人口の減少が進む昨今、ECの台頭なども影響し、実店舗を運営する小売業が厳しい環境にあることは否めない。こうした状況を打破するべく、大手ホームセンターの1つであるカインズではデジタルを中心に据えたビジネス戦略を進めている。

4月19日に開催された「ビジネス・フォーラム事務局×TECH+フォーラム DX Day 2022 Apr.ありたい姿を改めて定義する」で、カインズの代表取締役社長 CEOを務める高家正行氏が一橋ビジネススクール 国際企業戦略専攻 教授の楠木建氏と対談し、同社が進めるビジネス戦略とその背景にある考え方について語った。

  • 左から、カインズ代表取締役社長 CEO 高家正行氏、一橋ビジネススクール 国際企業戦略専攻 教授 楠木建氏

市場の成長がほぼ横ばいの今、新たな戦略を展開する理由

カインズが、前身となる「いせやホームセンター栃木店」をオープンしたのが1978年。いせやから分社してカインズとして設立したのは1989年のことだ。以来、カインズは日本のホームセンター業界をリードしてきた。

この30年余りの間に、ホームセンターを取り巻く環境は大きく変わった。同社も時代の変化に応じて戦略を変えており、良い商品を安く仕入れて販売した第1創業期、SPA(Specialty store retailer of Private label Apparel:製造小売業)に拡大した第2創業期を経て、2019年より第3創業期としてデジタルを柱の1つに据えた新しい戦略を進めている。

第3創業期として事業を再構築する背景について、高家氏は次のように説明する。

「SPAで一定の成果は実現できていましたが、この頃からホームセンター市場の成長自体がほぼ横ばいになっています。もう15年以上、4兆円程度で止まっており、他業態からの参入もあります。オリジナリティの高い商品を出し続けても、店舗を拡大しても、長期的な成長や利益を創出し続けることは難しいと判断しました」(高家氏)

そこで、まだ持続的に成長できているうちに、次の価値を作っていくことに挑戦しようと考えたのだという。この経緯を聞いた楠木氏は「業績が悪くなっていないのに戦略展開に踏み切ることは極めて稀である」とした上で、DXありきではなく、「長期的な成長の手段としての戦略があり、その戦略の全体像の中の1つの手段や要素としてDXがある」点もカインズの特徴だとした。