。
「コニカミノルタは、お客さまの『みたい』に応え続けて社会課題を解決してきました」と伊藤氏は話す。
例えば、ヘルスケア分野では疾病やがんの徴候を「診せる」、商業印刷分野ではデジタル機器による高精細な印刷物や印刷工程を「見せる」、インダストリー分野ではものづくりの品質や人々の暮らしや産業での課題を「視せる」といった具合である。
創業から写真・カメラ事業を通じて培ってきた「みせる」ための技術と思想が、今も同社のDNAとして事業の根幹を支えているのだ。
時代変化に合わせた、生産DXを
そんな同社の最大の強みとも言えるのが「現場力」である。同社は生産現場における技術者の経験と技を基に、「材料」「光学」「微細加工」「画像」の4つの分野で他社に真似できないコア技術を磨いてきた。
一方で、「ものづくりを取り巻く環境は現在大きく変化しており、このままでは製品力やサービス力を維持できなくなる恐れがある」と伊藤氏は懸念する。
少子高齢化が進むと、人財の採用が難しくなり、これまで培ってきた熟練技術者の技能が継承できないかもしれない。あるいは、ウクライナ侵攻や中国のゼロコロナ政策のような“予想できない事態”がサプライチェーンに影響を与え、QDC(品質、納期、価格)が維持できなくなっている。
各時代で環境変化に柔軟に対応してきたコニカミノルタだからこそ、こうしたリスクを前に、“次”を見据えた改革の必要性を感じていたというわけだ。
そこで現在、同社が取り組んでいるのが、人・国・場所・変動に依存しないものづくり――デジタルマニュファクチャリング構想である。
すでに、同社はICTを現場に投入、生産プロセスの自動化などを進めてきた。さらに、自動化により生成されたデータを分析し、現場の判断やアクションに活用する試みも始めているという。
「デジタルマニュファクチャリングと現場力を融合させた生産プロセスの変革を、当社では広義の“生産DX”と定義しています」(伊藤氏)
もっとも、生産DX実現に向けた道のりは決して平坦なものではなかった。失敗を繰り返し、立ちはだかる壁を乗り越えながら、コニカミノルタ流のデータ活用のやり方と勝ち筋をつくってきたという。そんな同社の生産DXは、3つのステップで進められた。