ビジネス環境が激しく変化する今、いずれの業界においてもDXの“波”が到来していることは言うまでもないだろう。金融業界もその例外ではなく、多くの企業がデジタル活用を経営戦略の重点項目として捉え、取り組みを進めている。オリックス銀行もそうした企業の一つだ。

2月17日に開催された「TECH+スペシャルセミナー DX推進から金融業界を変革する~『業務効率改善』と『新規事業の創出』の口火を~」に、オリックス銀行でデジタル戦略推進部長を務める吉田茂史氏が登壇。内製開発、業務を“システムに合わせる”こと、心理的安全性の3つのトピックを中心に、これまで進めてきたDXの成果と取り組みから得られた学びについて語った。

デジタル戦略「3つのコアビジョン」

オリックス銀行は設立28年目を迎える信託銀行だ。無店舗型という強みを生かし、非対面取引による好条件の金融サービスを提供している。

そんな同社は、デジタライゼーション、働き方改革、サステナビリティといったキードライバーを中期的経営戦略に掲げている。デジタライゼーションの中にはデジタイゼーションやDX(デジタルトランスフォーメーション)も含まれていると言い、この経営戦略の実現を支える柱の一つとして、「顧客との関係性深化のためのCX向上」「社内業務の生産性向上を図るEX向上」「新規事業創出へのチャレンジ」という3つのコアビジョンから成るデジタル戦略があるそうだ。吉田氏は「デジタルは活用することが大前提。その上で組織、働き方、人を変革していくために必要不可欠な取り組みがデジタル戦略だ」と、意図を説明する。

  • オリックス銀行 デジタル戦略推進部長 吉田茂史氏

内製開発から得た「課題」と「学び」

では、オリックス銀行は実際にどのようなデジタル活用を進めているのだろうか。講演では、コアビジョンの実現に向けた具体的なプロジェクトが紹介された。

吉田氏が1つ目に取り上げたのは、CX向上のために行った内製開発プロジェクトだ。

同社では数年前、4つの組織に部分最適化するかたちで、あるCRMツールを導入していた。しかし、ID管理で組織を越えた全体最適ができないという課題が出ていたという。一方、コールセンターなどでは外部ベンダーが開発したシステムを使用していたが、顧客の要望が増加。それに応じて新しい機能を作ろうとすると、費用面や時間面でコストがかかるといった問題も起き始めていた。

そこで、社内向けのシステムであるカードローン督促業務管理システムの内製開発に挑戦。従来複数のツールやシステムを用いて行っていた業務を1つのCRMツール上で完結できる仕組みを実現した。

「実際に使用するオペレーターの方々からは非常に好評でした。これまでは、時間をかけて要件定義して開発を依頼したのに、数カ月後に出来上がったものがイメージと違っていて、また修正に1カ月……というようなこともありました。(内製化したことで)そのようなことがなくなりました」(吉田氏)

このプロジェクトは、吉田氏が所属するデジタル戦略推進部のメンバーが半分常駐するようなかたちをとり、営業部門と一緒に進めたことで、「相互認識のズレを解消でき、スピード感のある成功につながった」と吉田氏は振り返る。

さらにシステムをリリースした後には、オペレーターからの要望を受け、「架電ヒット予測」という機能も実装した。オペレーターの架電履歴データから、時間帯別の架電状況を算出。それを有効活用することで、何時頃に電話をするとつながりやすいか予測できる仕組みだ。吉田氏は、「内製開発、アジャイルだからこそ生まれた面白いアイデアの一つ」と胸を張りつつも、「やってみたことで見えてきた課題もある」とし、内製開発エンジニアの育成や、システムの運用保守・品質担保の体制整備の難しさなどを挙げた。

一方で、取り組みから得た学びもあったと言う。

「うまくいった理由は、一人のエンジニアを専任にしたからだと思っています。少ない人数ではありますが、専任にしたことで自分がやっていくんだという気概が生まれ、それが小さな成果につながりました。この小さな成果が“最初の一転がり”としては大きなものだったのです」(吉田氏)