名古屋大学(名大)は5月25日、酵素を用いないメッセンジャーRNA(mRNA)の完全化学合成法の開発に成功したことを発表した。

同成果は、名大大学院 理学研究科の阿部洋教授(糖鎖生命コア研究所 統合生命医科学糖鎖研究センター 分子生理・動態部門 教授兼任)、同・阿部奈保子特任准教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する化学と生物学の間のインタフェースを扱う学際的な学術誌「ACS Chemical Biology」に掲載された。

生命を営むのに必要な多種多様なタンパク質は、DNAが設計図ではあるが、直接DNAから作られるわけではなく、DNAからmRNAに読み取られ、そのmRNAを鋳型として生合成されることが知られている。

真核生物のmRNAは、3'末端にポリA鎖を持ち、また5'末端には7位がメチル化されたグアノシン(m7G)を含む「5'キャップ」と呼ばれる特徴的な構造を持つ。5'末端のキャップ構造は、3'末端のポリA鎖と相互作用し、翻訳反応開始や安定性の付与などに重要な役割を果たしている。

mRNAを医療に用いる技術が実用化され、新型コロナウイルスワクチンもSARS-CoV-2のスパイクタンパク質をコードしたmRNAを利用している。こうした長鎖のmRNAの合成は、通常はRNAポリメラーゼを用いて酵素的に行われているが、今回、研究チーム、mRNAを化学合成する場合に鍵段階となる、5'末端キャップ構造の構築法として、簡便で高効率な手法を開発することにしたという。